●梅毒とは
梅毒は、梅毒トレポネーマ(
Treponema pallidum)による感染症で、世界中で観られる代表的な性感染症のひとつです。
以前は年間報告数は600〜700件程度で推移していましたが、近年急速に報告数が増え、2023年には約15,000例の報告がありました。
梅毒はペニシリン等による薬物治療で完治する病気です。しかし、症状が出たり、治ったりを繰り返す特殊な経過をたどるため、医療機関への受診が遅れる場合があります。
治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、脳や心臓に重い病気をおこすことがあります。また、途中で治療をやめてしまわないことも大切です。
一度完全に治ったとしても、再び感染することがあるため、感染を予防する行動(禁欲、コンドームの使用)が必要です。
●病原体
梅毒トレポネーマ(
Treponema pallidum)という、直径0.1〜0.2μm、長さ6〜20μmのらせん状の細菌です。人工的な環境で培養することができないため、病気を起こす仕組みなどはほとんどわかっていません。
●どのように感染する?
主な感染経路は、梅毒トレポネーマが体外へ出ている場所と、粘膜や皮膚が直接接触すること
(接触感染)です。性的な接触によることが多く、
性器と性器、性器と肛門
(アナルセックス)、性器と口の接触
(オーラルセックス)等が原因となります。
また、妊婦が感染すると、胎盤を経由して胎児に感染する場合があり、先天梅毒の原因となります。
●症状
感染したあと、早期顕性梅毒を発症するまでの潜伏期間は3〜6週間です。感染した後の時期によって、症状および症状の出現する場所が異なります。
○早期顕性(そうきけんせい)梅毒 T期: 感染後約3〜6週間
梅毒トレポネーマが体内に侵入した場所(主に性器、くちびる、口の中、肛門など)にしこり(初期硬結)や皮膚の潰瘍(かいよう、皮膚や粘膜の表面が壊れて、ただれた状態。潰瘍を伴うしこりには「硬性下疳(こうせいげかん)」という呼び方もあります)
ができます。股の付け根の部分(鼠径(そけい)部)のリンパ節が腫れて、堅いぐりぐりが触れるようになることもあります。これらの見た目に明らかな症状(皮膚の潰瘍やリンパ節の腫れ)が出ていても痛みがないのが梅毒の特徴です。ただ、潰瘍の部位には大量の病原体がいるので、他人に感染させやすい時期でもあります。感染拡大を防ぐためにも、この時期での検査や治療が望ましいのですが、治療をしなくても症状は自然に軽快してしまうので、受診しない人もいます。しかし、症状が治まったからといって、体内から病原体がいなくなったわけではありません。
○早期顕性梅毒 U期: 感染後数か月
早期顕性梅毒T期の時に治療をしないで3か月以上経つと、手のひら、足の裏、体全体にうっすらと赤い発疹が出ることがあります。小さなバラの花に似ていることから「バラ疹(ばらしん)」とよばれています。
発疹は治療をしなくても数週間以内に消える場合があり、また、再発を繰り返すこともあります。しかし、抗菌薬で治療しない限り、病原菌である梅毒トレポネーマは体内に残っており、梅毒が治ったわけではありません。
ばら疹はアレルギー、風しん、麻しん等に間違えられることもあります。この時期に適切な治療を受けられなかった場合、特に症状の無い潜伏期に入りますが、数年から数十年を経て晩期顕性梅毒となり、複数の臓器の障害につながることがあります。
○晩期顕性梅毒:感染後数年以上
感染後、数年を経過すると、皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生することがあります。また、心臓、血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、場合によっては死亡に至ることもあります。
現在では、比較的早期から治療を開始する例が多く、抗菌薬が有効であることなどから、晩期顕性梅毒に進行することはほとんどありません。
○先天梅毒
●診断
感染部位からの病原体
(梅毒スピロヘータ)を直接検出する場合と、血液検査で梅毒に対する抗体の有無を調べる方法があります。血液検査は2つの検査
(抗TP抗体と抗カルジオリピン抗体)を同時におこないます。抗TP抗体は、一度梅毒に感染すると高い値を示すようになり、治療が成功して病原体が体内からいなくなっても高いままになります。もう一つの抗カルジオリピン抗体は、治療によって値が下がるので、治療が成功したかどうかの判定にも用いられます。
●治療
ペニシリン系の抗菌薬が特効薬です。日本では内服による治療がおこなわれています
(海外ではペニシリン製剤の筋肉注射による治療が主流です)。また、症状を呈した本人だけでなく、セックスパートナーの治療も大切です。
なお、梅毒の治療薬としてかつて用いられていた「サルバルサン」はドイツのパウル・エールリヒと日本の秦佐八郎
(島根県益田市出身)が合成した有機ヒ素化合物で、世界初の合成物質による化学療法剤として知られています。
●予防
感染部位と粘膜や皮膚が直接接触をしないように、コンドームを使用することが勧められます。アナルセックス、オーラルセックスの場合もコンドームを使用しましょう。ただし、コンドームが覆わない部分の皮膚でも感染がおこるため、コンドームは完全な予防法ではありません。皮膚や粘膜に異常がある場合は性的な接触を控え、早めに医療機関
(診療科としては皮膚科、泌尿器科、産婦人科など)を受診して相談しましょう。
●感染症法での取扱い
感染症法において五類感染症に指定されています。梅毒を診断した医師は、
7日以内に最寄りの保健所へ届出を行ってください。