• 背景色 
  • 文字サイズ 

気象災害対策(水稲)

風害

事前の対策

(1)品種選定:耐倒伏性、脱粒性、穂発芽性、耐病性を考慮するとともに、熟期の早晩を組合せて危険分散を図る。
(2)作期移動:早期、早植、普通期など作期の組合せを行って、より幅広い危険分散を図る。
(3)栽培法:適正な施肥と水管理等で過繁茂を抑制し、土づくり、水管理を中心とした基本技術で地上部と地下部のバランスの取れた強剛な稲体を作る。

応急対策(台風接近時等)

(1)豪雨に伴う場合は浸冠水被害を考慮し、排水溝の清掃、補修や畦畔の補強を行う。
(2)風台風の場合は強風による稲体から多量の水分を奪うので、落水後の水田でも湛水しておく。この際出穂期前後の時期はできるだけ深水とする。また、稲体の動揺を防ぐため深水湛水する。ただし、この場合は水深を40cm以上にしないと大きい効果は望めない。
(3)成熟期間近な稲は台風到達までにできるだけ刈取る。
(4)架干し中のものは、稲架の補強を十分に行う。なお脱穀可能なものは台風到達までに脱穀する。

事後対策

(1)浸、冠水対策については水害の項参照する。
(2)台風接近の場合、通過後は快晴になることが多く、稲体は茎葉の損傷を受け蒸散作用が活発になりやすいため、通過後数日間は湛水状態を保つ。
(3)倒伏した場合、成熟期が近いものは早めに収穫し、成熟期までに日数を要するものは、できるだけ早く株起しを行う。この際株元が挫折している時は、立て直すことが、かえって損傷を大きくする危険性があるので、隣の株の上に穂を上げる程度とし穂発芽を防ぐ。
なお、変色籾の発生が多い場合は成熟期の判定が困難となり、収穫が適期より遅れやすいので注意するとともに収穫を別扱いとする。

水害

事前対策

(1)品種選定:本質的に水害に強い品種はないので、穂発芽性、耐病性(いもち病、白葉枯病)を考慮して、熟期の早晩を組合せて危険分散を図る。
(2)作期移動:常襲水害発生時期から、水稲の最も被害を受けやすい生育段階を避けるように、また浸・冠水被害地帯では水害発生時期に草丈を伸ばしておく(生育段階を進める)ように、品種の組合せ、栽培法の選択を考慮して作期を移動する。
(3)栽培法:多窒素、特に基肥の多施用を避け、強剛な生育を図る。
(4)気象情報に注意し、用排水路の点検を行う。特に排水路が詰まると浸・冠水を招きやすくなるため、畦畔等に刈草がある場合は取り除いておく。

応急・事後対策

(1)土砂流入に対する措置
土砂流入の少ない所では、土砂を取り除き、稲の生育挽回を図る。砂の流入量が多くても除去が可能であり、その後の湛水に支障が少ない場合は、湛水のできる程度に株元の土砂を取り除く。この場合、流入土砂の除去はできるだけ早く行う。
(2)浸・冠水に対する措置

  • 一刻も早く排水する。完全に排水できなくても穂や葉の一部が水面上に出ると被害が軽減できる。
  • 水温が高いと被害が大きくなるので、排水できなくても努めて新しい冷たい水を流入させる。
  • 濁水が停滞している場合は、濁っていない水の流入を図り、新根の発生を促す。
  • 減水とともに木片、雑草その他の浮遊物を除去し、併せて稲体に付着した泥土を洗い流す。
  • 冠水した稲は、体内の水分を失いやすいから急激な完全排水は避ける。
  • 根腐れの傾向が見られるときは新鮮な水の入れ替えを繰り返し、新根の発生を促す。
  • 倒状したものはできるだけ早く株起しや株上げなどを行う(風害の項参照)。
  • 白葉枯病、黄化萎縮病などの病害やアワヨトウなどの虫害が異常発生しやすくなる。

