実事求是〜日韓のトゲ、竹島問題を考える〜
第28回
竹島問題と日本海呼称問題(韓国マスコミの国際世論工作)
韓国の英字新聞「コリアヘラルド」(電子版)は、毎週一回、「東海」をテーマにインタビュー記事の掲載を始めた。韓国政府は1992年以来、「日本海」の呼称を「東海」に改称すべく、国連地名標準化会議や国際水路機関を舞台に国際世論工作を進めてきた。コリアヘラルドの企画記事はその一環となるもので、すでに李泰明氏、アレクサンダー・B・マーフィーオレゴン大教授、ピーター・E・ラパー元国連地名専門家会議議長、ライナー・ドーメルスウィーン大学教授、李相泰韓国国際文化大学教授、ハンマオリー北京大学教授、ポール・ウッドマン元国連地名専門家会議メンバー、ピーター・ジョーダン氏等が協力している。
しかし問題は、韓国側が日本海の呼称を東海に改称しようとする背景には、1954年以来、韓国側が武力占拠する竹島の領有権問題があり、極めて政治的色彩が強いという事実にある。日本海の孤島である竹島(韓国名、独島)は、1905年、当時、無主の地であった竹島を国際法に基づいて日本領に編入した、日本の固有領土であったからだ。それが1952年1月18日、突如、韓国政府が公海上に「李承晩ライン」を設定し、竹島をその中に含めてしまったのである。それも第二次世界大戦の敗戦国日本が、「サンフランシスコ講和条約」の発効によって国際社会に復帰する3ヶ月前であった。そればかりか韓国政府は1953年12月12日、「李承晩ライン」を根拠に、1965年までに日本の漁船員約3000名を拿捕抑留し、人質外交を展開したのである。
その人質外交は、1952年2月から始まった日韓の国交正常化交渉で、威力を発揮することになった。韓国政府は日本政府に対し、第二次世界大戦後に日本に密入国した夥しい数の在日韓国人の法的地位を認めさせ、朝鮮半島に残された日本側資産の請求権を放棄させる外交カードとして、使ったからである。
今日、韓国側が「東海」の呼称に固執するのは、日本海という名称が使われると、占拠中の竹島が日本に属しているようで不適切だとしているが、実際は竹島問題の封印が目的なのである。
だが歴史的に韓国領であった事実のない竹島を自国領と主張すること自体無理があり、近代になって成立した「東海」の概念を古代にまで遡らせ、2000年来東海の呼称が使われていたと嘯くことは、国際社会を謀る欺瞞でしかない。
韓国側では、『三国史記』(「高句麗本紀」)に「東海之濱」の記述があることから、朝鮮半島では高句麗が建国した紀元前37年以来、日本海を東海と呼称した証拠とし、『東国輿地勝覧』の「八道総図」に東海の記述があるとそれを日本海に読み換えてきた。
だが「高句麗本紀」に記された東海は、中国の遼東半島付近の渤海を指しており、『東国輿地勝覧』の「八道総図」に見える東海は、沿海の海濤を祭る神祠の位置を示しているに過ぎない。韓国側では文献を恣意的に解釈し、日本海を東海と改称することで、竹島の不法占拠を正当化する一助としようとしているのである。
この韓国側の試みは、国際社会をいたずらに混乱させるだけでなく、韓国に対する国際信用度を損なうだけである。なぜなら、19世紀末までの韓国側の文献や古地図等に竹島が登場しない事実は、韓国側が竹島を認識していなかった証拠となるばかりでなく、日本海に対する認識も、朝鮮半島の沿海部に限られていたことを示しているからだ。
そこで韓国側は、「日本海の名称が支配的になったのは20世紀前半の日本の帝国主義、植民地主義の結果」と主張し始めたのである。それは日本が朝鮮半島を植民統治していた1929年、海図作成の指針となる国際水路機関の『大洋と海の境界』に日本海が載せられたことを指しており、韓国側では、韓国の国民感情が許せないとして、ナショナリズムを刺激することになるのである。
