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実事求是~日韓のトゲ、竹島問題を考える~

第68回

「竹島の日を考え直す会」からの反論を反駁する(上)

 

 「竹島の日を考え直す会」から10月末、「島根県教材リーフレット批判に対する『下條正男氏の反論に答える』」と題したA4二枚の意見書が私宛に竹島資料室気付で届いた。差出人は「竹島の日を考え直す会」理事長の久保井規夫氏である。

 久保井氏が私宛に意見書を送ったのには理由があった。島根県では2022年3月、竹島学習リーフレット「竹島~日本の領土であることを学ぶ~」を刊行していたが、2022年10月、久保井氏から島根県知事、島根県教育委員会教育長、竹島・北方領土返還要求運動島根県民会議宛に抗議の書簡が送られていた。そこには「『韓国側の主張」への『事実と反論』は、不当な見解です。…島根県・外務省の見解は、資料を恣意的に扱い、歴史を改竄しています」と記されていた。

 だがそのリーフレットでは、「竹島が韓国の領土であることを示す正当な根拠はありません」と題して、「韓国側の主張」に対し、「事実と反論」でその見解の違いを示しただけであった。それも僅か一頁程の分量である。それに目くじらを立て、「資料を恣意的に扱い、歴史を改竄しています」として抗議する姿勢には、「竹島の日を考え直す会」によるプロパガンダではないのかといった、違和感があった。

 そこでWeb竹島問題研究所に連載中の「実事求是~日韓のトゲ、竹島問題を考える」(以下、「実事求是」)のコーナーを使い、「久保井規夫氏の批判に答える」と題して、2023年4月と7月の二回、久保井規夫氏の意見書の誤りを指摘しておいた(1)。

 今回、その久保井規夫氏から「下條正男氏の反論に答える」とした意見書と、10月28日に「竹島の日を考え直す会」が主催したセミナーの案内書、それに久保井氏が「私の見解の詳細を記した講演資料」と称する「資料」が、竹島資料室に送られてきた。

 その意見書の中で久保井氏は、「十余年前の韓国の学説の見解・史料解説の一端を取り上げて批判している。要するに『久保井規夫氏への批判』になっていない」、そこで改めて「下條正男氏の反論に答える」を送ったのだとしていた。

 だがその意見書を読むと、久保井規夫氏は「実事求是」で述べた私の反論を正確に理解していないようである。そこで「竹島の日を考え直す会」と久保井規夫氏にはその確認のため、この反論を送ることにした。

1.久保井氏の反論の誤り

 久保井規夫氏の意見書を読むと、そこには久保井氏の思い違いが随所に見られる。まず久保井氏は、「十余年前の韓国の学説の見解・史料解説の一端を取り上げて批判している」として、それが反論になっていると錯覚しているようだからだ。

 しかし私が「実事求是」で明らかにしたことは、『世宗実録地理志』と『新増東国輿地勝覧』の「八道総図」にある「于山島」が竹島(独島)ではなく、欝陵島であった事実である。これは独島(竹島)を韓国領とする韓国側の竹島研究にとっては、致命的な事実だったはずである。韓国側では、『世宗実録地理志』と『新増東国輿地勝覧』の中の于山島を独島(竹島)として、それを根拠に「独島(竹島)は六世紀から韓国領だった」(2)と主張してきたからだ。その『世宗実録地理志』と『新増東国輿地勝覧』の「于山島」が、独島(竹島)ではなく、欝陵島であった事実が論証されことは、韓国側には独島(竹島)の領有権を主張してきた論拠が崩れてしまったことになるからである。

 それを久保井氏は、「十余年前の韓国の学説の見解・史料解説の一端を取り上げて批判している」と注文をつけ、争点をずらそうとしているが、それは不都合な事実を隠蔽する時の常套手段である。『世宗実録地理志』と『新増東国輿地勝覧』の中の于山島が独島(竹島)でないとされたならば、当然、その反論をしなければ論争は終わってしまう。争点をずらすのは、久保井氏の意見書がプロパガンダを目的としていたからであろう。

 ところが不思議なことに久保井氏は、『世宗実録地理志』と『新増東国輿地勝覧』の中の「『于山島が、欝陵島と同島異名の島であった事実』に一貫して揺るぎなく同意する」とし、逆に『世宗実録地理志』と『新増東国輿地勝覧』の中の「于山島を、離れた小さな岩礁(独島=竹島)に当てはめ」るのは、「韓国側の一部学説の笑止な誤りである」として、韓国側が「独島(竹島)は六世紀から韓国領だった」とする論拠までも否定したのである。これは久保井氏が、『世宗実録地理志』と『新増東国輿地勝覧』の中の「于山島」が独島(竹島)でなかった事実を、認めたことになるのである。

 だが久保井氏は、『世宗実録地理志』と『新増東国輿地勝覧』の中の「于山島」が欝陵島であった事実については、さほど意に介していないようである。それは久保井氏が、前回(2022年10月)の「島根県リーフレット」<批判1>で、次のように述べていたことと関係している。