干害

事前対策

(1)品種選定:干ばつを受けた場合、概して早生が晩生より、また長稈長穂少げつ型品種が短稈多げつ型品種より減収が少ない。したがって、用水をため池とする地域では、前記のことを配慮し、熟期の早晩生を組合せるとともに、いもち病耐病性も考慮して決める。
(2)作期移動:本田移植後の稲体の耐干性は、その時点における稲の生育を強剛に、特に根張りを良くしておくことによって付与される。そのためには、早植栽培が適当であり、干ばつ被害を回避するという考えからすれば早期栽培を行うのが良い。
(3)圃場・水路整備:用水路や畦畔等からの漏水が無いよう、事前の点検・整備に努める。縦浸透の大きい漏水田では、漏水箇所にベントナイト(m2当たり1kg程度)を散布し、代かきを丁寧に行う。ただし、代かきは練りすぎないことが大切となる。
(4)作付計画:水系ごとにロスの少ない配水計画を立て、それに合わせた品種作型を検討する。
(5)栽培法については以下の点に留意する。

  • 土づくり:腐植が少なく地力の低い土壌など保水性の低い土壌は干ばつの影響を受けやすい。普段から有機物の施用、ケイ酸・鉄分の補給、深耕に努め、緩衝能力の向上を図る。
  • 育苗法:薄播き苗が厚播き苗より耐干性が強いので薄播きによる健苗育成を図る。代かきが遅れる場合にも老化苗防止として薄播きが有効である。
  • 本田施肥:多窒素は茎葉が繁茂し蒸散面積が増す割合に根が表面に張り、地中深く伸長しにくく、吸水と蒸散のバランスを崩しやすくなることから、窒素の多用を避け、三要素の均衡を考えた施肥を行う。
  • 水管理:合理的な水管理により過剰生育の抑制、地下部の健全化を図るとともに、用水不足地帯では計画的配水を行って用水を節約し、その間に干ばつ状態に慣れさせる。なお、このような計画配水を行う場合は、あらかじめ品種統一を行って関係水田の集団栽培を行うのがよい。

応急対策

(1)灌がい水の確保と調整:稲の枯死限界水分含量は土壌容水量の35%といわれている。湿った状態にする灌がい水確保のため機具(揚水機他)、施設(堀抜き井戸他)を最大限に動員、準備して灌がい水確保に努める。
(2)節水灌がい:水稲は生育段階によって比較的干ばつに強い時期と、絶対に水を必要とする時期があるから、干ばつに遭遇した生育段階によって計画的、重点的配水を行って乏しい水を節約する。特に活着期、幼穂形成期から穂ばらみ期は重点的に計画配水を行う。
(3)用水がある内は田面を白乾させない程度に灌水し、できれば収穫の7日前まで、少なくとも10〜15日前まで継続する。
(4)干ばつによりひび割れがひどい水田では、灌水しても水の走りが悪いので、パイプやホースなどを用い、灌水箇所数を増やすと有効である。
(5)塩害の発生が予想される場合には、地下部の塩分上昇を抑えるため、田面をできるだけ湿潤状態に保つ。また、干ばつ時に塩分を含んだ水を灌水せざるを得ない場合は、短期間の救急措置として行い、できるだけ早く真水を灌水して塩分濃度を低下させる。宍道湖等の水を使用する場合は水面に近い上層部から取水する。
(6)干ばつ田では雑草(特にノビエ)の発生が多くなり、土壌水分を奪い干害を助長する。除草剤の体系処理等を検討し、雑草防除に努める。

事後対策

(1)干害を受けた水稲は、高温時に一時に湛水すると根傷みを起こすので、軽い灌水を繰り返してから通常の水管理に戻す。
(2)干ばつで長期間畑状態になった後、急に降雨があった場合にはいもち病が多発することがあるので注意をするとともに適正な防除に努める。また、干ばつ年にはカメムシ類等の害虫の異常発生が見られやすいので、発生予察情報に注意し、早期発見・早期防除に努める。
(3)干害を受けると立毛中に胴割れを起こしやすいので、青味籾率10〜15%を基準に刈り遅れないよう注意する。また、被害程度によって別刈りを行い品質低下を極力防止する。
(4)激しい干害を受けた場合、圃場の亀裂が大きく漏水しやすくなる。次年度の作付けに向けて畦畔沿いの地堅め等を入念に行うとともに、代かき等をていねいに行い、漏水部分の補修、点検に万全を期す。
(5)塩害を受けた場合には、以下の事後対策を実施し翌年への対応を行う。

