古代出雲を掘り起こし、
島根の誇りに

知事対談|佐藤洋二郎(作家) /澄田信義(島根県知事)
佐藤洋二郎 澄田信義
佐藤 洋二郎
作家。1949年生まれ。大田市出身。中央大学経済学部卒。昭和51年初めての小説「湿地」を「三田文学」に発表。平成4年処女小説集「河口へ」を出版。以後「夏至祭」(平成7年・第17回野間文芸新人賞受賞)「夢の扉」「神名火」「岬の螢」(平成12年・第49回芸術選奨新人賞)など、島根県を題材にしたものを含めて多数の作品を意欲的に発表。平成12年発表の「猫の喪中」が第123回芥川賞候補となる。また、山陰中央新報一面大型コラム「羅針盤」を執筆。近刊に大田市の彼岸市のことを収録した「イギリス山」、「猫の喪中」がある。
  澄田信義
島根県知事。島根県出雲市出身。東京大学法学部卒。和歌山県警察本部長、日本国有鉄道常務理事を経て、昭和62年より現職。現在4期目。
忘れていたものを思い出す故郷
知事 佐藤さんが山陰中央新報に連載されていた「羅針盤」は、故郷のお話がよく出てきますので興味深く読ませていただいておりました。
佐藤 ありがとうございます。読者の皆さんからもずいぶん反響がありまして、嬉しい思いで連載を終えました。
知事 小説でも故郷の事を題材にお書きになりますよね。今年の芥川賞の候補に挙がった「猫の喪中」でも、主人公の幼いころの思い出として山陰の石見に住んでいた親戚の話が出てきます。
佐藤 ええ、少し変わったといいますか、世間の常識とは異なった視点でものを見ている男達を、主人公に影響を与えた人物として登場させました。
知事 離婚経験のある中年男性が、現在暮らしている女性との暮らしより長年飼っていた猫の死の方に心が揺れてしまうお話で、主人公自身にも分からない不思議な心情が、心に残りました。
佐藤 自分の小説の半分以上は島根のことを書いてるのですが、東京あるいは都会のことを書くより自分の中に深く刻まれたものがありますから、刻まれたものをひとつひとつかさぶたを剥ぐかのように、おそるおそる書いています。
知事 そうすると、佐藤さんにとって故郷とはどういうものなんでしょうか。
佐藤 そうですね、上手く言えませんが、僕の文学的地盤になってますね。小説を書けなくなると島根へ戻ります。同級生に会ったり、自然を見たり…。なんか心がひりひりするんです。するとなんか書けそうな気がするんです。そういう事で、実はしょっちゅう帰ってきているんですよ…。
知事 島根に帰ってくると新たな発想や、再出発というと大袈裟かもしれませんが、そんな気概を得られる、原点みたいな感じでしょうかね。
佐藤 鳥根に戻ると、忘れていた事を思い出しますね。地元の言葉を聞いて思い出がフラッシュバックしたり、お世話になった人や友人に会って昔に戻ったり。あとはあのころから変わらない自然ですね。三瓶山から見た雲海が感動的だったことや、あるいは島根半島。よく島根半島の事を小説に書くのですが、やっぱり少年時代の記憶がずっと心に刻まれていて忘れられないですね。
知事 ええ、幼いころ見た風景というのは強烈に焼き付いていますからね。
佐藤 中学2年生の時に、大田から松江に自転車で行ったことがあるんです。朝8時ごろから8時間ぐらいかかってくたくたになりましたけど、やっとたどり着いた宍道湖を見て非常に感動しました。普段は忘れてるんですけど、宍道湖を見ますと、歌を歌ったり何か叫んだりしながら自転車で一人で来た事が思い出されます。
知事 私も中学2年生の時に三瓶山への一泊旅行がありまして、その時朝早く起きて雲海を見たんですが、すばらしいなぁと思いました。その後何度も行っていますが、いつもその時の感動を思い出します。三瓶山はいい山ですよねぇ。
佐藤 僕もずいぶん登りました。小学5年生の息子も毎年大田に帰ってきて、よく三瓶山へ行っています。僕が行けないときは、息子と妻が二人で冬にスキーをしたりしています。

古い歴史を抱える島根
知事 その三瓶山に、私どもは「三瓶自然館」を作りました。三瓶山地区一帯を「生きた自然の博物館(フィールドミュージアム)」として捉え、自然そのものを展示物にしたり、また、自然を出来るだけ残しながらキャンプ場や遊歩道などを整備していこうという考え方なんですが、そのフィールドミュージアムの中核施設が自然館なんです。
佐藤 僕も自然館が出来たときに、市役所にいる同級生と一緒に行きました。
知事 三瓶山の小豆原(あずきはら)でこの間、縄文時代の杉の埋没林が発見されましたがご覧になりましたか。
佐藤 はい、見に行きました。
知事 私も見まして、あれだけすごいのが出てきたから、それを三瓶自然館の中に展示するよう計画しています。最初はあまりにも高さが高いので切断したのを展示しようという案でしたが、はるか遠くから見て屋根を突き破っていたらよけいに面白いんじゃないか、根っこも含めてできるだけそのまま展示しようじゃないかということになったんです。
佐藤 ほおー、それは凄いですね。
知事 平成14年にリニューアルする三瓶自然館に、そのままの埋没林を展示して皆さんに見て頂くことになりました。それから、小豆原もありし日の姿に出来るだけ近い形で整備したいと考えています。
写真
埋没林展示イメージ図
佐藤 三瓶山全体がフィールドミュージアム、という考えは全国に先駆けた発想ですよね。どうも僕が大田出身なもんですから、そうやって地元にスポットを当てていただくのは非常に嬉しいです。その他にも、実は大田にも相当古いものがあると僕は思っているんですよ。出雲には出雲大社を始め近郊に2千くらいの神社があって古いものもたくさくありますが、もっと、古い時代をみますと、大田には五十猛命(いそたけるのみこと)が素盞鳴尊(すさのおのみこと)と一緒に埴土(はに)の船に乗ってやって来たという神話があったりします。
知事 五十猛命は植林の神様なんですね。木は伐採するだけのものではなく、植林というものもあるんだよという考えを日本全国に広めた原点という意昧では、ユニークな存在です。大田には五十猛という地名が残ってますね。
佐藤 五十猛界隈の古い神社とか、出雲に劣らず古い神社があるんですが、そういうのを掘り起こせば大田にも非常に古いものがあるはずなんだけど、時間に堆積されてそれが忘れ去られているような気がするんですね。島根の人がそういうものをもっと掘り起こしてくれないかと大田出身としては思います。もっと大きくいえば、島根そのものが古い歴史を抱えているわけです。
知事 おっしゃる通りですね。私どももフィールドミュージアム構想を全県に広げまして、出雲、石見を含めて古き良きものを発掘しながら再発見してそれを大事にすると同時に、新しいものにも目を向けていこうとしています。例えば県立美術館や三瓶自然館、水族館「アクアス」を造りました。また、益田にも県立美術館と県民会館を合築した芸術文化の殿堂を造ります。それに加えて、石見銀山を世界遺産に登録しようと力を入れているところです。

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