• 背景色 
  • 文字サイズ 

平成21年度再評価委員会からの意見具申

平成21年11月16日

島根県知事溝口善兵衛様

 島根県公共事業再評価委員会

 会長藤原眞砂

 公共事業の再評価について(意見具申)

 本委員会は、島根県の公共事業の再評価について慎重審議を重ねた結果、別紙のとおり意見を取りまとめましたので、これについて意見具申いたします。

 なお、県におかれましては、本委員会の意見を尊重し、公共事業の推進にあたられるよう要望いたします。

1平成21年度島根県公共事業再評価の結果の総括

 

 島根県では公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るため平成10年度から再評価制度を実施している。事業の再評価の重責を担っているのが第三者機関である「島根県公共事業再評価委員会」である。島根県は県財政の再建のために、平成20年度から23年度までの4年間を集中改革期間に充てており、公共事業費の縮減は、人件費の圧縮とともに歳出抑制のための大きな柱である。委員会もそのような県の大きな方針を念頭に置いて、公共事業の再評価作業を展開した。

 本年度、委員会に付託された事業再評価の対象事業は、土木部事業15件、農林水産部事業2件、県内2市施工の国庫補助事業2件であった。これら19件のうち、抽出して詳細審議及び現地視察を行った事業は土木部事業7件、農林水産部事業1件の計8件である。

 個別事業に対する委員会としての意見は別記されているので、ここではそれらと重複しない範囲で「総括的意見」を述べる。

 近年、大きな社会の変化が立て続けに生じている。経済面では昨年来のサブプライムローンの破綻に起因した未曾有の世界同時不況が進行し、対策を模索する動きが続いている。政治面では、国政レベルで与野党の逆転がついに生じた。新しい政権の舵取りに期待と不安が拡がっている。

気候面でも、地球環境の温暖化に起因するとされる豪雨等の災害の報に接することが多くなった。新政権は公共事業の見直しに急であるが、治山、治水対策事業の重要性に関する国民、県民の理解、認識は近年になく高いものがある。

 本委員会は事業の展開の5年あるいは10年の節目に当たる公共事業に関して、各事業の公共性の高さ、緊急性の強さ、社会的要請の大きさなどを勘案しながら、また個々の問題意識(自然環境、安全性への配慮等)を持ち寄りながら、事業の再評価に臨んだ。

今年度は新委員の参画もあり、再評価の基準となる便益の算出方法を再確認し、再任のメンバーも初心に戻って評価作業を重ねた。海岸浸食、総合流域防災など各種事業に関する国が定めた便益項目、またその計量化の手法を追跡し、便益の算出過程を確認した。便益、費用を比較考量することで公共事業の要、不要を検討した。

 総括すれば、委員会は県事業について土木部事業15件、農林水産部事業2件のすべてを「継続」ということにした。

 今後の事業の展開に関して、さまざまの希望、要望、きびしい条件がついたものがある。関係する、事業担当者はそれらに関して十分に留意を払われたい。コスト削減の努力を引き続き払うことは言うまでもない。治山、治水に関係した事業については県民の不安を緩和、払拭し、安全を確保するためにも早期の完成に努めて頂きたい。

 なお、国が定めた便益項目およびその価値の定量化手法は、定性的なものの便益の一部のみを計量化するものである。しかし、これにはまだ改善の余地がある。道路建設のB/Cの例で言うと、規定の評価項目は走行時間短縮便益、走行経費減少便益、交通事故減少便益である。しかし、産業振興での貢献が大と思われるのに、それが便益項目として設定されず、実態以上に価値が低く評価されるというケースが過去数年散見された。これに限らず、委員会では、視察や議論の場を通じて国が定める既存の各事業の便益評価手法に関して地方の実情に応じた評価項目の追加等、改善の余地があるとの意見が聞かれたことを記しておく。これらに関しては、今後、議論を深め、地方から国に対する制度改善の問題提起も必要と委員会は考える。

