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新春知事対談

地域とともに育む人、街、文化

島根県吉賀町六日市出身で2020年度の文化勲章を受章した彫刻家の澄川喜一氏。島根県芸術文化センター「グラントワ」(以下・グラントワ)の開館当初(平成17年4月)からセンター長を務め、県内の芸術文化の向上に大きく貢献されました。芸術を核にした街づくりや島根創生計画が掲げる人づくりなどについて丸山達也知事と語り合いました。


丸山達也知事・彫刻家澄川喜一氏の写真
丸山達也知事・彫刻家澄川喜一(すみかわきいち)氏


島根はもっと面白くなる

知事:文化勲章のご受章おめでとうございます。島根県民の皆さんにも大きな喜びをもたらしました。
また、グラントワを拠点に、芸術文化の発展にご尽力いただいていることから県民栄誉賞をお渡しすることにしました。

澄川:島根県生まれとしてとてもうれしいです。グラントワの石見美術館は、県内外の来館者を呼び込む企画を熱心に考えていて、地方の公立美術館としては、とてもよい実績を残しています。

知事:森英恵(はなえ)さんのコレクションを活用したファッションがテーマの展示など、新しいことにも取り組んでいますね。
また、住民ボランティアの方々が館内に花を飾ったりするなど、地域が親しみと誇りをもって支えてくれています。

澄川:それこそが文化。屋根と外壁に石州瓦を使った建物も、地域を上手にPRする無言の美しさがあります。益田駅前からグラントワへ広く真っ直ぐな道路が続き、電柱もなく、街もとても文化的です。グラントワは文化施設の見本だと思います。

知事:昨年も多数の作品を寄贈いただき、島根には日本有数の澄川コレクションがあります。作品の素晴らしさやご功績を紹介する企画を続け、もっと島根を知ってもらえるよう活用していきます。

澄川:島根を訪れたことのある東京の知り合い達は「とてもいい所だった」と言っています。島根は歴史もあるし魅力がたっぷりある。これからもっと面白くなるように思います。みんなでPRしましょう。

自然と環境と建築物

知事:先生は幼少期まで吉賀町六日市で過ごされました。清流日本一の高津川も、今よりさらにきれいだったでしょうね。

澄川:高津川の水源は湧き水。あれだけきれいな川は珍しいですよね。

知事:六日市にはコウヤマキの自生林も広がっています。デザイン監修された東京スカイツリーは、この木を模したのですよね。

澄川:ええ。コウヤマキというきれいな木を参考にしました。スカイツリーの足元は正三角形で、上にいくにしたがってどんどん細く丸くなっています。見る角度によってはひねって見えたり、曲がって見えたりしますよ。

知事:いつごろから美術の道へ歩もうと考えていましたか。

澄川:彫刻をやろうと思った原点は、岩国市の工業学校に通っていたときに見た錦帯橋。巧みな木組みで作られています。「そりのあるかたち」という作品を創っていて、錦帯橋は「そり橋」です。川と城山と橋のアーチとのバランスがよく、環境造形といって風景に合う形。自然と環境、そして錦帯橋という歴史的な建築物が大恩人です。

知事:「そりのあるかたち」というコンセプト。人がまねできない先生の芸術ですね。

澄川:日本刀も弧(こ)を描いています。刃を上にすると膨らみ、下にするとそる。そういう独特の曲線から発想を得て、作品は少しカーブしたり斜めにしたりしています。


作品を説明する様子
丸山達也知事に作品を説明する澄川喜一氏


郷土の偉人と恩師

澄川:進学で上京するとき学校の先生から「森?外(もりおうがい)と雪舟(せっしゅう)を持って行け」と言われました。当時、島根から東京に行くのは大変なことで「どこから来たのか」という雰囲気もありました。?外と同郷だと話すことで、島根出身ということに自信を持つことができましたね。

知事:今、島根創生計画でも人づくりに力を入れています。郷土の偉人の影響や恩師の存在は大きいですね。

澄川:ええ。東京芸術大学では、平櫛田中(ひらくしでんちゅう)先生の教室に入りました。「人のまねはするな」というのが、当時80歳の先生の最初の言葉。まねにおぼれることなく、アイデアは自分で探すことの大切さを学びました。

みんなで島根を盛り上げる

知事:新型コロナウイルスの影響が最小限となるように、今年も感染症対策や経済対策にしっかり取り組みます。その上で人口減少対策といった本来の課題にも立ち向かい、県民の皆さんが明るく過ごせる年となるよう尽力していきます。

澄川:今年11月には個展を予定していて、それに向けた新作を創ります。島根のためにできるだけのことはしますので、みんなで盛り上げましょう。

知事:大変心強いです。これからもよろしくお願いします。


抽象彫刻のパイオニア・澄川喜一氏

《TOTHESKY》の写真
TO THE SKY》2012年
御影石
東京スカイツリータウン(R)内「ソラマチひろば」
撮影:内海敏晴


澄川喜一(すみかわ・きいち)1931年、島根県六日市町(現吉賀町)生まれ。山口県立岩国工業学校(現岩国工業高等学校)卒業後、東京芸術大学彫刻科入学。平櫛田中(ひらくし・でんちゅう)と菊池一雄に学ぶ。81年、同大教授となり、95年には同大学長。2005年に島根県芸術文化センター長、翌年には東京スカイツリー(R)のデザイン監修者に就任した。日本芸術院会員、東京芸術大学名誉教授・顧問。


木彫の「そりのあるかたち」シリーズや東京スカイツリー(R)のデザイン監修など多彩な業績で知られる澄川喜一氏。空間に絶妙な均衡を生み出す造形を得意とし、「抽象彫刻のパイオニア」として、60年にわたり活動を続けてきた澄川氏の作品を紹介します。


《MASK》の写真
《MASK》1982年
樟・カランタス
島根県立石見美術館


《そりのあるかたちA》の写真
《そりのあるかたちA》2011年

島根県立石見美術館


《そりのあるかたち》の写真
《そりのあるかたち》2018年

島根県立石見美術館
撮影:山崎信一


《風門》の写真
《風門》1998年
御影石
島根県立美術館


《OROCHI》の写真
《OROCHI》2005年
御影石
島根県芸術文化センター「グラントワ」
撮影:山崎信一



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