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小学校複式算数科学習指導法〜主体的に学ぶ算数科学年別指導のあり方〜

島根県教育センター浜田教育センター企画幹安食徹

DVDDVDラベル

【複式算数科学年別指導について】

●従来、複式教育における学年別指導では『わたり』と呼ばれる指導法が用いられ、直接指導と間接指導を効果的に組み合わせることをねらい、『ずらし』と呼ばれる指導方法が重視されてきました。『ずらし』とは、2つの学年の学習過程をずらすことにより、学習指導上重要と考えられる場面に、教師が効果的に関わることをめざす方法です。

 また、従来からも間接指導の充実を図るため、ガイド学習やワークシートなどの様々な工夫が重視され、多くの取組がなされてきました。

●実際の『わたり』による指導においては、次のような課題が挙げられます。

1.教師が2学年にわたる授業内容をうまく組み立て、ポイントで効果的な直接指導を行えるように、授業構想や授業の準備に多くの時間を費やさなくてはならない。

2.児童のニーズや進度に応じて、授業の流れを柔軟に変えていくことが難しい。

●また、複式学級の学年別指導に対する困難さとして次の2点が挙げられます。

1.1人の教師が終始つきっきりで指導する単式学級と比べ、複式学級では半分しか指導する時間がない。

2.違う学習内容を指導しなくてはならないことや、間接指導の学年への配慮など、授業における教師の労力が多く必要とされる。

●どちらかといえば、指導上マイナスのイメージでとらえられがちな間接指導の時間について、跡市小学校では次のように積極的にとらえ直し、直接指導を軸にした授業構想から、間接指導を軸とした授業構想を立てて取り組みました。

1.児童が自分のペースで主体的に学習できる時間

2.児童が学び方を身に付け、自学自習をする力を伸ばすことができる時間

●同時間接指導とは児童に学習の見通しをもたせ、ガイドを中心に自分たちで学習を進めていく方法です。教師は児童のニーズに応じて関わる形をとります。

●跡市小学校で同時間接指導の実践を行っていく上で重視した点

1.授業の見通しをもたせる

 ・児童全員が見通しをもつことができる

 ・ガイド役の児童が自信をもって進行することができる

 ・自分たちで学習を進める楽しさを味わうことができる

2.『書く活動』を充実させる

 ・自分の考えを明らかにしたり、より深めたりすることができる

 ・友だちに伝えることが容易になり、自信を持ってコミュニケーションができる

3.お互いの考えを尊重し、自由なコミュニケーションができるようにする

 ・お互いに何でも質問したり、説明を補ったりすることができる

 ・コミュニケーションのよさを味わうことができる

 ※これらの地道な取り組みにより、児童は自信をもって学習を進められるようになってきました。

●ただし、児童の実態、単元の内容に応じて、従来の『わたり』の授業の長所を生かした授業構想を大事にしていくことも重要です。

【同時間接指導の授業の実際】

本時の目標

本時の目標

3年生

4年生

2位数×2位数(部分積がみな2けた)の計算のしかたを考え、

○×20と○×3のように、乗数の十の位と一の位をかけた部分

積の和で計算すればよいことに気付く。

小数に1位数をかける計算のしかたを考え、この場合の筆算

のしかたがわかる。

導入

 授業が始まると各学年毎に、ガイド役の児童を中心に1時間の学習の流れを確認します。わからないことは質問し、全員がきちんと見通しをもつことができるようにします。

 ・前もって、1時間の流れを板書しておきます。

 ・わからないことは、ガイド役の児童に質問します。

板書内容

3年生

4年生

板書内容

1.式をたて、そのわけを図や言葉で書く

2.計算のしかたを考え、図や言葉、式でノートに書く

(図、式とも書く)

3.聞き合い(1人か2人)14:43ごろまで

4.今日のアドバイス

5.感想

1.課題を書いて読む

2.3.6×7になる問題を考えて一人一つずつ発表する

3.3.6×7の計算のしかたを図や言葉でノートに書く

4.聞き合いをする(1人か2人発表)

5.3.6×7の筆算をノートに書く

6.1人が板書をして、教科書で確認する

7.今日のアドバイス

8.時間があれば59ページの2をする

9.感想

学習課題の確認

3年生の学習課題

4年生の学習課題

学習課題の確認

計算のしかたを考えよう!1まい12円の工作用紙を、

23まい買いました。代金はいくらですか。

3.6×7の計算のしかた(筆算のしかた)を考えよう!

