職員の給与等に関する報告
まえがき報告及び勧告に当たって
人事委員会の勧告制度は、公務員の労働基本権制約に対する代償措置として、職員の勤務条件を社会一般の情勢に応じた適正なものとする機能を有しており、労使交渉によって給与を決定できない職員が、県行政を公正かつ効率的に進めるという使命感を持ち、安心して職務に取り組むための基盤であるとともに、職員の勤務条件について県民の理解を得る上で重要な役割を担っている。
また、地方公務員の給与については、地方公務員法で「職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない。」という均衡の原則に基づいて決定することとされている。従来は、この均衡の原則については、国家公務員の給与に準ずることで実現されると解されてきたが、最近は地域の民間事業所従業員の給与をより重視することが求められている。
昨年秋のアメリカにおける大手証券会社の経営破綻をきっかけとして、世界経済は「百年に一度」と言われる深刻な不況に陥ったが、県内においてもその影響は大きく、これを反映して、今年の職種別民間給与実態調査では、県内の民間事業所における月例給、特別給の支給水準が昨年と比べ大きく低下しているなど、県内民間事業所の経営環境が極めて厳しいものとなっていることが明らかになった。今回の職員の給与等に関する報告及び勧告は、このような民間給与の実態を反映したものとなっている。
現在、本県においては、危機的な財政状況の下、定員削減をはじめとする行政の効率化・スリム化、事務事業の見直しなど更なる行財政改革への取り組みが進められている。
このような状況において、本県職員は、限られた予算と人員の中で最大限の効果を発揮できるよう、今後一層の業務の効率化や職務能力の向上に努めるとともに、複雑・多様化する業務に対し、強い使命感を持って立ち向かっていくことが求められている。
職員には新しい時代の地方自治を支える全体の奉仕者として、県民の期待と要請に応えるよう職務に精励することを切に要望するものである。
職員の給与等に関する報告
本委員会は、地方公務員法の規定に基づき、平成21年4月1日現在の島根県職員12,648人に係る給与並びに県内121の民間事業所の従業員4,987人の給与(以下「民間給与」という。)の実態を把握するとともに、職員の給与等を決定する諸条件について調査検討を行ってきたが、その結果の概要は次のとおりである。
なお、職員の給与については、職員の給与の特例に関する条例(平成15年島根県条例第15号。以下「特例条例」という。)により減額して支給されている(注)ことから、このような状況も踏まえて報告を行うものである。
(注)本県においては、県財政の健全化へ向けた取組として特例条例が制定され、平成15年4月以降、職員の給料、諸手当が減額して支給されている。当該条例は数次の改正(減額率の改定、減額期間の延長等)を経て、現在の減額期間の終期は平成23年度末とされている。
○減額率(給料及び給料月額を算出基礎とする諸手当(退職手当除く))
- 管理職:10%・8%(管理職手当は25%・20%)
- その他:6%(若年層の諸手当連動は3%)
1職員給与等の状況について
(1)職員の構成等
職員には、その従事する職務の種類に応じて、行政職、公安職、医療職、教育職など9種類の給料表が適用されており、その構成比をみると、中学校及び小学校教育職が37.6%と最も高く、以下行政職30.4%、高等学校等教育職16.3%、公安職11.6%等の順となっている。
また、職員の平均年齢は43.9歳、平均経験年数は21.8年となっており、このうち行政職の職員についてみると、平均年齢は44.3歳(昨年44.2歳)、平均経験年数は22.8年(同22.7年)となっている。(参考資料第1表:PDF版65.7KB)
年齢階層別の職員数を10年前と比較してみると、近年の採用者数の抑制を受けて職員数が減少する中、平均年齢は全職員で3.4歳、行政職では4.4歳上昇している。(参考資料第4表:PDF版144.1KB)
(2)職員の給与
平成21年4月分の職員の平均給与月額は、特例条例による減額措置前(以下「減額措置前」という。)では404,778円であり、特例条例による減額措置後(以下「減額措置後」という。)では379,648円となっている。
