ジューンブライド・フライト胸赤大蟻
令和7年6月5日(木)晴れ
センター敷地の路上で細長く黒っぽいものが動いています。間近で見れば、ムネアカオオアリ(胸赤大蟻)の 女王アリの
ようです。
胸部が赤い色をした大型のアリということが名前の由来。日本に約300種いるアリのなかで最大級の種で、 島根県には
本種と並ぶ大型種のクロオオアリ(黒大蟻)もいます。
本種は北海道〜九州(沖縄を除く)の日本各地に分布しています。主に齢級の高い発達した森林環境に生息し、 朽ち木の中に
巣を作ります。ここ、中山間地域研究センター周辺の森林でも多く見られます。
見つけた女王様の体長は18mmくらい。
翅端まで含めると優に20mmを超え、いっそう大きく見栄えがします(しかもカッコイイ!)。
アリの多くの種類は今の時期に、翅を持った多数の女王アリ、王アリが同調して複数の巣から飛び立って空中で交尾をします。
結婚飛行と呼ばれており、今ならジューンブライド・フライト、といったところでしょうか。 新天地に舞い降りたムネアカオオアリの
女王は、巣作りに適した朽ち木を探しあてると翅を落とし、内部に営巣を始めます。本種の女王アリの寿命は長く、10年以上生きることが
知られています(働きアリの寿命は長くて1年程度)。この間、卵を産み続け、育った働きアリによって居城は拡大。1000個体を超える
コロニーが形成されます。一方、王アリは結婚飛行を終え、地上に降りると間もなく寿命が尽きてしまいます。
以前、鳥獣対策科が行ったツキノワグマの食性調査への協力で、胃の内容物を実検していた際、このムネアカオオアリの幼虫、蛹、成虫が
しばしば出てきたことがありました。アリとしては大きなサイズなので、各種の捕食動物にとっては「食いで」があります。ツキノワグマに
とっては、土中に巣を作る他のアリに比較して、朽ち木の中に営巣する本種は探索・採餌しやすく、しかも、まとまった量の良質なたんぱく源が
得られる、有難いアリです。
営巣に適した場所を探すため、女王アリは飛び立って行きました(採集できず)。このジューンブライド花嫁の築くコロニーが中山間地域で
立派に繁栄してゆくことを祈ります。
働きアリ。女王アリに比較して小型ですが、それでも12mmほどあり、アリの中では格段に大きい。
写真の個体は先月、虫好きの森本研究員がセンター構内で採集したもの。
※胸部(前胸・中胸・後胸)の赤色部の範囲が、中胸・後胸のみのものをニシムネアカオオアリ(西胸赤大蟻)とする図鑑もあります。
色のほかは形態的な区別点がないため、独立種とするかどうか検討されています。このコラムではムネアカオオアリとして扱いました。
農林技術部福井
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