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八重滝の地形と地質

八重滝周辺の民谷川は、急傾斜のV字谷をつくり大変けわしい地形をしています。しかし、八重滝より上流の民谷村では、傾斜のなだらかな地形が多く見られます。八重滝周辺の山の岩盤が風化に強いため、このような違いが起こっているのです。
八重滝自然観察コースには、地形・地質の観察ポイントが5ヶ所設置されています。それぞれの特徴は次のとおりです

 

地形・地質八重滝画像

ポイントA

 
川の中につき出ている岩棚の上に行き、岩石を見てみましょう。この岩石は大変硬く、全体は青灰色で1〜3mmの長さの長方形をした白濁色の粒子が散在しています。この粒子は斜長石という鉱物が風化したものです。ほかに径1mm以下の大きさのやや透明な粒子がわずかに見られますが、それは石英です。
また、白色と青灰色の細かな縞模様もしばしば見られます。これは流理構造と呼ばれ、マグマが流れてきたときにできたものです。この岩石は中新世(約2400万〜500万年前)という時代の初期に噴出した流紋岩の溶岩です。

 

ポイントB

 
橋を渡ると、道は迂回して滝の真上に出ます。ここには崖がせり出していますが、滝の周辺はこの崖に見られる岩石からできています。この岩石は安山岩の岩脈です。岩脈とは地下深部でできたマグマが、地下の大きな割れ目を通って地表に上昇し、その途中で冷えて固まったものです。
安山岩は全体に青黒色で、光を当てるとキラキラ光る透明な粒子が多く散在しています。これは流紋岩でも見られた斜長石ですが、ここの斜長石は風化していません。ほかに、黒色をした長柱状の粒子、黒色の丸みをもった多角形の粒子が見られます。前者は角閃石、後者は輝石という鉱物です。この滝は安山岩中の大きな割れ目に沿って、浸食作用がとくに強かったためにできたようです。

 

ポイントC

 
滝の上流に出ると、川を横切る橋があります。橋の北側の崖や川床に、安山岩が露出しています。橋の上流約5mの川床を見ると、高さ1mの滝があります。滝の下は硬い安山岩ですが、そこに直径4mほどの半球状の穴があいています。滝から落ちる水は、川床を浸食してくぼみをつくります。そのくぼみに流れ落ちた水は渦を巻くようになり、その流れに小石が混じると川床は丸く削られるのです。この穴のことをおう穴といい、コース中にいくつか見られます。

 

ポイントD

 
紅葉滝の上流の川床に、広く露出した岩石があります。灰色をした表面には、1〜3mmの大きさで、五〜六角形または球状をした透明な粒子がたくさん含まれています。これは石英の結晶です。石英の結晶は、できたときの温度によって形がちがい、ここで見られるのは高温型と呼ばれるものです。ちなみに、一般に水晶といわれるのは、低温型石英の結晶です。
石英のまわりの灰白色をした部分は、風化して白濁色をした斜長石の結晶を含む細かい火山灰です。この岩石は、古第三紀(約6000万から2400万年前)に噴出した流紋岩質の火山灰が固まった凝灰岩で、この自然遊歩道沿いで見られる岩石の中で最も古い時代のものです。

 

ポイントE

 
紅葉滝で見たのと同じ流紋岩質凝灰岩が、河鹿滝をつくっています。ここの流紋岩質凝灰岩には、1mmほどの大きさをした黄色い粒子が見られます。これは黄鉄鉱の結晶で、ルーペで見ると立方体をしています。

 

ポイントF

 
紅葉滝から八重滝の間には流紋岩質凝灰岩が分布しています。この凝灰岩は大変硬く、科学的風化にも強い岩石です。このように風化に強い岩石の一部だけがなぜ大きく浸食され、滝をつくっているのでしょう。地殻中の岩石はさまざまな力を受け、たくさんの割れ目ができます。新しい時代に強い力を受けた部分には、一定方向に並んだ大小の割れ目ができ、そこに水がしみこんで風化が進むのです。

 

カンナ流しと「たたら」

 中国山地には、マグマが地下の深い場所で固まってできた花こう岩が広く分布しています。この岩石が風化すると鉱物の粒子が離れやすくなり、「マサ」と呼ばれる

 状態になります。中国山地の花こう岩は風化が進み、しばしばマサになっています。

 

 花こう岩は、磁鉄鉱など鉄の鉱物を含んでいます。マサになった花こう岩から出てきた鉄の鉱物が「砂鉄」です。これがたたら製鉄の原料に使われました。たたら製

 鉄は古代から行われ、古い時期は川底に集まった「川砂鉄」や、海岸に集まった「海砂鉄」を集めて使ったと考えられています。

 

 鉄の生産量が増え、川砂鉄や海砂鉄では足りなくなった近世初頭頃からは、カンナ流し(鉄穴流)と呼ばれる方法で鉄鉱物が集められるようになりました。

 この方法は、まず、山の斜面に水路をつくります。そこにマサになった花こう岩を切りくずして流します。比重の小さい鉱物は流されますが、比重の大きい鉄鉱物は

 水路の途中の池に沈殿します。

 

 花こう岩に含まれる鉄鉱物は1%程度ですが、カンナ流しによって鉄の割合を80〜90%までにあげるのです。こうして集めた砂鉄(鉄鉱物)を「たたら炉」で製錬

 し、鉄を作りました。磁鉄鉱が大部分を占める砂鉄を製錬すると、刀剣などの材料になる「はがね」が得られます。山陰地方の花こう岩に含まれる鉄の鉱物は磁鉄鉱

 の割合が高く、良質なはがねを得ることができました。明治時代までの島根県では高品質のはがねが生産され、花こう岩が広く分布する中国地方の中でも特に製鉄が

 盛んでした。

 

 ところで、カンナ流しを行うと、多量の砂が川に流されます。この砂がたまることで、下流地域では川床が高くなり洪水がおこりやすい「天井河川」になる場所もあ

 りました。また、斐伊川の下流では、流された砂を使って宍道湖を埋め立てて、水田の開発が行われました。

 たたら製鉄が行われた地域では、川原や海岸に黒色で鈍い金属光沢がある石(礫)を見つけることができます。手にすると普通の石よりも重く、丸い空洞があるもの

 や、溶けて流れたような形をしているものがあります。これは、たたら炉で砂鉄を製錬した残りかすで、「鉄さい」と呼ばれます。

 

 


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