また、行政職の職員の平均給与月額(以下「職員給与」という。)は、減額措置前では382,414円で、昨年に比べ2,023円減少(マイナス0.5%)しており、減額措置後では358,026円で1,933円の減少(マイナス0.5%)となっている。
職員の平均年齢が昨年に比べ高くなっているにも関わらず、平均給与月額が減少しているのは、平成18年4月の給料表の切替に伴う経過措置により支給されている差額(注)(以下「切替に伴う差額」という。)が減少していることによる。(参考資料第7表:PDF版67.1KB)
(注)国においては、平成18年4月から、全国共通に適用される俸給表の水準について、民間賃金水準が最も低い地域に合わせ、平均4.8%の引下げ改定を行い、経過措置を設けて段階的に実施するなどの改正が行われた。
本県においても、国に準じて給料表の引下げ改定が行われている。
○経過措置の内容
改定後の給料表の適用の日(平成18年4月1日)における給料月額が、その前日に受けていた給料月額(切替前給料月額)に達しない職員に対しては、その者の受ける給料月額が、昇給等により切替前給料月額に達するまでの間、その差額を支給する。
2民間給与等の状況について
本年5月から6月にかけて、職員の給与等と比較検討するため、人事院と共同で、企業規模50人以上で、かつ、事業所規模50人以上の県内229の民間事業所のうちから層化無作為抽出法(注)により抽出した126事業所を対象に「平成21年職種別民間給与実態調査」を実施し、うち121事業所の調査を完了した。(参考資料第19表:PDF版83.6KB)
民間給与実態調査の調査完了率は、調査の重要性に対する民間事業所の理解を得て、96.0%と引き続き極めて高いものとなっている。
なお、調査では、公務の行政職と類似すると認められる事務・技術関係職種3,719人及び研究員、医師等職種1,268人について、本年4月分として支払われた給与月額等を調査するとともに、各民間企業における給与改定の状況や、雇用調整の実施状況等についても調査を行った。
(注)層化無作為抽出法とは、特定の条件でグループ(層)を作成し、それぞれの層から無作為に対象を抽出する方法。民間給与実態調査においては、「産業」「企業規模」「組織」を基準として層を作成し、各層から一定数の事業所を無作為に抽出し、調査対象としている。
(1)本年の給与改定等の状況
一般の従業員(係員)の給与改定状況をみると、ベースアップを実施した事業所の割合は17.2%と昨年(38.0%)に比べて半減し、ベースアップを中止した事業所は35.7%(昨年16.9%)と倍増している。
また、一般の従業員について、定期昇給を実施した事業所の割合は65.5%と昨年(79.7%)に比べて減少しており、昇給額については、昨年に比べて増額となっている事業所の割合は26.0%(昨年45.4%)と大幅に減少している。さらに、定期昇給を停止した事業所の割合は15.1%(同1.7%)と著しく増加している。
(2)雇用調整の実施状況
平成21年1月以降の民間事業所における雇用調整の実施状況をみると、雇用調整を行った事業所の割合は55.7%と昨年(23.1%)に比べて倍増している。特に、残業の規制、一時帰休・休業、賃金カットを行った民間事業所が大幅に増加するなど、極めて厳しい経営環境にあることがうかがえる。
3物価及び生計費について
本年4月の消費者物価指数(総務省)は、昨年4月に比べ、全国でマイナス0.1%、松江市で0.0%であり昨年同時期とほぼ同水準であった。
また、勤労者世帯における消費支出(総務省「家計調査」)等を基礎として算定した本年4月の松江市における2人世帯、3人世帯及び4人世帯の標準生計費は、それぞれ157,450円、195,590円及び233,750円となっている。(参考資料第29表:PDF版84.3KB、第30表:PDF版77.7KB)
4都道府県職員の給与について
先に総務省が公表した平成20年4月1日現在の都道府県ラスパイレス指数(行政職)の平均は、99.4であった。
本県のラスパイレス指数は、特例条例による給与の減額措置の影響もあり92.9となっており、平成17年度以降は全国最低水準となっている。
5職員給与と民間給与との比較
(1)月例給
