掲載企業インタビュー VOL.2
二酸化炭素濃縮装置「ゼオコレクト」大福工業株式会社
フェリエライトを使ったCO2濃縮装置の用途拡大目指す
島根県出雲市枝大津町の総合建設業・大福工業(福代明正代表取締役社長)は、県内で産出する天然のフェリエライト(ゼオライトの一種)を使った二酸化炭素(CO2)濃縮装置「ゼオコレクト」を開発。大気中のCO2を圧縮した高濃度のCO2ガスを農業に利用することで、高品質な野菜・果実の生産や栽培コスト低減などを目指すほか、世界規模のCO2削減に向けた取り組みの中で用途拡大への研究を続けています。
二酸化炭素濃縮装置「ゼオコレクト」
▼イチゴは成育アップ、収量増
「ゼオコレクト」は、同県大田市内で産出されるフェリエライトにCO2を吸着する特性があることに注目した同社が島根県産業技術センター(松江市北陵町)と早稲田大学の産学官連携で2012年に3年がかりで完成させました。装置の仕組みは、砕いたフェリエライトを詰めた2本の筒状のカートリッジに空気を送り込んで加圧、減圧を繰り返し、大気の10~20倍に高めた高濃度のCO2をハウス内の植物苗に吹き付けて光合成を促進させ、成長を促します。同社によると、イチゴではゼオコレクトを使用しない場合と比べると果実が大粒になり、糖度は1・5度上昇、収穫量は35%増えたというデータが出ています。
約1万円/月の電気代でCO2ガスを連続で生成し、ランニングコストを低減。通年利用が可能で地球温暖化防止に貢献する点が注目されています。
装置の開発は、同社の小村一行環境技術部部長が約30年前に県の研究機関がまとめた県産のフェリエライトに関する論文を見つけて読み返し、その性質に注目したのがきっかけ。2010年に同部長が東京で行った講演を聴講した産業技術総合研究所(産総研)が後日、サンプルを取り寄せフェリエライトの吸着特性を確認したことから、農業分野に生かせないかと思いつきました。
「CO2をゼオライトに吸着させるには圧力がどれぐらい必要か、調節をどうするか、何分かけてガスを回収するか、といった実験を続け数値化したデータを追跡しながら試行錯誤を重ね、濃度を農作物の育成に最適な800~1200 ppm (最大 10000ppm 濃縮)にすることができました」と同部長。開発に携わった女性社員が「ゼオコレクト」と命名し、計10台を製作。天然のフェリエライトを使った環境に配慮した製品は、県内外の農家や企業に試験導入され、福岡、栃木両県の農業法人と研究機関に各1台販売されました。
「ゼオコレクト」を説明する小村部長
▼高い関心、JAXAも注目
農業や環境分野の各種展示会に製品を出展すると、業界紙にも取り上げられ、海外も含め100件近い問い合わせがあり、新しい農業のあり方として関心を集めました。ところが、生産者から設備投資等の問題などが立ちはだかり、農業への参入は容易ではありませんでした。そんな時、意外なところから声がかかりました。宇宙船内から排出されるCO2の処理などに関心を寄せていた宇宙航空研究開発機構(JAXA)がCO2濃縮装置1台を購入したのです。今も調布航空宇宙センターで同社とともに開発研究に取り組んでおり、農業以外の分野への参入を考えるきっかけになりました。
同社の福代社長は「農業分野はどうしても初期投資が課題になり、ゼオコレクトの生産拡大には難しい面がありますが、ゼオライトの吸着性を活用した重金属による地下水汚染を防止する改質剤の製造・販売なども進めています」と研究から派生した新しい取り組みを紹介。また、地球温暖化防止への関心が高まっていることに注目、「今はCO2対策を企業の社会的責任、社会貢献としてとらえる時代。JAXAや関心を示している企業と一緒に研究を重ね、農業分野に限らず、さまざまな分野での利活用を模索していきたい」と話しています。
今後の展望を語る福代社長
大福工業株式会社
代表取締役社長:福代明正
所在地:島根県出雲市枝大津町2番地7
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