※全員で読んで確認します。

学習課題の解決活動と教師の関わり

 学習過程が考える段階に入ると、教師は児童を観察しながら、ニーズに合わせて、指導や支援を個別に行ったり、必要に応じて全体を指導したりします。

発表と話し合い活動

 話し合う段階に入ると、児童の活動を見守りながら、より話し合いを深めたり、重要なポイントに気付かせたりするために教師が関わっていきます。

 発表の段階では、お互いの意見を聞き合い、尊重する態度が重要です。建設的な話し合いが行われるよいムードになっていくよう教師が常に学級全体に目を配り、必要な関わりをしていくことが大切です。

 ・教師は、児童の話し合い活動を見守っています。

 ・教師は児童の疑問に答えたり、必要に応じて全体を指導したりします。

 ・前時の記録を活用し、児童に既習の内容を想起しやすくさせ、これからの学習の流れや作業内容を理解しやすいようにします。

 ・4年生では、学習を自分たちで作り上げていく姿が見られます。その結果、教師の関わる機会は必然的に減っていきます。

まとめ

 まとめの段階では、児童の気付いたことを確認し、評価したり、重要なポイントについて補ったりするために教師が関わっていきます。まとめにおける児童の活動で感想を書き、自己評価を行うことも大切にしています。

 ・今日の学習で児童が気付いたポイントについて話し合い、『今日のアドバイス』としてまとめていきます。

 ・教師が本時のポイントについて確認します。

製作したDVDの概要

協力校:島根県江津市立跡市小学校製作:島根県教育センター浜田教育センター

DVDの写真

DVDの内容

学年別指導のポイント

 学年別指導では、2つの学年の児童にそれぞれ別の教科、あるいは同教科でも異なる内容を指導しなくてはならない。この場合、教師はそれぞれの学年の児童に異なる内容を指導することになる。そのため、一方の学年を指導している時間(直接指導)は、もう一方の学年にとっては、主体的に自分たちで学習を進めていく時間(間接指導)になる。

【学年別指導における学習過程の基本的な編成と指導の工夫】

 学習過程を大まかに「つかむ(問題把握)」→「考える(解決努力)」→「まとめる」(定着)→「広げる(習熟・応用)」の四段階であると設定した場合、この4つの段階を1つずつずらして下のように組み合わせることを「ずらし」という。

「わたり」の基本の進め方

※また、教師は2つの学年を交互に行き来するわけだが、このような教師の動きを「わたり」という。

【間接指導の時間の意義】

 この学年別指導における間接指導の時間は、教師がつかない「自習」のように見えるため、単式学級における指導の場合と比較して、教師の指導時間が2分の1しかないと思われがちである。

 単式学級から複式学級になったクラスの授業の参観後、保護者がよく「教育条件が悪くなった」と不安を口にすることがあるのも、間接指導の時間に教師がつかないことにより、指導効率が下がるという誤解があるからだと考えられる。

 つまり、教師が指導していないと子どもは学んでいないのではないかという誤解である。この誤解は保護者だけでなく、実は教員にもありがちである。しかし、この間接指導の時間を児童の主体的な学習の時間だと捉えると、この時間が意義あるものになってくる。この間接指導の時間を児童の主体的な学習の場にするために、これまでも「ガイド学習の導入」「ワークシートの活用」等様々な研究実践がなされてきている。

おわりに

このDVDには、平成22年度に制作したものに加え、平成3年度に制作したものも収録しております。

【平成22年度】

【平成3年度】

研究の概要

1.複式算数科の指導

(1)複式算数科学年別指導について

 1.「ずらし」について

 2.間接指導の充実について

 3.「わたり」による学習指導の課題について

 4.学年別指導における困難点について

(2)同時間接指導について

 1.間接指導についての積極的な捉え直し

 2.江津市立跡市小学校の授業構想

(3)授業実践のポイント

 1.見通しをもった学習活動

 2.書く活動の充実

 3.コミュニケーション活動の充実

 4.「わたり」の視点をもった授業構想の重要性

2.同時間接指導による授業

(1)各学年の学習目標

(2)授業の実際

 1.導入:学習の見通しをもつ

 2.学習課題の確認

 3.学習課題の解決活動と教師の関わり

 4.発表と話し合い活動

 5.まとめ

1.複式学級の指導

 (1)複式学級をもつ小学校の分布

 (2)小規模のよさを生かした指導

 (3)複式学級の学習風景

2.複式算数科の学習指導法

 (1)「わたり」による授業場面

 (2)直接指導、間接指導の場面

 (3)基本的な学習過程

 1.「つかむ」段階の指導

 2.「考える」段階の指導

 3.「まとめる」段階の指導

 4.「ひろげる」段階の指導

 (4)指導法の工夫

 ・学習過程のずらし

 (5)ずらしによる授業

 ・5年生のつかむ段階

 ・6年生のつかむ段階

 ・6年生の考える段階

 ・5年生のまとめる段階

 ・6年生のまとめる段階

 ・5年生のひろげる段階

 (6)類似教材による指導

 1.共通の学習場面の設定

 2.フリータイムの活用

 3.直接指導によるまとめ

 (7)教育機器の活用

 1.パソコンを使った授業

 2.VTRによる導入

 (DVDラベルの裏表紙の内容より)

 


お問い合わせ先

島根県教育センター浜田教育センター

〒697-0023 島根県浜田市長沢町1550-1
   TEL: 0855-23-6782(代表)
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