職員給与と民間給与との比較は、職員と民間企業従業員の同種・同等の者同士を比較することを基本として、公務においては行政職給料表適用者、民間においては公務の行政職と類似すると認められる事務・技術関係職種の者について行っている。
また、職員と民間企業従業員では、それぞれ年齢、学歴などの人員構成が異なっており、このように異なる集団間での給与の比較を行う場合には、それぞれの集団における単純な給与の平均値を比較することは適当ではないため、主な給与決定要素である役職段階、年齢、学歴を同じくする者同士を対比させ、精密に比較(ラスパイレス方式)を行っている。(参考資料第20表:PDF版83.6KB)
本年4月分の給与額について、職員給与と民間給与を比較すると、民間給与373,191円に対して職員給与は減額措置前では384,058円であり、10,867円(2.83%)上回っているが、減額措置後では359,556円であり、逆に13,635円(3.79%)下回っている。(参考資料第16表:PDF版67.3KB)
(2)特別給
昨年8月から本年7月までの1年間において、民間事業所で支払われた特別給は、所定内給与月額の3.65月分に相当していた。これは、昨年(4.01月分)より減少しており、職員の期末手当・勤勉手当の年間平均支給月数(4.25月)を0.60月分下回っている。(参考資料第27表:PDF版64.5KB)
なお、特例条例により、期末手当・勤勉手当も連動して減額されており、期末手当・勤勉手当の支給月数から特例条例による減額率分に相当する月数を減じた月数(4.00月分)と比べても、民間の支給割合が0.35月分下回っている。
6人事院勧告の概要
人事院は、本年8月11日に、国会及び内閣に対して一般職の国家公務員の給与等について報告し、併せて給与等の改定について勧告を行ったが、その概要は次のとおりである。(参考資料6:PDF版375.9KB)
【職員の給与に関する報告・勧告】
(1)民間給与との較差に基づく給与改定
ア)公務員給与と民間給与の実態
(ア)公務員給与の状況
民間給与との比較対象である行政職俸給表(一)適用者(157,357人、平均年齢41.5歳)の本年4月における平均給与月額は391,770円となっており、税務署職員、刑務官等を含めた職員全体(277,655人、平均年齢41.9歳)では406,463円となっている。
(イ)民間給与の状況
一般の従業員について、ベースアップを実施した事業所の割合は昨年に比べて大幅に減少している。
また、定期昇給の額が昨年に比べて増額となっている事業所の割合が昨年に比べて減少しているのに対し、減額となっている事業所の割合は増加している。さらに、平成21年1月以降に雇用調整を実施した事業所の割合は50.2%で、その内容は残業の規制、採用の停止・抑制、非正規社員の契約更新の中止・解雇の順になっている。
イ)民間給与との比較
(ア)月例給
公務においては行政職俸給表(一)、民間においては公務の行政職俸給表(一)と類似すると認められる職種の者について、4月分の給与額の比較(ラスパイレス方式)を行ったところ、公務員給与が民間給与を863円(0.22%)上回った。
(イ)特別給
昨年8月から本年7月までの1年間において、民間事業所で支払われた特別給は、所定内給与月額の4.17月分に相当しており、職員の期末手当・勤勉手当の年間の平均支給月数(4.50月)が民間事業所の特別給を0.33月分上回っていた。
ウ)本年の給与の改定
(ア)俸給表
本年の民間給与との較差の大きさ等を考慮して引下げ改定を行うこととする。
改定に当たっては、基本的に各俸給月額について平均0.2%の引下げとするが、1級から3級までの一部の俸給月額については引下げを行わないこととする。一方、7級以上については平均0.3%の引下げとする。また、一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法律(平成17年法律第113号)附則第11条の規定による俸給(経過措置額)の算定基礎となる額についても、改定時において引下げ改定が行われる俸給月額を受ける職員を対象として引き下げることとし、その引下げ後の額は、当該算定基礎となる額に調整率(△0.24%)(注)を考慮して定めた100分の99.76を乗じて得た額とする。