2審議対象事業

 島根県が、再評価の対象として提出してきた事業は下記のとおりである。

○土木部15箇所

 ・国道431号交通安全施設等整備事業西浜佐陀地区1箇所

 ・吉田掛合インター線地方道改築事業吉田工区1箇所

 ・広域河川改修事業高瀬川1箇所

 ・総合流域防災事業木戸川1箇所

 ・海岸環境整備事業持石海岸1箇所

・安全な暮らしを守る県単河川緊急整備事業道尻川1箇所

 ・港湾改修事業松江港馬潟地区1箇所

・港湾環境整備事業安来港港内地区、河下港垂水地区2箇所

 ・海岸侵食対策事業三隅港海岸湊浦地区1箇所

 ・通常砂防事業奥掛川、寺谷川、阿式谷川、丹堀川4箇所

 ・地すべり対策事業中遠田地区1箇所

 

○農林水産部2箇所

・県営林道開設事業足尾線、上ヶ床線第1期工事2箇所

 この他、県内2市長から2箇所の補助事業についての審議依頼が提出された。

3現地調査及び詳細審議案件

 ○土木部7箇所

 (1)国道431号交通安全施設等整備事業西浜佐陀地区

 (2)総合流域防災事業木戸川

 (3)港湾環境整備事業安来港港内地区

 (4)港湾環境整備事業河下港垂水地区

 (5)海岸侵食対策事業三隅港海岸湊浦地区

 (6)通常砂防事業阿式谷川

 (7)地すべり対策事業中遠田地区

 ○農林水産部1箇所

 (1)県営林道開設事業足尾線

 

4審議日程及び経過

 第1回平成21年6月16日(火)

 出席委員来海公子、高田龍一、南葉進、藤山晶子、藤原眞砂、

正岡さち、馬庭毅、森也寸志、和田登志子(50音順)

 再評価対象事業19箇所について、事業者から説明

 現地調査及び詳細審議箇所の抽出

 第2回平成21年7月30日(木)

 出席委員大西孝、来海公子、藤山晶子、藤原眞砂、

正岡さち、馬庭毅、森也寸志、和田登志子(50音順)

 現地調査

 海岸侵食対策事業三隅港海岸湊浦地区(浜田市)

 地すべり対策事業中遠田(益田市)

 県営林道開設事業足尾線(浜田市)

 第3回平成21年8月18日(火)

 出席委員大西孝、来海公子、高田龍一、藤山晶子、藤原眞砂、

正岡さち、馬庭毅、森也寸志、和田登志子(50音順)

 現地調査

 通常砂防事業阿式谷川(出雲市)

 港湾環境整備事業河下港垂水地区(出雲市)

 国道431号交通安全施設等整備事業西浜佐陀地区(松江市)

総合流域防災事業木戸川(安来市)

 港湾環境整備事業安来港港内地区(安来市)

 第4回平成21年9月7日(月)

 出席委員大西孝、来海公子、高田龍一、藤山晶子、藤原眞砂、

正岡さち、馬庭毅、森也寸志、和田登志子(50音順)

 抽出事業の詳細審議及び、それ以外の対象事業の審議

 第5回平成21年10月19日(月)

 出席委員大西孝、来海公子、高田龍一、藤山晶子、藤原眞砂、

正岡さち、馬庭毅、森也寸志、和田登志子(50音順)

 意見具申案の審議、国土交通省道路補助事業における費用便益比の再計算について

5詳細審議箇所の再評価結果

 

(1)【国道431号交通安全施設等整備事業西浜佐陀地区】→継続

 本事業は、一般国道431号の松江市西浜佐陀地内の一畑電車と並行する区間における踏切交差点部分の改良と同時に県立盲学校や観光施設などの利用者や密集近隣住宅居住者などの安全を図るための歩道整備からなっている。国道431号の朝夕の混雑に併せ、当該踏切は横断車両が多く交通渋滞に拍車をかけ、さらに安全対策の観点からも不十分な状況となっている。

本事業はこうした状況を解消するために計画されたものであり、渋滞緩和、安全対策の観点から早急な対策整備が求められるが、事業採択後10年を経過している。この主たる理由として、併設している一畑電車軌道の移設のための調整に時間を要した点が挙げられる。特に、当地域は軟弱地盤地帯であり、軌道移設に伴う地盤改良工法選定のための調査にかなりの期間を要している。幸い、地域住民の同意もあり既に用地買収は完了し、一畑電車軌道の移設工事も順調に進んでおり進捗率は77%あまりとなっている。

