しまね通vol.5
各分野のプロフェッショナルが、ゆかりの深い島根について語ります。
松江観光大使を務める作家・木原浩勝さん
きはら・ひろかつ
スタジオジブリ制作デスクを経て、平成2年に「新・耳・袋」で作家デビュー。「空想科学読本」シリーズといった書籍やイベントの企画プロデュースなど、マルチメディアプランナーとしても活躍する。新著に「九十九怪談第九夜」「もう一つの『バルス』」など。平成25年には「松江怪談談義」をスタートさせ、翌年松江観光大使に就任。東京都在住。
松江は「怪談のふるさと」
怪談を蒐集(しゅうしゅう)しており、以前から小泉八雲や松江には関心がありました。知人の紹介で八雲のひ孫・小泉凡さんとお会いしたのが、松江との縁の始まりです。凡さんと私の話を聞きたいと興味を持ってくださる方がいて、対談企画として公開しようと平成25年、「松江怪談談義」を開催しました。
そのとき私は、八百万(やおよろず)の神々が集う出雲と、妖怪の町づくりを進める境港に挟まれた松江は、八雲によって世界へ発信された「怪談のふるさと」だと訴えました。すると松江と八雲、怪談の関係を伝えやすいキャッチコピーだと松江市長に気に入っていただき、怪談で観光振興のお手伝いをすることになりました。
怪談のふるさと松江でもっと怪談を楽しんでもらおうと「松江怪喜宴(かいきえん)」をスタートさせ、そこに声優・茶風林(ちゃふうりん)さんを座長とする怪談朗読会「怪し会in松江」が加わりました。来場者の約9割を関東圏から呼び込み、形のない怪談も観光資源になりうることが示せたと思います。
見えないものを信じる心
怪談なんてまやかしだと思われるかもしれませんが、人って実は、見えないものを信じているんです。いいことがあれば「ご縁に導かれた」と感謝し、災いがあれば赦(ゆる)しを得ようとしたりする。見えないものを畏(おそ)れ、信じる精神性が日本には根付いていて、怪談はその一つの表れです。
松江の城下では築城時からの言い伝えを守って今でも盆踊りをしない、というエピソードが示すように、特に島根では「見えざるもの」が受け入れられています。妖精を信じるアイルランド、巨木や巨岩に神が宿るとするアニミズム信仰のあるアイスランドやスコットランドに通じる、とても希有(けう)な土地柄だと感じました。
未来の“資産”をつくる
「源氏物語」にもあるように、平安の昔から日本に怪談は絶えることなく存在してきました。島根の皆さんには地元の怪談を子どもたちに語り伝え、自分自身に起きた不思議な出来事は記録してほしいと思います。
私自身、松江で聞いた怪談だけで「百物語」を書くという夢を持っています。岩手の伝承が柳田国男によって「遠野物語」になったように、時代を超えて松江の資産にできるかもしれません。
(談)
小泉凡さんと対談した「松江怪談談義」
松江で聞いた怪談を収録した著書「九十九怪談」
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