しまね通vol.9
各分野のプロフェッショナルが、ゆかりの深い島根について語ります。
邑南町・スポーツアドバイザー・荻原健司さん
おぎわら・けんじ
北野建設スキー部ゼネラルマネージャー、長野県教育委員。1992年アルベールビル、94年リレハンメル両冬季五輪で金メダルを獲得。ワールドカップでは個人総合3連覇を含め通算19勝の成績を収め「キング・オブ・スキー」と称された。2002年の現役引退後、04年参院選で初当選し、10年まで1期務めた。長野県在住。
山も海もある島根の豊かな自然
長年スキー競技をやっており、山にはよく出かけますが、生まれ育った群馬県、今住んでいる長野県は「海なし県」なので、海がそばにある暮らしに昔から憧れていました。そのせいか、島根を訪れるたびに、山も海もある自然豊かな土地に心をひかれます。
2020年東京パラがつないだ縁
島根との交流のきっかけはノルディックウオーキングでした。これはフィンランド生まれのスポーツで、スキーストックのような2本のポールを持ち、地面を突きながら歩く運動です。誰でも簡単に始めることができ、健康づくりにもなるので、徐々に人気が高まっています。
このノルディックウオーキングの普及と啓発に取り組んでいた私に、邑南町から「2020年東京パラリンピックに向けて一役買ってほしい」と依頼がありました。町はゴールボール・フィンランド代表チームの事前合宿招致を目指しており、同国で生まれたスポーツに携わっている私が目に留まったようです。何度か島根を訪れて縁を感じていたこともあり、二つ返事で引き受けました。町内に招致の機運を盛り上げるため、16年からノルディックウオーキング教室の講師をしています。
離れて気付く古里の良さ
生まれ育った群馬県草津町は小さな温泉街です。遊ぶところもあまりなく、都会への憧れもあって、「この町を出たい」という気持ちを強く持っていました。スポーツを頑張れば都会の大学へ進学できると考え、スキー競技に打ち込み、高校時代には日本代表に選ばれました。そして、念願の東京の大学に進んだのです。
東京での生活は充実していました。しかし、忙しい生活の中で思い出すのは、古里の豊かな自然やおいしい食だったのです。それは、都会に身を置いたことで、初めて気付いた古里の良さでした。
もちろん、何かにチャレンジして、新しい世界を見ることはとても大切です。私も視野が広がり、人間的に成長できたと思います。島根の子どもたちも、進学や就職で進路の選択に直面する機会がやってきます。中には、私と同じように「田舎は嫌だ」と思っている子がいるかもしれません。しかし、新たな環境に身を置き、その土地のことを学ぶにつれて、古里に「ないもの」ばかりでなく、古里に「あるもの」も見えてくるはずです。その時にきっと、生まれ育った島根の暮らしや自然、文化のすばらしさに気付くことでしょう。(談)
講師を務めたノルディックウオーキングの教室で邑南町民と一緒に歩く荻原健司さん(右から3人目)
邑南町スポーツアドバイザーに就任(2018年5月)
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