しかしこれも歴史的根拠はない。日本海の名称はすでに明治16(1883)年4月、日本の海軍水路局が刊行した『寰瀛水路誌』に採用され、水路部が明治27(1894)年に刊行した『朝鮮水路誌』でも踏襲されている。それに日本の水路部が19世紀後半に作成した海図には日本海と明記され、日本海は公式の呼称として、定着していたからである。
従って日本海の呼称が定着するのは、20世紀前半の植民地時代や領土拡張時代とする李泰明氏、ライナー・ドーメルスウィーン大学教授、李相泰韓国国際文化大学教授、ハンマオリー北京大学教授等は、虚偽の歴史に基づく韓国側の政治宣伝に加担した、協力者ということになるのである。中でもライナー・ドーメルスウィーン大学教授の場合、韓国の「東北アジア歴史財団」やソウル大学の示教によって研究したとしているが、これは韓国側による国際世論工作に利用された感が強い。
コリアヘラルドでは、他にもアレクサンダー・B・マーフィーオレゴン大教授やピーター・ジョーダン氏に加え、国連地名専門家会議の関係者であるピーター・E・ラパー氏とポール・ウッドマン氏を登場させ、あたかも権威ある企画を装っているが、いずれも荒唐無稽な韓国側の策略に乗せられた哀れな被害者達である。彼等は日本海の海域と韓国側が主張する歴史的な「東海」とが重複すると思い込んでいるが、事実は違っているからだ。朝鮮半島で「東海」という時、渤海や東シナ海以外は朝鮮半島の沿海部を指しており、遠海部は大海として認識していた。従ってこの歴史的事実を無視し、韓国側の策謀に無批判に従って論を進めたポール・ウッドマン氏とピーター・ジョーダン氏は、軽率の誹りを免れない。
今回、コリアヘラルドの連載記事を読み、国連地名標準化会議や国際水路機関では、如何に不毛の論議がなされているのか、改めて知ることとなった。韓国出身の潘基文国連事務総長は、2007年の「国連の日」に開催された国連事務総長主催のコンサートで、日本海を東海とし、竹島を独島と表記した英文のパンフレットを配布したというが、国際社会が国際機関に期待するのは公平さと見識の高さである。
その意味でハンマオリー北京大学教授の見解は、「東海」に対する韓国側の歴史理解がどの程度のものかを端的に示している。ハンマオリー教授は、10世紀、中国の東北部に建国した金の『大金集禮』に「祭東海祝文」があり、その東海こそが今日の日本海を指しているので、金と同じ地域に建国した清朝も日本海を東海と呼称していた証拠としたのである。
だが「祭東海祝文」の東海は、渤海に面した中国山東省の莱州の地に祀られた東海神廟のことで、日本海とは全く関係がない。にもかかわらずハンマオリー教授は、『大金集禮』の一部を恣意的に解釈し、「祭東海祝文」の東海を日本海のことと決め付けたが、『大金集禮』(巻三十四)や『金史』(巻三十四)に記された「嶽鎮海●(サンズイに賣)」条では、東海を山東省の莱州にある東海神廟のこととし、その東海神廟は清朝にも引き継がれている。事実、『皇朝通典』や『皇朝文献通考』は、「東海を山東莱州に祭る」とし、『大清一統志』(巻一百三十六)では東海神廟の位置を山東省の莱州「府の城西一十八里、四海の一つを祀るなり」と明記している。金も清朝も、東海を祀った神廟は、渤海に面した山東省の莱州府に置かれていたのである。この東海と今日の日本海が無縁なことは、自明である。
さて以上述べてくると、歴史的には何ら根拠のない理屈を並べ立て、日本海を東海に、竹島を独島と改称すべきとするコリアヘラルドの国際世論工作は、失敗に帰したことになる。韓国側では、事ある毎に日本を侵略者とすることで、自ら竹島を侵奪した事実を隠蔽することに努めてきたが、事情に疎い外国人研究者を利用したことで、かえってその醜い陰謀が浮き彫りにされてしまった。コリアヘラルドに限らず、虚偽の報道を通じ、読む人を欺瞞し続ける韓国のマスコミには、オピニオンリーダーとしての責務を思い出してもらいたいものである。
(下條正男)
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