また、行政職俸給表(一)以外の俸給表(医療職俸給表(一)及び任期付研究員俸給表(若手育成型)を除く。)についても、行政職俸給表(一)との均衡を基本に、所要の改定を行うこととする。
(注)行政職俸給表(一)適用職員全体に係る民間給与との較差の合計額を引下げ改定が行われる俸給月額を受ける職員の給与月額の合計額で除して得た率。
(イ)自宅に係る住居手当
主に自宅の維持管理費用を補てんする趣旨で昭和49年に設けられたが、創設以来手当額の改定が行われないなど、公務部内でその趣旨が定着しなかったことにかんがみ、平成15年に住宅の新築・購入後5年に限り支給される手当のみを残して廃止したものであるが、当該存置した手当についても、措置しておく必要性が認められないことから、廃止することとする。
(ウ)期末手当・勤勉手当
民間の特別給の支給割合との均衡を図るため、支給月数を0.35月分引き下げ、4.15月分とする。本年度については、6月期において凍結した支給月数分(0.2月分)を減じた月数(0.15月分)を12月期の期末手当・勤勉手当から差し引くこととする。来年度以降においては、本年の公務の6月期の支給状況及び民間の特別給の支給状況を参考に6月期及び12月期における期末手当・勤勉手当の支給月数を定めることとする。
(エ)超過勤務手当の支給割合等
労働基準法の一部を改正する法律(平成20年法律第89号)の平成22年4月1日の施行を踏まえ、月60時間を超える超過勤務に係る超過勤務手当の支給割合を100分の150に引き上げるとともに、当該支給割合の引上げ分の支給に代えて正規の勤務時間においても勤務することを要しない日又は時間(代替休)を指定することができる制度を新設する(平成22年4月1日実施)。
(オ)改定の実施時期等
公布日の属する月の翌月の初日(公布日が月の初日であるときは、その日)から施行する。ただし、超過勤務手当の支給割合等の改定は、平成22年4月1日から施行する。本年4月からこの改定の実施の日の前日までの期間に係る較差相当分を解消するため、本年4月の民間給与との比較の基礎となる給与種目の給与額に調整率(△0.24%)を乗じて得た額に、本年4月からこの改定の実施の日の属する月の前月までの月数を乗じて得た額と、本年6月に支給された特別給に当該調整率を乗じて得た額を合算した額を基にして、本年12月期の期末手当の額において調整を行うこととする。
(2)給与構造改革の進捗状況等
ア)給与構造改革の進捗状況
給与構造改革は、平成18年度から平成22年度までの5年間で段階的に実施してきており、昨年までに当初導入を予定していた施策のすべてを制度化した。
イ)地域別の民間給与との較差の状況
平成21年において、地域別にみて、国家公務員給与が民間給与を上回っている地域の中で、その較差が最も大きい地域の較差と全国の較差との差は給与構造改革前より減少し、地域別の較差は縮小の方向にある。
ウ)平成23年度以降の取組
勤務実績の給与への反映の推進については、新たな人事評価制度に基づく評価結果の給与への活用状況を踏まえつつ、必要に応じた見直しを検討することとする。
地域間給与配分の見直しについては、本府省等からの異動者に対する地域手当の異動保障や広域異動手当の新設が、地域別較差の算定基礎となる地域の国家公務員の平均給与月額に反映されている一方、同一地域に引き続き勤務する国家公務員にはこれらの改定等は影響しないことにも配慮した検討が必要となる。
平成23年度以降において残存する経過措置が段階的に解消されることに伴って生ずる制度改定原資については、若年層給与の引上げや諸手当の見直し等に充てることなどが考えられる。
また、公務員の高齢期の雇用問題に関連して、60歳台前半の給与水準・給与体系について検討を早急に進めるとともに、在職期間の長期化に伴う給与制度上の様々な問題に対処していくことも求められる。
(3)公務員の高齢期の雇用問題:65歳定年制の実現に向けて
ア)雇用と年金の連携を図ることは公務・民間の共通の課題であり、既に民間企業に関しては65歳までの雇用確保措置を義務付け
イ)平成25年度から、定年年齢を段階的に65歳まで延長することが適当。準備期間を勘案すれば、平成23年中には法制整備を図ることが必要。そのためには平成22年中を目途に立法措置のための意見の申出を行えるよう、今秋以降鋭意検討を行う。
ウ)具体的な検討課題
