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実事求是〜日韓のトゲ、竹島問題を考える〜

第33回

「大日本国全図」と自由先進党朴宣映議員の誤解

 

 2011年3月30日、2012年度から使用される中学校の社会科教科書の検定結果が発表され、そのほとんどで竹島を「日本の固有領土」とし、韓国に「不法占拠されている」と記載されたことから、韓国側の反発が強まっている。1954年9月以来、竹島を不法占拠する韓国側にとって、日本政府がこれほど明確な姿勢を示したことも少ないからだ。だがこの期に及んで、韓国側が急きょ竹島に海洋科学基地を建設し、防波堤の工事を急ぐのは、竹島を占拠する確固たる自信がないからである。

 現に韓国側の狼狽振りは、4月4日に開催された国会の「独島領土守護対策特別委員会」で、一部議員が李明博大統領の竹島訪問に言及した事実にも現れている。それは昨年(2010)11月、ロシアのメドベージェフ大統領が日本との間で領有権を争う北方領土(国後島)を電撃訪問したのに倣い、李明博大統領も竹島を訪れ、日本側を牽制すべきだとの思いからである。韓国側から見た日本の領土問題は、日本の領土的野心が原因とする歴史認識があり、断固とした姿勢をとることが効果的な対応と妄信しているからであろう。

 だが北方領土は1855年2月7日、「日露通好条約」によって日本領となり、韓国側でクリル諸島と報じられる千島列島も、1875年に締結された「千島樺太交換条約」で平和裏に日本領となった。南樺太は1905年、南下政策を続けるロシアと自衛の日露戦争を戦い、ロシアから割譲を得たもので、いずれも日本が実効支配していた。

 ところが1945年8月9日、ソ連(現在、ロシア)は日本と締結していた「日ソ不可侵条約」を一方的に破棄し、満州に侵攻したのである。ソ連の参戦は、広島と長崎に原爆が投下され、日本の敗戦が決定的になってからであった。それも千島列島最北端の守占島にソ連軍が侵攻するのは、日本が「ポツダム宣言」を受諾して4日後の8月18日。北方領土の歯舞群島が侵奪されたのは9月5日とされている。

 だが日本が受諾した「ポツダム宣言」の第8項では、「カイロ宣言ノ条項」が履行されるとし、その「カイロ宣言」には「領土拡張ノ何等ノ念ヲモ有スルモノニ非ス」と、領土の拡張が目的でないことが明記されていた。「カイロ宣言」で、日本が返還を求められた領土の中に、南樺太や千島列島、北方領土は含まれていなかった。ソ連の領土拡張は、明らかに「ポツダム宣言」の趣旨を無視した侵略行為なのである。

 韓国側では、北方領土問題を日本の領土的野心の結果と認識しているようだが、奪われた領土の返還を求めることが、どうして領土的野心となるのだろうか。

4月12日、竹島を訪問した李在五特任長官は、李明博大統領にも竹島訪問を要請するというが、それが実現すれば、ロシアのメドベージェフ大統領と同様、日本に対する挑発行為となる。なぜなら竹島問題は、北方領土問題と同じ歴史的性格を持っているからだ。

 竹島は1905年、「無主の地」であったリアンクール岩礁に竹島と命名し、北方領土や千島列島等と同様、敗戦の直前まで日本が実効支配していた。北方領土問題と竹島問題は、日本の領土を、隣国に奪われたという共通性があるのである。

 事実、韓国政府は1952年1月18日、突然、公海上に「李承晩ライン」を宣言し、竹島を韓国領とした。それも4月28日には「サンフランシスコ講和条約」が発効し、敗戦国日本が国際社会に復帰する三ヵ月前であった。

 その後、韓国政府は竹島に領土標識を立て、灯台を設置するなど、自らの不法占拠を正当化する動きを見せ、1954年9月には武力占拠して、現在に至っている。時系列的に鳥瞰した時、日本の固有の領土である竹島を侵奪したのは韓国である。それに韓国政府は、ソ連と同じ過ちを犯している。ソ連は、満州や千島列島、南樺太、北方領土で武装解除に応じた日本兵および軍属約70万人をシベリアに抑留し、厳寒の地で強制労働に駆り立てた。満足に食事も与えられず、共産主義化教育の中で、約6万人が餓死もしくは病死した。

 竹島問題にも悲惨な歴史がある。韓国政府は1953年12月12日、公海上に設定した「李承晩ライン」を根拠に「漁業資源保護法」を制定すると、日韓が国交を正常化する1965年までの間に、3000名近い日本人漁船員を拿捕抑留し、非人道的な扱いをしたからである。韓国政府はなぜ、公海上で操業していた日本人漁船員達を拿捕抑留したのか。

 戦後の日本には、数万とも数十万人ともいわれる朝鮮半島からの不法入国者がおり、朝鮮半島には朝鮮経済の八割から九割に当たる日本側資産が残されていた。韓国政府は、1952年2月から始まった日韓の国交正常化交渉で、抑留された漁船員の解放を求める日本政府に対し、不法入国者を含めた在日韓国人に日本在住の「法的地位」を与え、「財産請求権」の放棄を求めたのである。