 当事業の重要性と効果の大きさを考慮すると、西浜佐陀地区国道431号交通安全施設等整備事業の継続は妥当であると判断され、早急な完成を期待する。

 

(2)【総合流域防災事業木戸川】→継続

 近年の降雨水害は、過去のデーターでは考えられない「記録的短時間大雨」、「ゲリラ豪雨」などと呼ばれる「狭い範囲で短時間に集中して降る大雨」による降り方が原因で大きな被害が毎年発生している。

 木戸川総合流域防災事業は、事業採択から19年、工事着工から13年を経過し、竣工予定は平成30年の長期事業である。木戸川は氾濫区域に市街地をかかえ、多くの住民が居住し、多くの資産があることから、中海の水位や流域からの洪水により一旦水位が上がれば広範囲が浸水し、被害も大きいと危惧され、用地補償がほぼ完了した現在、河道拡幅、道路の嵩上げ、水門の撤去など早期の対策が必要と考えられる。

 また、市街地における工事であることから、耕地の減少・宅地の増加、市役所・商業施設など市街地の変化、国道への影響または工事工法の進化など、様々な変化に対応し、工事コストの縮減を図りながら、事業効果の早期発現が図られるよう配慮が必要である。

 以上より、本事業が防災的見地から重要な事業であることを踏まえ、継続とすることが妥当と判断した。

 また、木戸川は市街地河川であることより、地元町内会、市民団体、学校関係者、地元安来市等と協力し、親水性のある計画とされたとのことである。今後も地域と協力し、市民に愛されるような川づくりが実現できるよう希望するものである。

 現在の氾濫想定流域の方々への広報活動を充実していただき、この地域にはどのような水害が想定され、その為に必要な対策等の話合いを実施することで、地域と協力して水害の防止を図るとともに、河川環境の保全に取り組まれたい。

 

(3)【港湾環境整備事業安来港港内地区】→継続

 本事業は、安来港の海底を良質な砂で覆うことにより多様な生物が棲息する水辺環境を創造し、快適な県民生活の回復を図ることを目的としており、既に61%が進捗している。この事業は、環境再生を目的とした将来を見据えた大事な事業であると考え継続とした。

 一方、自然が相手なので淡々と事業を進めていけば当初の目的が達成されるという単純なものではないとも認識しており、大切な税金で県民の将来を見据えた事業を行うのであるから、当初の事業目的が達成されるよう関係者が最大限の努力を図る必要がある。

そのために次の点に留意して取り組んでいただきたい。

1)県民に対する事業責任を果たすため、海底の状況を常にモニタリングしながら工事を進めるとともに、工事完了後も結果をフォローし続け、必要ならば追加対策を行うなど確実に微生物や水生動植物が棲む豊かな環境が創造されるよう取り組む。

2)環境改善は単なる対処療法的な対策では根本的な解決策とはならない。人類の発展に伴う自らの汚水の垂れ流しを極端に制限しあるいは制御し、根元となる排水を浄化して初めて宍道湖・中海の自然環境向上に寄与するものと考える。

従って、本事業だけではなく湖沼全体の課題として如何に浄化対策を行うのか、宍道湖・中海全体プロジェクトのアプローチの中で、これまで以上に関係機関が連携を取りながら総合的に行うべきものと考える。

 本事業の費用対効果は、地域住民へのアンケート調査により「一世帯当たりの支払い意思額」を聞くことにより算出しているため、一般的な県民感覚からすると判り難くなっている。県民が納得できる説明となるように、国土交通省のマニュアルに沿った算定だけではなく、独自の視点からもその必要性を強調し、その効果をわかり易い形で説明するように改善されることを要望する。

(4)【港湾環境整備事業河下港垂水地区】→継続

 河下港は、島根県東部における港湾物流の拠点として港湾改修事業により整備を進めており、平成19年10月には大規模地震にも耐えうる耐震強化岸壁として−7.5m岸壁130mの供用を開始した。