(ア)給与制度の見直し
60歳台前半の具体的な給与水準及び給与体系を設計し、併せて60歳前の給与カーブや昇給制度の在り方を見直す。
(イ)組織活力を維持するための施策
役職定年制の導入、専門性をいかし得る行政事務の執行体制の構築等を検討
(ウ)その他の措置
特例的な定年の取扱い、短時間勤務制の導入等について検討
【公務員人事管理に関する報告】
(1)公務員制度改革に関する基本認識
ア)高い専門性を持って職務を遂行するという職業公務員制度の基本を生かしつつ、制度及び運用の一体的な改革を進め、公務員の意識改革を徹底することが肝要
イ)政治と公務員の役割分担を前提に、政治的に中立な職業公務員制度が維持されることで、行政の専門性や公正な執行を確保
ウ)労働基本権の在り方の見直しには、憲法との関係、使用者の当事者能力の制約等、幅広い観点からの慎重な検討・判断が必要
(2)主な個別課題と取組の方向
ア)人材の確保・育成等
採用試験の基本的な見直しを行い、時代の要請に応じた職業公務員を育成するとともに、人事評価制度の活用により能力及び実績に基づいた人事管理制度への転換を図り、あわせて人事交流の推進を図る。また、適材適所の弾力的な人事配置に資するよう、事務官・技官の呼称を廃止することが適当
イ)勤務環境の整備等
非常勤職員制度の適正化、超過勤務の縮減、両立支援の推進、職員の健康の保持を図る。
7むすび
職員の給与決定に関する諸条件については、以上述べたとおりである。
これらの調査結果等を基に、国及び他の都道府県の動向並びに特例条例による減額措置が行われていること等を踏まえ、様々な角度から慎重に検討を重ねた結果、職員の給与等について所要の措置を講ずる必要があると判断し、次のとおり報告する。
(1)月例給について
本県の民間事業所の状況を見ると、ベースアップの中止等の措置を行った事業所や一時帰休・休業等の雇用調整を実施した事業所の割合が昨年に比べて大幅に増加するなど、厳しい経営環境がうかがえる。
また、本年4月分の職員給与と民間給与を比較したところ、減額措置前では職員給与が民間給与を上回っており(2.83%)、昨年(2.52%)に比べその較差は拡大した。
一方、国は、月例給については俸給表(医療職(一)及び若年層を除く。)の引下げ改定及び自宅に係る住居手当の廃止を行うこととしている。
このような状況を踏まえ、職員の月例給については以下に述べる改定を行う必要があると判断した。
ア)給料表
給料表については、切替に伴う差額の減少により職員の給料水準が段階的に引き下げられているにもかかわらず、前記のとおり県内の民間給与が減額措置前の職員給与を下回り、その較差が拡大し調整を要する状況となっているため、一定の引下げ改定を行う必要がある。
しかしながら、特例条例による給与の減額措置が継続中であり、減額措置後の職員給与が民間給与を下回っている中で、公務への有能な人材の確保や職員の士気の確保の観点等を総合的に勘案する必要があり、また医師の処遇の確保や、若年層への配慮は国と同様本県においても必要であることから、給料表については、人事院勧告に準じた改定を行うこととする。
なお、給料月額について上記の改定が行われることを踏まえ、職員の給与に関する条例の一部を改正する条例(平成17年島根県条例第76号)附則第8項の規定による給料(経過措置額)の算定基礎となる額についても、改定時において引下げ改定が行われる給料月額を受ける職員を対象として引き下げることとし、その引下げ後の額は、当該算定基礎となる額に行政職給料表の平均改定率(マイナス0.17%)を考慮して定めた100分の99.83を乗じて得た額とする。
また、高等学校等教育職給料表並びに中学校及び小学校教育職給料表についても、行政職給料表との均衡を基本に、給料月額及び経過措置額の算定基礎となる額の引下げ改定を行うものとする。(注)
(注)国は、平成16年4月の国立大学の法人化に伴い、本県の高等学校等教育職給料表並びに中学校及び小学校教育職給料表に相当する俸給表を廃止しているため、当該俸給表にかかる勧告を行っていない。
イ)自宅に係る住居手当
自宅に係る住居手当については、同様の手当を支給している県内民間事業所が少ないこと等から、人事院勧告に準じて廃止することとする。
(2)期末手当・勤勉手当について