 

 「島根県リーフレット」が引用した「世宗実録地理志」「新増東国輿地勝覧:八道総図」は、「于山」名の記述の始まりを述べただけである。「于山島」が「独島=竹島」に比定される「安龍福事件」(1693~96)以降に、史料の探査、解説をすべきである。

 

 久保井氏によると、于山島の呼称は「世宗実録地理志」と「新増東国輿地勝覧」に記された「于山島」に始まるとし、于山島が独島(竹島)に比定されたのは、「安龍福事件」を契機としていた、というのである。それは安龍福が「松島(現在の竹島)は即ち于山だ」と供述して、それが于山島を独島とする始まりだったからである。

 だが問題は別にある。安龍福が供述した于山島が実際に「松島(現在の竹島)」だったのか、その論証を済ませていたのかどうかである。そこで「実事求是」(下)では、安龍福が「松島(現在の竹島)は即ち于山だ」と供述したのは、鳥取藩に密航して来た際、「朝鮮八道之図」を持参した事実について記したのである。さらにその「朝鮮八道之図」は、『新増東国輿地勝覧』に由来する地図であることも記していたはずである。

 その『新増東国輿地勝覧』の中の于山島は、久保井氏も認めているように欝陵島であった。この事実は、安龍福が「松島(現在の竹島)は即ち于山だ」と供述した時、その于山島は欝陵島で、竹島(独島)ではなかったということなのである

 「実事求是」の(上)と(下)では、久保井氏の見解に対して、安龍福が「松島(現在の竹島)は即ち于山だ」とした于山島は欝陵島だった事実を明らかにしていたのである。

 それを久保井氏は、「要するに『久保井規夫氏への批判』になっていない」として、争点をずらし、安龍福が「松島(現在の竹島)は即ち于山だ」とした于山島が欝陵島であった事実については無視したのである。

2.久保井氏の二度目の意見書の問題点

  その事実を示しているのが、次の久保井氏による反論(原文のまま引用)である。

 

島根県竹島学習の最新版リーフレットの<韓国側の主な主張」への「事実と反論」1~6>は、次の三項目に分類できる。1,2は、「于山島は、独島=竹島なのか」。3,4は、「江戸幕府・明治政府は、独島=竹島を朝鮮領と決定したのか」。5,6は、「韓国の勅令、日本の閣議決定、どちらが正当なのか」である。この三項目に分けて、島根県リーフレットの記述を引用して、最新の主張・研究を踏まえた検証・批判を公開論述する。島根県側の誠意ある対応を望んだ。残念なことに、下條正男氏が反論したのは、1、2の「于山島は、独島=竹島なのか」と、3の「安龍福事件」の部分だけである。

 

 久保井氏は、「下條正男氏が反論したのは、1、2の「于山島は、独島=竹島なのか」と、3の「安龍福事件」の部分だけ」だったとしているが、竹島問題を論ずる際は、「于山島は、独島=竹島なのか」と「安龍福事件」について明かにすれば、それは竹島の歴史的権原が日韓のいずれに属すのか、明らかにできるからである。そこで「実事求是」では、先ずリーフレットの「1、2の『于山島は、独島=竹島なのか』」を検証し、『世宗実録地理志』と『新増東国輿地勝覧』に記載された于山島は、欝陵島であった事実を論証したのである。

 さらに「安龍福事件」については、安龍福が「松島(現在の竹島)は即ち于山だ」とした于山島は、『新増東国輿地勝覧』に由来する「朝鮮八道之図」に描かれた于山島であった事実を論証し、その于山島は松島(現在の竹島)ではなく、欝陵島であった事実を明らかにしたのである。

 それを久保井氏は「残念なことに、下條正男氏が反論したのは、1、2の「于山島は、独島=竹島なのか」と、3の「安龍福事件」の部分だけ」として、自説にとって不利な争点についてはこれを無視しようとしていたのである。

 それが「残念なことに、下條正男氏が反論したのは、1、2の「于山島は、独島=竹島なのか」と、3の「安龍福事件」の部分だけである」として、反論にならない反論をした理由である。では久保井氏が掲げた争点で、「安龍福事件」で、安龍福が「松島(現在の竹島)は即ち于山だ。これもまた我国の地である」と供述した経緯はどのようなものだったのか、次にそれを明らかにしたいと思う。

 

 

(注1)web竹島問題研究所の「実事求是~日韓のトゲ、竹島問題を考える~」、第66回「久保井規夫氏の批判に答える」(上)(2023年4月6日掲載)、 第67回「久保井規夫氏の批判に答える」(下)(2023年7月14日掲載)

(注2)東北アジアの平和のための正しい歴史定立企画団編『独島、6世紀以来韓国の領土』(2005年6月)。2005年4月に発足した「東北アジアの平和 のための正しい歴史定立企画団」は、2006年9月、「東北アジア歴史財団」に改組

 

(下條正男)


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