●発生状況
A型肝炎は、海外渡航者の感染例、施設などでの集団感染、家族内感染がみられます。
1980年代後半より発生数は減少の一途にあります。かつての日本の多発時代を反映し、
高齢者では高率に抗体を保有していますが、50歳以下の年齢では抗体保有率は低くなっています。
E型肝炎は、熱帯〜亜熱帯にかけ広く分布し、集団発生、散発例がみられます。
わが国では、海外での感染、あるいは頻度は低いですが汚染輸入食品による発生がみられます。
●病原体
どちらもエンベロープを持たない小型のRNAウイルスです。
A型肝炎ウイルス(HAV)はエンテロウイルスに属するヘパドナウイルス、
E型肝炎ウイルス(HEV)はカリシウイルスに属します。
●感染経路
ともに経口感染であり、ウイルスに汚染さた飲料水、食物を介して感染します。
ことに集団発生では、A型肝炎は上水道汚染、汚染食品、汚染貝類の生食が関連しています。
E型肝炎では飲料水の汚染による感染がみられます。
●潜伏期
両者とも2〜6週間、平均30日です。
●臨床症状
A型肝炎は突然の38℃以上の発熱を主体とする感冒様症状で始まり、3〜4日間持続し、
この間に全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、尿の濃染が出現し、
さらに黄疸が認められるようになります。1%が劇症化し、そのうち30%が死亡します。
小児の感染では臨床症状が軽く不顕性感染となることが多いです。
E型肝炎では発熱の程度が低い以外は、A型肝炎と同様です。妊婦では劇症化しやすく、
致命率は10〜30%と報告されています。
●検査室診断
AST(GOT)、ALT(GPT)、LDHの著増、総ビルリビン、γ-GTP、ALTの上昇、アルブミン、
コレステロールの低下がみられます。A型肝炎ではIgM・HA抗体の陽性化、
糞便中に特異IgA抗体の出現が見られます。
また、糞便材料よりウイルス遺伝子(PCR)の検出も行われています。
●治療と予防
治療は対症療法が中心となります。
予防としては、用便後の手洗い、飲料水の加熱滅菌を行います。
A型肝炎にはHAワクチンの接種が行われます。
●感染症法での取扱い
急性ウイルス性肝炎として、全数把握の四類感染症に指定されていて、
診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ることになっています。
なお、食中毒が疑われる場合は、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ます。