前記のとおり、本県の民間事業所における厳しい経営環境を反映して、民間の特別給の支給割合(3.65月分)は昨年(4.01月分)と比べて大幅に減少(マイナス0.36月分)している。このため職員の期末手当・勤勉手当の支給月数(4.25月分)は民間の支給割合を0.60月分上回っている。
また、特例条例による減額措置により実際に支給されている期末手当・勤勉手当の支給相当月数(4.00月分)で比較した場合においても、民間の特別給の支給割合を0.35月分上回っていることが認められた。
一方、国は、支給月数を0.35月分引き下げ、4.15月分とすることとしている。
本委員会は、職員の士気の高揚や有能な人材確保の観点から、国や他の都道府県の職員との均衡を考慮し、一定の水準を確保しつつも、広く県民の理解を得るために地域の民間事業所における支給実態をより反映したものとする必要があると考えている。
以上の点を総合的に勘案し、本年の期末手当・勤勉手当については、民間の特別給の支給割合の減少に合わせ、0.35月分引き下げ3.9月分とすることが適当であると判断した。
なお、引下げに当たっては、平成22年度以降は6月期、12月期の期末手当をそれぞれ0.15月分及び0.1月分引き下げ、勤勉手当についてはそれぞれ0.05月分ずつ引き下げることとするが、本年度については、6月期の期末手当・勤勉手当が支給済みであることから、12月期の期末手当を0.25月分引き下げ、勤勉手当については0.1月分引き下げることとする。
また、再任用職員の期末手当・勤勉手当並びに任期付研究員及び特定任期付職員の期末手当についても同様に支給月数を引き下げることとする。
(3)その他の手当等について
ア)時間外勤務手当等
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げ等を内容とする労働基準法の改正が行われ、平成22年4月から施行されることとなっているが、本県においても人事院勧告に準じて所要の措置を講ずる必要がある。
ただし、代替休制度(注)の新設については、地方公務員法の改正の動向を注視し、所要の措置を講ずることとする。
(注)割増賃金率の引上げ分の支給に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇を取得することができる制度。国は、この制度を地方公務員に適用するための地方公務員法の改正を検討している。
イ)特地勤務手当
国は、平成21年3月にへき地学校等の指定基準を改正したことから、本県においても同基準との均衡を図るため特地公署の指定基準の見直しを検討する必要がある。
ウ)教育職員の給与等
平成19年3月の中央教育審議会(文部科学大臣の諮問機関)の答申「今後の教員給与の在り方について」において、教員に特有の手当等について見直しの必要性が指摘されたことを受け、文部科学省はメリハリを付けた教員給与体系の推進を図ることとしており、本年度も引き続き文部科学省予算において、義務教育等教員特別手当及び給料の調整額の縮減が措置されたところである。
教員給与の見直しについては、本県においても今後とも国の動向を注視しつつ、職務や実績に見合った教育職員の処遇により教育の質の向上を図る観点から、適時適切に改定を行っていく必要がある。
(4)改定に伴う調整について
今回の報告では国に準じて月例給の引下げ改定を行うこととしている。このような場合、本来であれば国が行う年間調整と同様の調整を行うことが適当であるが、職員給与について特例条例による減額措置が行われており、その影響で実際の職員給与の支給水準が民間給与を下回っていること等から、今回については上記の調整の実施を見合わせることもやむを得ないと考える。
(5)人事管理上の課題について
ア)人材の確保・育成
いよいよ地方行政の重要性が増す中で、地方が主体的に良質な行政サービスを提供するためには、複雑かつ高度化する行政課題に的確に対処できる高い資質と使命感を有する優秀な人材を確保する必要がある。
また、民間等異業種経験者、高度な専門的知識を有する者など多様な人材の確保も必要である。
このため、職員採用にあたっては、論理的思考力、応用力、企画力、創造力、交渉力といった能力や、行政課題を的確に捉え即座に挑戦する情熱などをより重視していく必要がある。
