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13.ハウス栽培の新技術


 本県のブドウは、近年、早期出荷による高収益と労力分散を目的として、約500haのうちの52%において加温栽培が行われ、その加温開始時期も年々早まっている。ところが、早期加温栽培を連年行うと樹勢が衰弱して、果実収量や品質が低下し、大きな問題となっている。その原因としては、日射量や樹体内無機成分の不足などが考えられる。さらに、日長時間が短い時期から生育することや、ハウス内炭酸ガス濃度の低下も考えられた。
そこで、炭酸ガス施用や補光処理を行ったところ、増収や品質向上に効果が認められた。さらに、超早期加温栽培において同一園で、連年、安定して花穂数を得るための手段として二度切りについても検討したところ効果が認められたので、以下、新技術として説明する。

 

果実

1) 炭酸ガス施用について


a.炭酸ガス濃度と光合成特性
 現在、大気中の炭酸ガス濃度は330ppm前後であるが、日中密閉したハウス内では光合成作用により200ppm前後まで下がる。こうなると、図13ー1にも示すようにブドウ葉の光合成速度は著しく低下するが、炭酸ガスを施用してハウス内の炭酸ガス濃度を高めれば、光合成能が促進され生産力も上がる。

炭酸ガスCO2濃度

 

b.炭酸ガス施用の方法
炭酸ガスの発生源としては、灯油、プロパンガス、液化炭酸ガスなどがある。施用濃度が同じならばその効果には差がない。ただ、液化炭酸ガス以外は、燃焼時に有害ガスが発生することがあり、注意が必要である。
 炭酸ガス施用にあたっては、ハウス内の炭酸ガス濃度が高くなりすぎて生育障害を起こしたりしないためにも、また、経済性を考えて、連続的に炭酸ガス濃度を測定・調節することができる濃度調節装置を備えつけておくとよい。
我々の行った施用方式は、プロパンガス燃焼による炭酸ガス発生機であり、濃度調節装置は赤外線分析計を用いた。

 

c.炭酸ガスの施用濃度と施用期間及び時間
 ブドウ樹における炭酸ガスの施用濃度は、およそ1,500ppm前後でよいと考えられる。
施用開始時期は、濃度調節装置を設置しておけば、ハウス内の炭酸ガス濃度の変化がわかるため目標とする濃度よりも低ければ3〜4葉期頃から始める。そして、終了時期は、ハウス内の気温が高くなりすぎ果実の着色が悪くなるなど生育に支障をきたさない限り収穫期までである。実際には、巨峰の1月加温栽培では、6月上旬に収穫を始めるので、昼夜温格差をつけて着色をよくすることを考えれば、外気温の高くなる5月中旬頃のハウス側面のビニルを除去する時期までである。
 施用時間についても、濃度調節装置を見ながら、設定濃度よりも低ければ日の出頃から施用を開始する。一方、施用を終了する時刻は、ハウス内の気温が上がり、換気を行うまでの時間である。なお、施用効果は、施用時間が長いほど高くなるので、ハウスの換気管理に注意しながら日没30分前頃まで出来るだけ長い時間行う。冬季、日射量の少ない山陰地方では、ハウス内の気温が30度以上になる日が少なく換気をしない日が多いため、1日中施用する日がかなり多い。

 

d.施用効果
ア.‘巨峰’における施用効果
 早期加温栽培‘巨峰’において炭酸ガスを2か年にわたり施用したところ、施用区は無施用区より新梢の生長が旺盛になった。そのため、開花後40日頃には目標とする葉面積指数に到達した。その後、夏季せん定を行ったところ、施用区のせん定量は無施用区の約2倍であった。また、新梢の太さは施用区がやや太く(図13ー2)、年間の幹の肥大率も施用区が無施用区より10%程度高かった。施用区は無施用区より収穫後40日における落葉率が20%程度低く、翌年の発芽率は8%程度高く、葉色もやや濃かった(図13ー3)。2か年の平均果実収量は、施用区が無施用区より28.5%多く、果実品質は施用区で1粒重がやや重かった(表13ー1)。 

 

早期加温

 収量

 

イ.‘デラウェア’における施用効果
 超早期加温栽培‘デラウェア’では、成熟期における施用区の新梢長が無施用区より1.6倍長く、樹勢強化の効果が認められた。また、施用区は、新根の発生量が多くなることから、無機成分の吸収量も多くなるようである。
 現地の超早期加温栽培園で実態調査を行ったが、施用園は無施用園に比べ葉色が濃く(表13ー2)、葉はやや厚かった。また、10a当たりの収量は34.8%多く、1粒重は32.5%重く、果粉の着生、糖度ともに優れていた(表13ー3)。

 

生育

 

果実収量

 

e.問題点
 加温栽培ブドウにおける炭酸ガス施用は、1日の施用時間及び期間が短い場合には効果が低いので、作型や施用地域については十分配慮する必要がある。
 施用効果を高めるためには、せん定、土壌管理、葉面散布など従来行ってきた栽培管理を徹底することが大切である。また、葉で生産された同化養分の果実への分配割合を高めるため、最適葉面積指数(2.5〜3.0)に到達し次第、夏季せん定を徹底することも大切である。
  施用濃度については、1,500〜2,000ppmでも十分効果があるものの、生育時期別の好適施用濃度などについて詳細な検討が必要であろう。



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