  • 塩分を吸収した稲わらはできるだけ圃場外へ持ち出す。
  • 土壌からの塩分除去を容易にするため、早い時期に石灰を散布して耕起する。
  • 移植前までに数回灌水(2〜3日湛水、水深は深め)して塩分を洗い流す。この際、塩分濃度に応じて3〜10m間隔で溝(幅60cm、深さ30cm)を設けておくと効果的である。

低温害(霜害)

事前対策

(1)晩霜の常発地では安全な作期に播種、移植する。
(2)育苗中の場合は以下の対策をとる。

  • ハウスやトンネル育苗の場合は、ビニールやこもなどで二重被覆を行い保温する。ハウス育苗ではストーブ等での弱い暖房も効果がある。
  • 硬化期になって被覆物を取り除いた後もトンネル等の枠は残しておき、危険性がある場合は被覆する。
  • 出芽温度等、降霜に合う以前が高温で生育したものほど低温に合うと障害を受けやすくなる。育苗初期の温度管理を徹底し健苗育成に努める。

(3)本田移植初期に降霜の危険性がある場合は夜間の湛水深を深くし、葉面の露出を少なくする。

応急・事後対策

(1)育苗中に霜害を受けた場合は、その程度によって異なるが、生育を促進するために追肥を行った方が良い場合がある。この際の追肥量は箱当たり窒素0.5g程度とし、300倍以上の水に溶かして散布する。また、被害が著しい場合は早急に播き直しを行う。
(2)本田初期に被害を受けた場合は、生育が著しく遅延することがあるので、水温の上昇対策(中畦の設置、ポリチューブなど)を行う。また、被害が激しい場合は中間追肥を早めに施用し、生育の回復に努める。

低温害(冷害)

事前対策

(1)品種選定:耐冷耐病品種であって、晩熟でないものを選び、適地を越えて無理な作付をしない。上記の耐冷性が弱い品種については標高300mまでの栽培とする。
(2)健苗の育成:地域の気象条件などにより苗の種類を選択し、乾物重の大きい良質の苗を育成する。
(3)作期:梅雨期の低温発生の時期、程度、頻度を調査し減数分裂期を、その時期から回避させるよう品種、作期を決定する(山間部では7月第4半旬以降に減数分裂期を経過させる)。山間部での遅延型冷害、早冷被害を防止するためには、8月第4半旬までに出穂させるよう品種別に作期を決める。
(4)栽培法

  • 本田施肥:窒素質肥料の多用を避け、リン酸、加里を増施する。特に窒素の基肥多施用は避ける。また、窒素の追肥も天候の推移を見極めた上で行う。
  • 水管理:保温を考慮した水管理を行い、生育の遅延を防ぐ。
  • その他:止む得ず中耕除草を行う場合は早期に切り上げ、生育の遅滞を防ぐ。

応急対策

幼穂形成期から穂ばらみ期の低温には、10〜15cmの深水に湛水して幼穂の保温を図る。

潮害・塩害(潮風害、高潮害等)

本県における潮害は日本海沿岸地帯、汽水湖周辺において、台風接近時等強風が吹いた場合に海水が巻き上げられて塩水が散布された状態となって起こる潮風害と、気圧の低下等によって起こる高潮害とに大別できる。なお、潮風害の状況、対策等は風害の項にまとめて記載してあるので参照する。
高潮害については海水の流入によって塩分濃度が高まり障害が起きるが、事前応急対策としては、河口付近等で逆流を防ぐためせき止める方策を講ずる程度しか対応策がない。事後対策としては、塩水が侵入した水田について、真水の灌水を繰り返し、土壌塩分を溶け出させ排除する。
また、日本海沿岸や宍道湖等汽水湖周辺で干ばつ等により真水の供給が減り、塩類濃度が高くなった場合に塩害が発生する。一般的な塩害被害の状況、対策等は干害の項にまとめて記載してあるので参照する。