また、職員採用試験における応募者数は、採用予定者数の増減により多少の変動はあるものの、受験年齢人口の減少、民間企業志向、採用者数の抑制等により減少傾向にあり、人材確保上厳しい状況が続いている。
採用試験の実施に当たっては、県民のニーズに対応できるよう、年齢要件等の更なる拡大や、募集方法・広報活動の充実などに努めるとともに、引き続き、有能な人材を確保するための試験制度の見直し・改善に取り組む必要がある。
一方、大幅な人員削減への取り組みが行われている状況にあって、県民の期待と信頼に応えていくためには、個々の職員の意識改革と職員一人ひとりの能力開発がこれまで以上に重要になっている。このため「島根県人材育成基本方針」に基づく、職員の資質向上のための研修や職場ぐるみの人材育成など具体的施策を確実に実施し、公務員としての使命感や責任感を醸成するとともに政策形成能力やコミュニケーション力など、業務を推進する上で必要な能力を更に向上させていく必要がある。
イ)能力・実績に基づく人事管理
職員の公務に対する意欲と能力を高め、組織の活性化と公務能率の向上を図るためには、能力・実績に基づく人事管理を推進する必要がある。
そのための基礎となるツールとしての人事評価制度は、職員の能力を的確に評価し、その結果を処遇に反映できるものでなければならない。
本県においては、人事評価制度は導入されているものの、管理職以外の一般行政職員及び教育職員については、評価結果が処遇に反映される仕組みとなっていない。
国においては、今年度から新たな人事評価制度が導入され、評価結果を昇任、昇給・勤勉手当などの給与、免職や降任などの分限処分、人材育成などに広く活用していくこととしている。
各任命権者においては、国の制度等も参考にしながら、人事管理の基礎として活用し得る効果的な人事評価制度を早急に整備し、有効に活用されることが求められる。
ウ)女性職員の登用
県政の推進にとって、女性職員の果たす役割が大変重要となっている。
女性職員の管理職への登用については、病院職員・教育職員・警察職員を除く管理職のうちの女性職員の割合は、平成19年度の2.6%が平成21年度には4.2%となるなど、年々向上してはいるが、引き続き意思形成過程への参加機会の充実や管理職への積極的登用などに取り組んでいく必要がある。
同時に、女性は、家事や育児等家庭生活における負担が大きいことから、各職場においては、仕事と生活の調和を積極的に推進し、女性が職務に専念できる環境を一層整備していく必要がある。
エ)両立支援の推進
仕事と生活の調和の推進は、職員が仕事に取り組む意欲を向上させつつ、家庭生活における責任を担うという観点から、重要な課題である。
本県においては、これまで育児・介護のための休暇や、育児休業制度等両立支援のための各種制度を整備してきたところであり、任命権者はこれらを有効に活用していく必要がある。
特に、男性職員の育児休業等の取得促進は、男性の子育て参加の最初の重要な契機となるとともに、女性の仕事と子育ての両立の負担を軽減するための重要な取組みである。任命権者においては、対象職員に対して個別に制度説明を行う等、周知を図る取組みが行われているところであるが、今後も、管理監督者を中心として、職場における育児休業等が取得しやすい環境づくりに引き続き努めるとともに、組織全体として対象職員に対する一層の支援を図る必要がある。
本年、人事院は仕事と生活の調和の推進の観点から、国家公務員の育児休業等に関する法律の改正について意見の申出を行うとともに、育児を行う職員の超過勤務の免除の制度及び介護のための短期休暇の制度の導入並びに子の看護休暇の期間等の拡充について措置していくことに言及した。
本県においても、両立支援はとりわけ重要な課題であることから、今後、国の動向を注視しつつ所要の措置を講じていく必要がある。
オ)時間外勤務の縮減
時間外勤務の縮減は、職員の健康保持、仕事と生活の調和及び公務能率の確保を図る上での重要な課題である。
任命権者においても、時間外勤務の縮減を重要な課題と位置づけており、縮減目標時間の設定、ノー残業デーの設定等の様々な取組みが行われているところであるが、一人当たりの年間時間外勤務は、近年ほぼ横ばいの状態となっている。
