輝々(キラキラ)しまね・つくるはぐくむ地域ブランド6
厄介者のイノシシを地域資源に(美郷町)
安田亮(やすだりょう)さん:美郷町産業振興課課長補佐
品川光広(しながわみつひろ)さん:(株)おおち山くじら取締役
森田朱音(もりたあかね)さん:(株)おおち山くじら代表
地域の魅力を磨き上げ、キラキラと輝く島根のブランド。全国から注目を浴びる県内の取り組みを紹介します。
山くじらは「無限に広がるパズル」
「身の丈にあわせて一つずつ取り組みながら、自分たちも楽しむことが大切。
そこに光が生まれれば、人は集まってくる」と安田亮さん(左から6人目)と品川光広さん(同7人目)。
「おおち山くじら」を担う森田朱音さん(右から4人目)と稽亮(じ・りょう)さん(同5人目)も、その“光”に引き寄せられた
その昔は「山くじら」と呼ばれ、山間部の貴重なタンパク源だったイノシシ。脂の乗った冬のイノシシは鍋やジビエ料理として人気ですが、夏に捕ったものは「固くて臭い」と敬遠されてきました。
美郷町では、田畑への被害が大きい夏にこそイノシシを捕獲し、さらに地域の資源として活用しようと、住民と行政が一体となって「おおち山くじら」ブランドを創出。工夫を重ねながら、イノシシを資源化して田畑を守る仕組みづくりをしています。
夏場の駆除へ農家が奮起
国道沿いにある民家の裏手で、わなにかかった成獣のイノシシ。中型犬ほどの大きさですが、わなの鉄格子に体当たりして威嚇する姿は近寄りがたい迫力です。
「このサイズなら襲われると危険。作物の実る夏場の駆除こそ農家は望んでいるんだよ」とイノシシを引き取りに来た品川光広さんは話します。
平成16年、イノシシの被害に悩む農家らが狩猟免許を取得して「おおち山くじら生産者組合」を設立。品川さんも組合長として、夏のイノシシを資源化するべく捕獲や精肉の生産、販売に取り組んできました。
臭みのない肉にするためには、解体処理の時間短縮が鍵。イノシシを生きたまま加工場へ運べるよう、捕獲や搬送の仕組みを整えました。手間がかかるため、町ぐるみで取り組む例はほかにないといい「駆除に携わる人の理解があってこそ。地元猟師の縄張りにわなを仕掛けさせてくれるのも、よそでは考えられません」と品川さんはいいます。
戦う相手はイノシシじゃない
「私たちが戦っているのはイノシシじゃない。高齢化の波との戦いなんです」というのは、品川さんとともにブランド化を進める美郷町産業振興課の安田亮課長補佐。山くじら事業は単なる有害鳥獣対策や特産品づくりではなく、「地域資源を掘り起こし、未来へつながる町づくりをするのが目的」と話します。
イノシシの加工場には10年間休眠状態だった町営のカモ肉処理施設を使い、旧乙原保育所の建物には東京の食肉卸業者「クイージ」を誘致して缶詰製造を開始。イノシシ肉の惣菜加工や皮革製品の製造には、地元の女性が持つノウハウが生かされています。
安田さんは、イノシシの肉や皮の加工製造は生産者組合とは別の組織が担うよう支援。「すべてを組合で抱え込んでしまえば主役は一つだけ。『おおち山くじら』というパズルを小さなピースでつないでいけば、地域を担う主役を無限に広げていける」と話します。
水害を乗り越えて
生産者組合は昨年、株式会社化して新たなスタートを切りました。事業継承に向けて、地域おこし協力隊として若い担い手を募り、狩猟免許を持つ森田朱音さんが4年前にIターン。販売業務や商品開発などのノウハウを学び、共同代表として経営のバトンを渡されました。
今年7月には、江の川沿いにある加工場が豪雨で浸水したものの、近隣住民が機材の搬出や施設の洗浄に集結。1カ月以上かかると見ていた事業再開を2週間以上早められ、経営の危機を乗り越えました。
「おおち山くじらの取り組みは直接かかわる人だけでなく、地域の総力戦だとあらためて感じました」と森田さん。「山くじらを核に、いろんな人がかかわれる仕組みこそ財産。いろいろなスキルを持つ人と役割を分担しながら働ける私たちは、とても恵まれています」と話します。
再生のキーワード
- 夏のイノシシを地域資源として生かすことで駆除を進め、田畑を守り、農業従事者の意欲向上につなげる
- イノシシ肉の生産を通して地域に眠る人や施設などの資源を発掘・活用
- 派生する事業は別組織で取り組み、地域の主役を増やす
冷蔵庫に保管されているおおち山くじら肉
おおち山くじらの拠点としても活用する旧乙原保育所
皮革製品の製造には、町にあった縫製工場で磨いた腕が生かされている
「クイージ」でつくるおおち山くじら肉の缶詰
●問い合わせ先
株式会社おおち山くじら(TEL:0855・75・0887)
お問い合わせ先
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