 本事業は、この岸壁整備に併せ、垂水地区を震災時における避難、緊急物資の受け入れ、管理、輸送等を行う基地として、また、臨時のヘリポートとして利用が可能となる防災緑地の整備を行うもので、平成12年度から着手し、島根県地域防災計画における県東部地域の拠点港として今後重要な役割を担うことが期待されている。

 本事業は、進捗率が今年度末で85%に達していること、事業実施にあたって港湾改修事業による岸壁整備に伴い発生した浚渫土等を緑地用地の埋立に流用するなどコスト縮減に対する努力が図られていること、さらに本事業の特殊性すなわち有事の際の重要性は、危機管理意識の高まりにより増していることなどから継続と判断した。

 しかしながら、常時における港湾緑地の整備目的を地元住民や近隣地域住民が十分理解できるように、また、港湾周辺の環境改善や、交流、レクリエーションの創出効果がどれだけ期待されるかについて、一層の説明責任を果たすとともに、事業完了後の利活用が促進されるよう、住民サイドの目線でハード、ソフトの両面から検討し、場合によっては計画変更を行うといった柔軟な対応がなされることを期待する。

 また、官民一体となった島根県東部拠点港づくりに向けた取り組みに対しては、個性的で活力あるみなとづくりの実現に向け、たとえ小さな動きでもまずは真摯に受け止め、協議を重ね、事業の推進にベストを尽くし、住民を主軸において関係者が一丸となって取り組むことこそ、真の実効ある事業展開となり、名実ともに出雲圏域の海の玄関口としてふさわしい河下港の発展が期待されるものである。

 

(5)【海岸侵食対策事業三隅港海岸湊浦地区】→継続

 本事業は浜田市三隅港湊浦地区において、砂浜の侵食を防止して海岸の保全を図るために3基、延べ300メートルの離岸堤(潜堤)を整備するもので、平成12年度に事業着手してから10年を経た今年度末における進捗状況は進捗率52%と見込まれている。

 この地区は昭和60年以前までは「田の浦海岸」と呼ばれる美しい海岸線を誇っていたが、砂浜が徐々に侵食されたことで海岸線は消失の危機に直面し、今や護岸を越える高波による越波被害や既設護岸の崩壊災害も度々発生するに至り、これらの災害防止の観点からも、漂砂の確保と風浪による侵食を防ぐ海岸保全事業に着手したものである。従って、この離岸堤(潜堤)の整備は国土の保全と背後の民家の人命や財産の保護、JR山陰本線や道路などのインフラに悪影響を与えないようにすることを目的としたものであると言える。

 本委員会の現地視察及び詳細審議において、二つの疑問点に対する説明があった。昭和60年以降急速に砂浜が消失した原因について、究明は残念ながら未定のままであるが、土砂の流出を防ぐことで侵食の進行を防ぎ、国土の保全に専念したとする点、また、潜堤の効果について、海面下にある潜堤は背後の砂の安定を図り土砂の流出を防ぐもので、堆積効果はあまり無いが、海面下の構造物であるため景観上優れているとする点などの説明のように、本事業の必要性については異論の声はないものの、原因に応じた工法の妥当性、実施効果や即効性に地域的な差異があるなど、本事業の特殊性について今後も委員や県民に判りやすく説明責任を果たしていくよう努めるべきであると思われる。

 本事業は50%強の進捗状況で整備の効果は今後徐々に現れることが期待されるが、公共事業として防災的な見地からその整備は意義が認められるので、本委員会としては継続が妥当であると判断した。

(6)【通常砂防事業阿式谷川】→継続

 本事業は、出雲市大社町地内の二級河川堀川に流入する阿式谷川についての砂防事業である。流域一帯は軟質な堆積岩である新第三紀層が分布し、急勾配で、山腹の崩壊や渓流の浸食が著しく荒廃が進んでいるため、土石流の危険性が高い。また、下流には、多くの家屋のほか、緊急時のライフラインたる国道431号線が通過しており、集中豪雨等によって土石流が発生した場合には大きな被害が予想される。実際、時間当たり50mm以上の強い雨は増加傾向にあり、また、本年度7月の集中豪雨では全国各地で土砂災害が相次いだところであり、こういった渓流における砂防事業の必要性は高い。

