島根の産業振興を語る
知事対談 江崎玲於奈(芝浦工業大学学長)
澄田 信義(島根県知事)

江崎玲於奈   澄田信義
江崎玲於奈
物理学者。大正14年、大阪生まれ。東京帝国大学理学部物理学科卒業後、神戸工業、東京通信工業(現・ソニー)を経て、昭和35年米国IBM研究所入社。昭和51年日本IBM取締役兼務。この間、昭和32年にトンネルダイオード(エサキダイオード)の発明および発見の偉業を成し遂げ、昭和48年のノーベル賞受賞となった。近年も、半導体素子材料開発に関わる新発見をするなど、この分野の動向を左右する存在。平成4年筑波大学学長。10年茨城県科学技術振興財団理事長。11年つくば国際会議場館長兼務。12年4月より芝浦工業大学学長、教育改革国民会議座長。ノーベル物理学賞、文化勲章など、受賞多数。平成11年10月から(財)しまね産業振興財団の特別顧問。
澄田信義
島根県知事。島根県出雲市出身。東京大学法学部卒。和歌山県警察本部長、日本国有鉄道常務理事を経て、昭和62年より現職。現在4期目。
ルネサンス精神を島根に
知事 江崎先生には、平成11年10月、「しまね産業振興財団」の特別顧問にご就任いただきありがとうございます。たびたびご来県いただいておりますが、島根の印象はいかがでしょうか。
江崎 日本の歴史上、非常に重要なところで、日本の文化の一つの発祥の地だと思います。出雲大社(いずもたいしゃ)を中心に、日本の歴史の源流の一つがここにありますよね。
知事 平成12年春に、出雲大社の境内から直径1メートルを超える杉の大木を3本束ねて1本の柱としたものが出土し、それが出雲大社に伝わる「金輪御造営差図(かなわごぞうえいさしず)」に描かれたものと同じ構造だということで、大きな話題となりました。
江崎 高層の神殿であったという伝承を、現実にサポートするものが出てきたというわけですか。面白いですね。
知事 現在の社殿の2倍、48メートルもの高さであったという言い伝えが、にわかに真実味を帯びてきました。
江崎 歴史が豊かだということは、県民の皆さんの考え方も豊か。全国的には神無月と言う10月を島根では神在月(かみありづき)と呼び、日本中からたくさんの神様が集まるという伝承は、いろいろな人たちの交流が盛んだったということもあるのでしょうね。
知事 それが原点だと思います。
江崎 技術面でも、砂鉄から鉄をつくる「たたら」の技術が古くからあり、かつては世界的にも屈指の銀山があったと聞いております。
知事 はい。中世に開発された大田市にある石見銀山で、当時の世界地図にも載っています。一時期は世界の銀生産量の3分の1は日本の銀であり、その大半が石見銀山の銀でした。「灰吹法」という銀と鉛を分離する高度な技術が導入され、銀生産が飛躍的に向上し、北前船によって温泉津港や仁摩の鞆ヶ浦(ともがうら)から搬出したり、陸路では「銀の道」を通り瀬戸内海を通じて流通したようです。平成12年11月、世界遺産の候補となる暫定リストに石見銀山が登載されることになり、非常に喜んでおります。島根県には、銅鐸や銅剣の青銅器文化があり、たたら製鉄、石見銀山の銀など、金属に関連した技術は古くから発達していたようです。
江崎 先ごろ私はイタリアのフィレンツェに参りましたが、あの辺りも歴史が古く、ヨーロッパのルネサンス発祥の地です。なぜルネサンスが起きたかという原因の一つは、「創造性」が高く評価され、創造的な人間が集まり交流が盛んになったことです。新しいことをおやりになろうとしている島根県も、一種のルネサンスを興す必要があると思います。未来に挑戦し、新しいものを求めてやまないルネサンス気風は、新しい文化や産業を生み出します。その古いものから新しいものにどういうふうに持っていくかというのが、大きな課題です。
知事 島根の産業振興を進めていく上において、非常に参考になるお話です。

島根らしい新産業の創造
知事 現在、松江市に整備中の「ソフトビジネスパーク島根」は、本年秋の完成予定ですが、過疎化や少子高齢化が進む現状の中で、新しい産業を興していくという意欲に燃えて取り組んでおります。
江崎 拝見しましたが、非常に壮大な構想ですね。アメリカを見ても、活力のある中小企業やベンチャー企業が新しい分野を開拓することで産業が発達したという歴史があります。世の中が多様化している現在は、インターネットによって地球上の距離と時間の差がなくなり、非常に個性化が進む一方で、個人が直接世界的規模に結びつくという時代になっています。つまり、今までのように大きな組織の中で安住するのではなく、自分の能力を活かし、自分で考え創造する状況になってきたということです。
知事 島根県は中小企業によって支えられていると言っても過言ではありませんから、そこから創造的な精神が生まれることを期待しています。また、IT革命と言われる情報化社会の中で「ソフトビジネスパーク島根」を中心に、情報化時代を先取りする形で新しい産業をつくり出そうと考えています。例えば、高齢化が進んでいますから医療・福祉の産業、もともと農業県ですからバイオテクノロジーを活用した産業、豊かな自然環境を活かした産業、さらに、古くからいろいろな技術を持っている安来市にある特殊鋼メーカーなどのように金属を中心にした産業が頑張っていますから、素材型の産業も育てていけたらと思っています。
江崎 今、知事さんがおっしゃったいろいろな産業がありますから、すべてをやるのか絞るのか、重点化もある程度必要かと思います。また、教育面もお考えだと思いますが。
知事 はい。松江市にある国立島根大学に総合理工学部を作っていただき、また、地域共同研究センターも「ソフトビジネスパーク島根」内に整備していただくこととなりました。産・学・官の提携により、島根県の産業を大いに伸ばしていきたいと思っております。

中核施設テクノアークしまね(パース図)
中核施設テクノアークしまね(パース図)
松江市街地の島根大学に隣接するソフトビジネスパーク島根(CG合成)
松江市街地の島根大学に隣接するソフトビジネスパーク島根(CG合成)

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