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11.施肥・土壌管理

3)土壌改良時期と方法


永年作物である果樹は、植え付けて以後同じ場所で長期間にわたって生育を行う。したがって、開園に当たっては土壌条件などの環境条件を十分考慮した上で行う必要がある。
果樹栽培では、有機物施用と土づくりに多大の労力と経費がかかり、しかも効果が現れるまでに2〜3年かかる。そのために、樹の生理をあまり考慮しないで、簡易な土壌改良で済ませることが多いようである。

 

a.有機物の種類と施用方法
ブドウ園に施用する有機物資材は、稲ワラ、厩肥などが多く利用されてきたが、これらの入手が困難になったことなどから、樹皮堆肥に家畜ふん尿が混じったものが市販されるようになってからこれらが多く使われるようになった。これらの有機物は、それぞれ異なった性質を持っており、施用するに当たっては、その特性を十分認識した上で行う必要がある。
ブドウ園で用いられている有機物の無機成分含量が表11-3,4,5のように、資材によってその成分量に大きな違いがある。施用に当たっては、有機物の特性をよく把握しておくことが大切である。
特に、豚ふんや牛ふんを混合した堆肥を施用するようになってから、かなりの肥料分が園内に持ち込まれていることが想像される。当然、その一部しかブドウ樹には吸収されないので年間の施肥量には、化学肥料と同じように考える必要はない。しかし、有機物の種類によっては、肥料分としての効果が高いものがあるので、その場合は考慮にいれるて年間の施肥設計をたてる必要がある。以前は入手しやすい有機物として稲ワラや未熟な樹皮などを施用していた時期もあった。このような有機物を施用した場合には、窒素飢餓を起こす危険性がある。窒素飢餓を防止するための対策として、未熟な堆肥1t当たり窒素分を2kg程度を添加しておく必要がある。
また、近年、紋羽病の発生が多くなった。この原因として、未熟な有機物の施用が助長しているとも考えられる。このような病害が多発すればブドウ経営に支障をきたすことになるので十分注意したい。
無機成分

表11わら類無機成分含有率

有機物

 

b.施用量の考え方
有機物を毎年施用しているのに樹勢が衰え、施用した効果が現れないといった声をよく聞く。これは、有機物の施用量とその方法に問題があると言わざる得ない。
これまで、一般的な有機物の施用量は10a当たり何tというような表示がされてきた。10a当たり5tの有機物を深さ10cmまで全面にわたって施用すれば改良容積は100m3となり、土壌容積1m3当たりの施用量は50kgとなる。また、同様に深さ50cmであれば改良容積が500m3となり、土壌容積1立米当たり10kgとなる。
このように、同じ量の有機物でも改良容積や方法によって、土壌と有機物の混合割合が大きく違ってくる。したがって、その年に自園で確保した有機物の量に見合った土壌改良の規模を設定し、土壌と有機物との混合割合を高めるような方法をとることが効果的である。有機物の施用量の表示は土壌容積当たりと面積当たりと両方を示した方が実際的といえよう。

 

c.有機物の施用量
有機物を施用した効果を評価するのに施用した部分にどれだけの新根(吸収根)が発生したかどうかをみるのが実際的である。早期加温栽培デラウェア園で完熟した樹皮堆肥を土壌容積1m3当たり100〜300まで3段階に、深さ50cmとして、6年間に樹冠占有面積の約40%の改良面積となるように施用し、1年後に発生していた新根量をみたのが図11-3である。新根の発生量は有機物の施用量に比例していた。
それでは、高品質多収が可能な樹相を維持していくための有機物は最低どれくらい施用しなければならないか。これまで、10a当たり1.8〜2tの収量を安定して確保しているブドウ園の有機物の施用量と新根の発生実態を調査した。
それによると、いずれの園でも有機物の施用量は土壌容積1立米当たり200であり、乾物新根重は土壌容積1立米当たり100g程度であった。土壌条件や作型にもよるが、これらのことから判断すると、有機物の施用量は土壌容積1立米当たり150〜200kgであろう。
新根の発生新根発生

 

d.有機物の効果的な施用方法
有機物の施用効果は、ブドウ樹はこれまでの生育と比べてどのように変化したかによって判断していたのが実際である。若木の時期は根域が狭いため、土壌改良の効果が比較的短期間のうちに現れる。しかし、成木になるとそれより長く、3年程度はかかると言われており、実際に経験している。土壌改良のやり方によっては、もっと短期間に改良効果が現れるものと考えられる。
改良した効果は改良部分にどれだけの新根が発生したかを観察することによって判断できる。これまで、土壌改良時にブドウの根を切ることを恐れて樹と樹の中間地点を溝状に深耕したり、ハウスの隅々まで行ったり、写真・のように有機物を層状に施用していた。このような方法では、改良部分まで新根が伸長してくるまで時間がかかり、しかも新根の分布密度が高くならない。したがって、土壌改良時における有機物施用は根が分布している部分へ土壌とよく混合するような改良方法をとることが大切である。

 

新根の発生

 

e.作型と土壌改良の時期
土壌改良の時期は一般的に落葉後である。ところが、11月下旬に被覆し、12月上旬から加温開始する超早期加温栽培では、11月にまだ落葉していないこともあり、落葉後では手遅れになる。
2年生巨峰を時期別に断根処理し、1年後に樹の生育をみたところ、図11-4のように断根した部分における新根の発生量は8月以降では大差なかった。したがって、12〜1月にかけて加温開始する超早期加温栽培や早期加温栽培では、まだ葉が着いている9月ころから土壌改良をはじめてもよいと考えられる。
新根の発生は春先と9月上旬から多くなるといわれている。次年度に早い作型を行う園では、収穫後まだ葉が着いていても9月になれば土壌改良を始め、改良部分へ秋根の発生を促し、生育初期からその新根を利用するのもよい。また、3〜4年間の作型計画をたて、それに基づいて土壌改良計画を立てるのが最良である。

 

乾物重

 

f.土壌改良の範囲
ブドウ園を肥沃化するには、良質な有機物を最大限に施用するのがよいが、その確保に多くの経費と労力がかかる。少ない労力と経費で土壌改良の効果を最大にしたいものである。
施用した肥料分が効果的に吸収利用されるには、吸収根の密度を高くしなければならない。加温栽培では根が土中深く分布していれば、加温開始後において根域部分の地温の上昇が遅れ、地上部と地下部の生育にずれが生じ、生育障害の原因ともなる。また、ハウス栽培では、潅水設備が必要条件となっており、根を深くまで分布させる必要はなく、根域も園全体にわたって広げる必要もない。
高生産園を調査した結果によると、土壌改良の範囲は樹冠占有面積の30〜40%の部分でよく、その部分を十分に肥沃化し、新根の密度を高めることによって、水分及び肥培管理が能率的に行われると考えられる。



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