本県では、平成21年4月より1日の勤務時間を7時間45分、1週間の勤務時間を38時間45分に短縮したところであるが、管理監督者は、職員それぞれの在庁時間、業務負荷の実態や、休暇取得の状況等を常に適切に把握する等マネジメント能力を一層向上させ、効率的な業務運営を図ることにより時間外勤務の縮減に努める必要がある。
また、職員一人ひとりにおいても、日々の業務の効率化に努めるとともに、自己の働き方を常に見直し、改善していく必要がある。
カ)メンタルヘルス対策
メンタルヘルス対策は、職員が高い士気を持って能力を十分に発揮するために、また、職員個人や家族の充実した生活を確保するために、極めて重要な課題である。
任命権者においては、研修の受講機会の拡大や、専門医師・臨床心理士によるストレスカウンセリング等の継続した取組みが行われており、また、昨年9月には、平成20年度からの3か年を計画期間とする新たな「島根県職員心の健康づくり計画」が策定されたところである。
しかしながら、休職者の総数に占める精神疾患を原因とする者の割合は依然として高いものとなっている。
行政課題の複雑・高度化により職務の困難性が増すなど、様々な要因によるストレスが増大している昨今において心の健康を保持するためには、まず、職員一人ひとりが心の健康に関する正しい知識を持ち、その理解を深めることが重要である。このため、任命権者は、職員自らがストレスに早期に気付き、対処することができるための知識や情報を、より一層積極的に提供していく必要がある。
また、所属においては、職員同士がお互いにコミュニケーションを図りながら助け合う職場環境づくりが重要である。特に管理監督者は、メンタルヘルス対策が自らの重要な職責であることを認識して、職員の日々の勤務状況や健康状態を十分把握し、職員が気軽に相談できる雰囲気をつくる等の予防対策を行うことが重要である。
一方、メンタルヘルス対策は、一個人や一所属のみの問題ではなく、組織全体の問題であることから、引き続き人事部門・健康管理部門・研修部門が一層の連携を図り、相談体制の整備や研修等の予防対策、復職後の支援に継続して取り組み、より実効性を高めていく必要がある。
キ)退職管理〜高齢期の雇用問題〜
公的年金の支給開始年齢が60歳から65歳へと段階的に引き上げられることに伴い、平成25年度以降、年金支給開始までの間に職員が無収入となる期間が発生することとなる。
人事院では、公務能率を確保しながら65歳までの職員の能力を十分活用していくためには、年金支給開始年齢の引き上げに合わせて定年年齢を段階的に65歳まで延長することが適当とし、総給与費の増大を抑制するための給与制度の見直しや組織活力及び公務能率を高めるための人材活用方策など検討すべき諸課題への対応を早急に進めることとしている。
本県においても、国等の動向や本県の人員削減計画等を踏まえながら、高齢期の雇用のあり方について検討を始める必要がある。
(6)勧告実施の要請について
人事委員会の勧告制度は、労働基本権を制約されている公務員の適正な処遇を確保するため、情勢適応の原則に基づき、公務員の勤務条件を社会一般の情勢に適応させるためのものとして、県民の理解と支持を得て定着し、行政運営の安定に寄与してきている。
現在、危機的な状況にある県財政の下、個々の職員は、限られた予算と人員の中で最大限の効果を発揮できるよう、複雑・多様化する業務に対し、強い使命感をもって立ち向かっていくことが求められており、給与をはじめとする職員の勤務条件は、そのような職員の努力や成果に的確に報いるものでなければならない。
一方、現在行われている特例条例による給与の減額措置は、県財政が極めて厳しい状況下でのやむを得ない措置であるとはいえ、職員の生活や士気に与える影響が極めて大きく、可能な限り早期に本来あるべき給与水準が確保されることを期待するものである。
県議会及び知事におかれては、この報告並びに勧告に深い理解を示され、適切な対応をいただくよう要請する。
お問い合わせ先
島根県人事委員会事務局
〒690-8501 島根県松江市殿町8番地 (県庁南庁舎2階) 電話:0852-22-5438 (任用係…採用試験に関すること) 0852-22-5437 (総務企画係…公平審査、人事委員会会議に関すること) 0852-22-5436 (給与係…給与制度、勧告に関すること) FAX :0852-22-5435 Eメール:pcs@pref.shimane.lg.jp