私 と 島 根
島根はおいしい
 フジテレビ系「料理の鉄人」で味の審査員として6年間出演したおかげで、このところ講演が増えた。「おいしく食べて健康に」をモットーとする私にとって、直接食べることの大切さを多くの人に訴える事が出来るチャンスはありがたい。もともと料理記者として地方取材も多かったので、日本全国訪れていないのは宮崎県だけとなった。そこで感じるのが、日本の自然の美しさと食材の豊かさだ。友人で作家のイギリス人C・W・ニコルさんは「日本ほど変化に富んだ国はないよ。北の海には流氷、南の海には珊瑚礁があって、四季折々で食材も変わってくるのは素晴らしい。」と感嘆する。いわれてみれば、その通り。あらためて日本に生まれた幸せに感謝したい。
 先日、出雲市に講演に招かれた折り、お米のおいしさに驚いた。聞くと奥出雲の仁多米(にたまい)。日本穀物検定協会の1998年産米食味ランキングでは、西日本で唯一最高位の「特A」に輝いたということだ。品種のコシヒカリは新潟魚沼産が有名であるが、仁多米も負けてはいない。夏場の昼夜の温度差が著しい気象条件、豊かな土壌、清流に恵まれている、というが、籾のまま低温貯蔵して出荷直前に籾すり、精米をして出荷する点もおいしさの秘密だ。仁多米の炊きたてご飯とこれも送っていただいたシジミのみそ汁を食べながら、娘と2人顔を見合わせて「日本に生まれてよかったわね。」と話し合った。宍道湖(しんじこ)のシジミは立派だった。東京で買うと、2、3人前のみそ汁用が1パック400円。どっさり送っていただいてどうしようと思っていたら、砂出しをした後、冷凍にするとよい、と注意書きにあったので冷凍にして大事に味わっている。
 はじめて島根県を訪れたのは、10年ほど前だ。婦人誌の「水辺の宿」という特集の取材で宍道湖畔の皆美(みなみ)館を訪れた。歴史を感じさせてる部屋で料理の撮影をした。世にいう「宍道湖七珍」をはじめ、島根は食材が豊富。関東では夏が旬というすずきの旬が、宍道湖ではみぞれ混じりの寒風が吹く冬場と聞いて驚いたが、その奉書焼きや鴨の貝焼き、鯛めしなど美味の国出雲の幸を存分に味わった。なかでも鯛のそぼろ、ゆで卵、おろし大根、刻みネギ、もみのり、わさびを好みにそせて上品な味のだしをかけて食べる鯛めしは、松平不昧公(まつだいらふまいこう)が南蛮料理にヒントを得て考案され、命名したと聞くが、私もやみつきになり、東京に出店している皆美にときどき食べにいく。島根の料理は住む人の性格であろうか、穏やかで品がよい。食べ飽きない味である。
シラウオ、アマサギ、スズキ、コイ、モロゲエビ、ウナギ、シジミの7品からなる宍道湖七珍
シラウオ、アマサギ、スズキ、コイ、モロゲエビ、ウナギ、シジミの7品からなる宍道湖七珍
岸 朝子
◆岸 朝子
きし あさこ●食生活ジャーナリスト。昭和30年主婦の友社に入社。43年女子栄養大学出版部に入り、雑誌「栄養と料理」の編集長を10年つとめる。また、東京国税局の東京地方酒類審議会常任委員として、女性で第1号のきき酒をはじめる。お茶の水池坊学園では非常勤講師として料理ゼミナールを担当。のち編集プロダクション・エディターズを主宰。フジテレビ「料理の鉄人」には審査員として出演した。オーストリアのワインと文化を愛する会発起人を務めるなどし、平成11年日本人で初めて同国のバッカス賞を受賞。著書に「東京たべあるき地図」「味シリーズ(3)たべあるき東京」など、編書に「21世紀の実践栄養」(全8巻)がある。

[ 中島 誠之助/ 岸 朝子 ]

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