高温登熟条件における良食味・高品質米の安定生産
栽培研究部 作物グループ 月森 弘
近年、水稲の登熟期間が高温になり、乳白粒、背白粒、基白粒(基部未熟粒)等の白未熟粒や胴割粒が多発生し問題となっています。島根県では1998〜'99年と連続して発生した乳白粒によって等級が大きく低下しました。その対策として、5月下旬植えとこれに対応する施肥マニュアルを作成し適正な施肥管理を推進してきました。しかし、今後も高温化の傾向は進むと推測されています。
そこで、当センターでは高温障害を回避しながら収量、品質が安定する栽培法について検討しましたので、紹介します。
○ 施肥法・栽植密度試験の概要
2005、'06年に施肥、栽植密度について検討しました。2005年5月13日および'06年5月17日に「コシヒカリ」を栽植密度12株/m2(株間27cm)、16株/m2(株間20cm)、21株/m2(株間16cm)の3水準、1株3本に移植しました。施肥は、慣行(基肥窒素2kg/10a、穂肥窒素2kg/10a)と無基肥・中間追肥(窒素4kg/10a)・無穂肥(以後中間追肥法)の2つの方法で検討しました。
収量は試験年により異なる結果が得られましたが、栽植密度の高い方ほど多い傾向がありました。施肥法の違いによる明瞭な傾向は認められませんでした(図1)。
一方、施肥法の違いが品質に及ぼす影響をみると、両年ともいずれの栽植密度でも慣行施肥より中間追肥法で白未熟粒が少なく、品質が優れました。また、栽植密度では試験年により異なる結果となりましたが、登熟期間がより高温となった2006年の中間追肥法では、栽植密度が小さい方が基白粒の発生が少なく品質が向上しました(図2)。
以上のことから、収量性には問題が残るものの、品質向上には疎植と中間施肥法の組み合わせが有効と考えられました。
○ 疎植・中間追肥法での水稲生育の特徴
株間20cm程度の疎植とし、中間追肥法で「コシヒカリ」を栽培すると、移植後20日頃の生育は慣行施肥と比べ生育が劣りますが(図3)、中間追肥後は急激に茎数が増加し、幼穂形成期にはほぼ同等の生育量となり、従来とは全く異なった生育となります(図4)。
慣行の栽培では最高分げつ期から幼穂形成期まで10日以上の期間があり、生育の停滞がありましたが、中間追肥法ではこのような生育の停滞はありませんでした(図5)。
葉色の変化をみると、中間追肥法では追肥後急激に葉色が濃くなり、移植40日頃に最も濃くなります。その後次第に淡くなり、出穂期前後一定の葉色が続いた後緩やかに淡くなっていきます。慣行施肥(図中凡例2-0-2、3-0-3)が2回の穂肥により出穂期に再び葉色が濃くなるのと対照的な葉色経過です(図6)。
○ 省力施肥法(全量基肥施用法)
中間追肥として与える窒素成分を基肥として施用し(速効成分を含まない肥効調節型肥料を利用)、生育中途での肥料散布はしない方法を検討しています。
中間追肥法では慣行施肥より品質は優るものの、収量がやや少ない傾向があり、生育によっては穂肥の必要があると考えられました。一方、全量基肥施用では、施用した窒素成分の吸収率が高く籾数も十分確保できることが分かりました。登熟期が高温となった2006年でも、全量基肥区は慣行区を上まわる収量となり、品質も良好でした(表1)。
○ 今後に向けて
疎植・全量基肥施用により高温登熟条件でも収量安定と品質向上を両立できる可能性が示されたので、次年度も引き続き現地で検討し、土壌別の適用基準作りに努めたいと考えています。
[島根県農業技術センターだより第5号 2007年3月]
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