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島根県農業試験場研究報告第9号(1968年3月)p1-98

 


稲縞葉枯病の発生生態と防除に関する研究


足立操、山田員人


摘要

 本病を媒介するヒメトビウンカは稲の登熟頃には嗜好の高い植物へ移行するが、麦や牧草は稲刈取り後しばらくして播種されるものが多く、これらにはほとんど移行しない。越冬は大部分4令で行なわれ、冬季には地中へ潜伏するものもあるが、クモ類による捕食のほか、気象環境が不順であるため生理的な死亡によって早春には著しく減少する。第1回成虫は平坦部で3月中−下旬、山間部では3月下旬ないし4月上旬から羽化はじめ、年間4−5世代を経過する。発生量は越冬幼虫が少なく、その後の繁殖場所として重要な麦作地が狭少で制約をうけ、しかも、立毛中に羽化するものが少ないためか感染期の密度は低い。また、予察灯と野外における世代経過時期はおおむね合致するが、誘殺数と生息数の相関はみられないので、実態を把握するにはすくいとり並びにサクションキャッチャーによる調査が必要である。

 本病の苗代における感染は早植、普通栽培ともに極めて少なく、本田では第2回成虫から第2世代幼虫によって感染し、特に第2世代幼虫の役割が重要と考えられる。また、感染期間の生息数は発病と高い関連がある。

 ヒメトビウンカは昼には稲体の広い範囲に着生し、朝や夕方および降雨中や低温時には稲体の下位に多い。稲の感受性は生育が若く、下位より上位葉、葉身より葉鞘が高いことと合せ考え興味深い。病徴は高次分げつ茎による感染を除けば同伸葉に現われ、大部分は接種後抽出した第2葉の葉身と葉鞘にかすかな斑入を生じ、第3−4葉に綿状病斑あるいは撚紙状葉を生ずる。若い時に感染した病稲ほど生育は停滞し枯死するものが多く、生育期の進んでいるものおよび高次分げつ茎の感染では軽くなる。

 本病の発生は気象が稲及び媒介虫に直接影響する部面と、耕種法が稲の感受性並びに媒介虫の活動と繁殖に関与する部面とがあり、これら要因は相互間に応働し発病程度が決まる。伝染温度は5−30度Cでは高温ほど感染しやすく、15度C以下では急に低下し、昼夜の温度較差は大きいと発病を減少する。また、遮光並びに連雨下では稲の感受性は高まるが、降雨下ではヒメトビウンカの繁殖は劣り、加害部位は下位に多く、吸汁量も少ないなど伝染力は弱く、多雨や令期の進んでいるものではその影響をうけやすい。しかし、降雨後はかえって伝染力の高まりがみられ、降雨は発病増減両而に作用し、10日程度の連雨では発病の増加に働くが、媒介虫の繁殖を抑制するような降雨では必ずしも発病を増加するとは考え難い。

 移植栽培では田植え5−10日経過後一時的に稲の感受性は高まる期間がみられるが、当時の生育は媒介虫の蝟集にあまり適していないので、実際はにはむしろ田植時期が早く、第2回成虫飛来最盛期頃に生育の旺盛な稲ほど発病は多くなる。また、栽培型では早植栽培ほど発病がが最も多く、早期栽培と普通栽培は少ない。湛水直播栽培と移植栽培の発病は播種期によって傾向が異なるようである。

 施肥にあたり窒素量の増加、多肥あるいは元肥の施用割合の増加は稲の感受性を高くするほか、ヒメトビウンカの嗜好に適して蝟集しやすく、繁殖は良好となるのでこれらは共働的に発病を増加するが、りん酸およびカリは窒素のような影響はみられないようである。

 本病の防除にあたっては耕種的に十分配慮するとともに、媒介虫を直接防除することが重要である。越冬幼虫はあぜやきによってかなり減少できるが、全生息場所についての実施は不可能で伝染環を遮断することはできないから、主要感染期に農薬により防除することが必製である。液剤および粉剤は第2回成虫飛来期に1回撒布し、成虫による感染防止と産卵並びにふ化幼虫数の減少を図り、その後第2世代幼虫発生後比較的早い時期と、最盛期との計3回散布が有効である。散布面積は少くとも50a以上を対象にバイジット乳剤、スミチオン乳剤、キルバール、マラソン乳剤、デナポン乳剤、ペスタン、サンサイド水和剤を散布する。また、土面施用剤の殺虫力は成虫より幼虫に強く、10a当たり4kg施用で5−10日間持続する。ダイアジノン粒剤、ダィシストン粒剤、ドル粒剤などを発病の少ない年には第2世代幼虫発生最盛期頃に1回施用で効果があるが、発病の多い年は第2世代幼虫発生初期(第2回成虫最盛期すぎ)とその10日後の2回施用が有効であり、散布薬剤より簡易で省力的に使用できる。しかし、薬剤防除の効果のみではなお十分といえないので、耕種法、抵抗性品種の利用などあわせ行なう総合防除の配慮と実施が大切である。


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