 周辺の土地利用については事業採択当時から大きな変更はなく、従って砂防堰堤による土石流の防止には合理性があり、地域における事業の必要性を満たしていると判断できる。同事業は採択から10年で進捗率48%(完了予定年度平成29年度)となっており、防災という観点からは早期の事業の完成が望まれるところである。また、近年の砂防堰堤では、堆積した土砂を取り除くリフレッシュ事業も平行して行うため、維持管理をしながら、より長期に機能する工夫を行っている。

 現在は付替市道を整備中である。経済性等の比較検討は行われているが、地形的に難所が多く、また、途中に2つの橋があるために3億円がこの付替市道の整備にあてられる予定である。総事業費が7億円弱であることを考えると高い割合であるが、公共事業においては既存の公共施設等の機能補償が求められており、今後、安全な範囲でより経済的な工法を模索することを期待したい。その経済性の模索の姿勢が、どのような経済状況にあっても堰堤の確実な完成につながり、結局は地域住民のために資する事業につながると考える。

 

(7)【地すべり対策事業中遠田地区】→継続

 本事業は、益田市における当該地区の慢性的な地すべりによる被害の防止を目的として平成12年度に事業採択されたもので、総事業費5億円、完了予定年度は平成30年である。現在、進捗率40%で、他の地すべり対策事業同様、緊急度の高いブロックから順次進められている。

 現在、当該地区にある河川や道路、建築物等とともに人命を守るためには、優先して行わなければならない事業と考える。そのため、事業としては、継続することに異論はない。

 ここで、県内の地すべり対策事業全般についてみると、砂防課によれば、現在抱えている事業は15件であるが、島根県特有の脆弱な地質のため、それ以外にも危険箇所が249箇所(うち概成箇所95箇所)あり、約64%が未整備ということであった。それゆえ、例年、再評価委員会の対策事業としてあがってくる類の事業であり、今後も、再評価の対象事業としてあがってくるであろう事は容易に予測される。

 地すべり対策事業に関しては、これまでも、様々な意見交換がなされており、多くの課題が存在することも事実である。例えば、居住地域への愛着は理解できるものの危険箇所に暮らしているという危険性を住民が果たしてきちんと理解できているのか、また、緊急度の高い箇所から工事を進めているうちに未整備箇所に災害が起きてしまわないか、等である。

 特に、危険箇所に暮らす住民の危険度の認識や住民の生活の安全の保障という点を見てみると、当該地区の住民等の移転に関する制度が存在しないため、危険と知りつつ住み続けなければならなかったり、また、よほどの危険地区以外は建築制限がないということで、建築申請があった場合は、危険である旨を告げ建築方法を工夫する等の指導しか、手立てがないとのことである。

 振り返って、地すべり対策事業の目的を見てみると、発足当初は国土の保全であったのが、その後、民生の安定が追加されたという経緯がある。

 以上のようなことから、地すべり対策事業全体について、危険性、緊急性、公共性において優先区域の選択にはより一層の慎重を期すとともに、民生の安定という目的に則して、ハード面だけでなく、防災対策を中心としたソフト面の充実をより図って頂くとともに、さらに、担当部署の枠を超えたより大きな視点からの対策の必要性を県から国へ訴えていくことも必要ではないかと考える。

(8)【県営林道開設事業足尾線】→継続

 この事業は、効率的な森林施業・労働環境・生産性の向上を図るための幹線道路として平成6年度に採択され、現在進捗率76%である。

 現地は、広島県との県境近くの険しい山地で、生活道路などの活用はあまり見込めない林道である。こうした場合、往々にして伐採後の森林の放置にともなう林道の荒廃が心配される。特に急峻な斜面を有する林道は、崖崩れなどが度々発生し、通行不能になったままの道路をよく見かける。「足尾線」には、地域住民を中心に"林道足尾線推進協議会"ができている。管理においては、その協議会と浜田市と協議し、保守保全に関しての県の指導と事後チェックが肝要と思われる。