 韓国政府の独島領土守護対策特別委員会は、韓国側が過去にこのような人質外交をした歴史を無視し、単純に竹島は韓国領と思い込んでいる。4月4日の独島領土守護対策特別委員会では、自由先進党の朴宣映議員が『大日本国全図』を公開し、日本の固有の領土論を批判しているが、何ら根拠のない地図や文献を掲げ、日本側を批判する手法は、竹島を韓国領と強弁した1950年代の韓国と同じである。朴宣映議員の説明では、『大日本国全図』は1880年に日本の内務省地理局で製作され、1883年に改定されているが、そこには欝陵島と竹島が描かれておらず、伊能忠敬の『伊能図』(1821年)にも竹島が載っていない。『大日本国全図』や『伊能図』に竹島が載っていないので、竹島を江戸時代から日本の領土であったとする「日本の固有領土論」は、成立しないというのである。

 だが世宗大学の保坂祐二氏から提供されたとする『大日本国全図』には、日本の「固有の領土論」を否定する証拠能力はない。なぜなら、国際法上、竹島が日本領となるのは1905年1月28日の閣議決定を経て、2月22日の「島根県告示第40号」によってである。その20年程も前に製作された『大日本国全図』に、欝陵島や竹島が描かれているかどうかなど、「固有の領土論」とは全く関係がない。それは日本に編入された1905年当時の竹島が、どこの国にも属さない「無主の地」だったからである。それ故、竹島は日本の「固有の領土」と言えるのである。

 そのため韓国側がすべきことは、竹島が「無主の地」ではなく、韓国領であったとする歴史的権原を明確にすることである。しかし韓国政府は、未だ竹島が韓国領であったとする証明をしていない。韓国側が根拠として取り上げる地図や文献は、いずれも『大日本国全図』の類だからである。だが韓国側は、これまでも何ら根拠のない文献や地図を掲げては、竹島の領有権を主張する日本に対し領土的野心、軍国主義の復活、日本の右傾化等を声高に叫び、日本の動きを封印しようと画策してきた。これは1954年9月、日本政府が国際司法裁判所に提訴すべく韓国政府に提案した際、外務部長官の卞栄泰が「韓国の再侵略を意味する」と拒否したことに起因する。それが半世紀をかけ、自ら虚偽の歴史を捏造しては日本の歴史歪曲と非難し、日本に「過去の清算」を求めるまでになったのである。

 韓国の政府機関である「東北アジア歴史財団」の竹島研究や、韓国の地方自治体と連携し、青少年を動員したVANK(VoluntaryAgencyNetworkofKorea)の対外宣伝活動、保坂祐二氏とともに活動する歌手金某が掲げる地図などは、その偽証の数々である。韓国側は、自国の領土でもない竹島を占拠し、日本政府の抗議を領土的野心として、感情的な反発をしているだけなのである。

 これと対照的なのが日本である。日本は1905年から終戦間際までの40年近く、確実に竹島を実効支配しており、実効支配していた事実を示す証拠もある。歴史の事実として、その竹島を1954年から不法占拠し続けるのは韓国である。それも竹島の領有権を主張する歴史的権原の無い韓国側が、日本が教科書に竹島問題を記述したからと言って、その対抗措置として海洋科学基地や防波堤などを竹島に建設し、それを実効支配の強化と錯覚することは許されない。これは1950年代、韓国が竹島に灯台を設置した所作と同じである。係争の地にいくら構造物を建てても、実効支配の強化にはならない。不法占拠はどこまでも不法占拠で、その事実は隠蔽することができないからだ。竹島は1952年以来、日韓の係争の地となっている。その竹島に海洋科学基地や防波堤を建造することは、犯罪者のアリバイ工作にも等しい行為で、自ら侵略国家であることを世界中に広報するものである。

 そこに今回は全く根拠のない『大日本国全図』を持ち出し、日本側の「固有の領土論」を大々的に批判して見せるパフォーマンスは、自国民をも誑かす、詐欺行為といわねばならない。韓国側では竹島問題と関連して、日本海の呼称を東海とし、日本の歴史教科書を歪曲と決め付けているが、そこにどれだけの歴史的根拠があるというのだろうか。

 だが竹島を占拠する歴史的権原がなくても、韓国側にはそれを無視し続けている現実がある。なぜなら、第二次世界大戦後、過去の歴史を反省した日本は、国際紛争を軍事力で解決することを禁じた憲法を制定したからだ。その憲法九条の存在は、竹島を武力占拠し続ける韓国側にとっては都合がよい。韓国側が何をしようと、日本からは軍事的報復を受ける憂慮がないからだ。そのため4月7日、韓国の国会では金滉植国務総理が「状況によっては、強力な軍隊を駐屯させる方案も検討する価値がある」と答弁し、12日、竹島を訪問した李在五特任長官も、「必要ならば海軍の海兵隊を(竹島に)駐屯させる」と述べるなど、恫喝まがいの発言をして憚らないのである。

 だが歴史を歪める者は、やがて歴史の審判を受けることを覚悟しなければならない。そろそろ韓国側も、「竹島の真実」を知るべき時にきているからだ。

(下條正男)


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