高温害

事前・応急対策


(1)品種選定:県内平坦部を中心に高温登熟性の高い品種を導入するとともに、熟期の早晩を組み合わせて危険分散を図る。
(2)作期移動:移植時期の組み合わせによって危険分散を図る。特に「コシヒカリ」は近年乳白粒が多発しており、発生の多い地帯では登熟初中期の気温を考慮して、出穂期を8月第2半旬以降とするため、5月下旬以降の移植とする。
(3)栽培法

  • 土づくり対策(根域を拡大するための深耕、肥効を安定するための有機物施用、根の健全化等を図るための土づくり肥料施用)を徹底し、気象条件に対する緩衝能力を高める。
  • 地力診断に基づく基肥施用や水管理の徹底によって過繁茂を防止する。
  • 生育診断に基づく穂肥施用によって適正な籾数とし、登熟向上を図る。
  • 登熟期の間断灌水を収穫近くまで継続する(胴割対策にもつながる)。灌水はできるだけ水温の低い夜間に行う。

・適期収穫(青味籾率10〜15%)の徹底を図る(胴割対策にもつながる)。

長雨害(寡日照害)

事前対策

(1)梅雨期の長雨・日照不足に対する対策

・品種選定:いもち病耐病性品種を選ぶ。

・作期移動:長雨の始まりは年による早晩はあるが、その時期にかなりの分げつ数を確保しておくためには早植を行う。また、作期の組み合わせにより危険分散を図る。

・栽培法

育苗:薄播し、健苗を育成する。

本田施肥:窒素の多用を避けリン酸、加里とのバランスを考えるとともに土づくり肥料の施用を行い健康な稲作りに努める。

水管理:気温、水温、地温の変化を考慮しながら間断灌水を行う。

(2)秋雨に対する対策

・品種選定:穂発芽性難、いもち病耐病性品種を選ぶ。また危険分散のため熟期の早晩を組合せる。
・作期移動:出穂・成熟期の幅をもたせるように作期を調節する。
・栽培法:過繁茂を抑制し、根の健全化を図り、生育診断に基づく施肥や天候に応じた水管理を行って、出穂後の日照不足に耐え得る稲体を作る。

(3)真夏の長雨・日照不足に対する対策

・品種選定・作期移動:上記に同じ。
・栽培法:地力診断に基づく適正な基肥施用や水管理によって過繁茂を防止するとともに、生育診断に基づく穂肥施用によって適正な着粒数を確保する。

応急対策

(1)梅雨期の長雨の場合

・水管理:極力排水に努め土壌中の酸素供給を図る。
・追肥:最高分げつ期を中心に加里の単独追肥(2〜3kg/10a)を行う。
・葉いもち対策。

(2)真夏の長雨および秋雨の場合

・水管理:極力排水に努める。
・穂発芽対策:穂発芽による芽ぐされ米の混入は、商品性低下の最大の要因であるが、これを防止する適切な方法はない。まず乾燥機を活用して、架干し中のものから、晴れ間を利用して脱穀乾燥し、架干し中の穂発芽を防ぐ。立毛中のものも、乾燥機の能力に応じて逐次、刈取り、脱穀、乾燥するようにする。
・倒伏対策:風害の項参照。
・穂いもち対策。


お問い合わせ先

農業技術センター

島根県農業技術センター
〒693-0035 島根県出雲市芦渡町2440
 TEL:0853-22-6708 FAX:0853-21-8380
 nougi@pref.shimane.lg.jp
  <携帯・スマートフォンのアドレスをご利用の方>
  迷惑メール対策等でドメイン指定受信等を設定されている場合に、返信メールが正しく届かない場合があります。
   以下のドメインを受信できるように設定をお願いします。
  @pref.shimane.lg.jp