 また、昨今の森林に関する新しい動向も注目するべきである。森林が県土の78%を占める島根県は、全国で3番目の森林県である。環境問題がクローズアップされている今、島根県の大きな財産になりうることを念頭に、森林活用の術を考えていただきたい。高知県をはじめ他県のアイデアも参考にしながら、森林整備課、林業課、県中山間地域研究センター等との連携を図り、島根県独自の森林の在り方を明確に示した上での事業展開を望む。これからの林道に関しては開通すればそれで完了ではなく、県土の大部分である森林を未来に向かって活かす道でなければならないと考える。林業従事者のみならず、周辺の住民や県民、都会の企業や一般人が森林の活用に参加できるシステムづくりを、県が主体となってコーディネイトすることが必要と思われる。林道開設は、そのビジョンと方向性を示す大きなチャンスである。

 これまで整備された「足尾線」には山菜採りやハイキングに訪れる人も見受けられるようになったとの報告もある。本来の林道の役割以外でも、森のあらゆる可能性を引き出す機能を持つ道づくりを目指して欲しい。

 森林荒廃を防ぐとともに、新しい島根の森づくりの指標になるための林道開設と将来性を期待して、この事業を継続とする。

 

6その他の審議箇所の再評価結果

 

 下記の9箇所の事業については、詳細審議は行わなかったが委員会で異論はなく、事業者からの対応方針案のとおり「継続」が適当であるとの結論に達した。

・吉田掛合インター線地方道改築事業吉田工区

・広域河川改修事業高瀬川

・海岸環境整備事業持石海岸

・安全な暮らしを守る県単河川緊急整備事業道尻川

・港湾改修事業松江港馬潟地区

・通常砂防事業奥掛川、寺谷川、丹堀川

・県営林道開設事業上ヶ床線第1期工事

 

7国土交通省道路補助事業における費用便益比の再計算について
 

 国土交通省より、本県が実施中の補助道路事業13事業及び補助街路事業2事業の計15事業について、将来交通量推計、評価単価等の見直しに伴う費用便益比(B/C)の再計算を行うよう指示があったことを受けて、事業者より次の報告があった。

 

(1)再計算の結果、国道375号湯抱バイパス、国道431号東林木バイパス、国道488号長沢バイパスを除く12事業については、通常の3便益(走行時間短縮、走行経費減少、交通事故減少)により算定されるB/Cは1.0以上であった。

(2)国道375号湯抱バイパスについては、通常の3便益以外の効果(災害時等による通行止めの考慮、冬期の交通状況の考慮)を加味した場合には、B/Cが1.0以上であるため、継続して事業を実施したい。

(3)国道431号東林木バイパス、国道488号長沢バイパスについては、(2)に示す効果を加味した場合においてもB/Cは1.0未満であるが、救急医療、環境への影響、生活圏域の一体化、日常生活の利便性向上、観光産業の振興等の効果を考慮し、継続して事業を実施したい。

 

 現在の費用対効果における便益項目およびその価値の定量化手法は、地方の道路整備の実情を反映していないと考える。

中山間地域等の地方部においては、救急医療、観光振興、産業振興等での貢献が大きいにもかかわらず、便益項目として設定されていないため、実態以上に価値が低く評価されている。そのため、地方の実情に応じた評価項目の追加をするなど改善が必要であると考えられる。

 したがって、多様な効果を加味した事業者からの報告は、当委員会としては妥当であると判断し、継続して事業を実施すべきものとの結論に達した。


お問い合わせ先

技術管理課

〒690-0887 島根県松江市殿町8番地(県庁南庁舎)
【品質管理、成績・表彰に関すること】
 TEL 0852-22-5389(工事品質管理スタッフ)
【公共事業評価、総合評価方式に関すること】
 TEL 0852-22-5650(公共事業調整スタッフ)
【積算基準・単価に関すること】
 TEL 0852-22-5942(農林設計基準係)
 TEL 0852-22-5941(土木設計基準係)
【しまね・ハツ・建設ブランド、i-Constructionに関すること】
 TEL 0852-22-6550(企画調査係)
【公共土木施設の老朽化対策に関すること】
 TEL 0852-22-6014(長寿命化推進室)
【その他のお問い合わせ】
 TEL 0852-22-5652(代表)
 FAX 0852-25-6329
 e-mail gijyutsu@pref.shimane.lg.jp
※入札参加資格、電子入札については、土木総務課建設産業対策室(0852-22-5185)にお問い合わせください。