私と島根 緒川 たまき
 特別な土地
 
黄昏時、大橋川の川面は黄金色に染まる(松江市)
 松江は私にとって特別な場所です。私の両親は共に松江の出身ですが、私も父の仕事の都合で各地を転々とした事を考えると、私の本当の意味での出身地は松江と言っていいのかもしれません。年を重ねるごとに、今現在暮らしている場所にそれなりの愛着も湧きますが、最近、ふと自分の本当の故郷は何処だろうと考える事があります。そんな頼りない故郷観しか持っていない私にとって、両親の故郷である松江は、「私にも松江の血が流れているんだ」と胸を張って言える心の拠り所のような場所なのです。

 子供の頃、学校が休みになると、家族みんなで松江へ里帰りをしました。特に、広島に移り住んでからは父の運転する車で半日かけて山越えをして行きました。途中で春の山菜取りをした事などもあり、子供心にその小旅行をとても楽しみにしていたものです。松江が近付いて広大な宍道湖の眺めや、街の中に無数に流れる川、たくさんの橋など他の何処にもない松江独特の景色が目に入ってくると、心が浮き立ちました。

 でも、実際に私が松江に暮らしたのは幼少の頃の数年間で、記憶にあるのは日々の遊び場にしていた祖母の家の庭先や、家の前を流れる小川の眺めや匂い、幼なじみの家などです。それらの風景は、その後、何度も何度も繰り返し思い出されました。

 記憶はデフォルメされたり美化されたりしながら、現在でも、まるでショートフィルムを観るみたいに思い出します。一つ違いの兄や幼なじみの友だちと、かくれんぼをして遊びながら、毎日少しずつ自分達の遊び場所を増やしていった楽しさなどは、夢に現われたほどでした。でも一言に幼なじみと言ってはみたものの、幼い頃に別れてからその後一度も会った事がなく、私の記憶に残っているその姿は子供の時のままです。「今も松江に暮らしているのかしら、一度大人になった姿を見てみたい」と、ドキドキするような願望を今も持ち続けています。

 最後に食いしん坊な話ですが、いつもお土産に持ち帰る「あごのやき」や「す巻きかまぼこ」は他のどんな蒲鉾よりも私の好物ですし、松江に帰ると必ずいつも、祖母が大鍋で赤貝を殻ごとお醤油で炊いてくれる煮貝のほろ苦い美味しさは、一人前にお酒を嗜むようになった今、無性に食べたい“故郷の味”となっています。

緒川 たまき
おがわたまき
緒川 たまき
 映画「PUプ」で女優デビュー。映画「SFサムライ・フィクション」「Stereo Future」「ピカレスク」などに出演。その他TV、CF、舞台で活躍するほか、写真集「またたび紀行・ブルガリア編」(ロッキング・オン)に続いて、フォト&エッセイ集「Mexico ガイコツ祭り」(ピエ・ブックス)を発売。 TOKYOFMの「GOOD ON EARTH」でパーソナリティを務めている。

室伏広治/緒川 たまき

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