●ワクチンで激減した百日咳
百日咳は、特徴的な咳が長期間続く、気道感染症です。母親から赤ちゃんへの移行免疫がないため、乳幼児の周辺
(両親、きょうだい、保育関係者など)で罹患者が存在すると、乳児期早期から感染・発病するおそれがあります。
1歳未満の乳幼児(特に生後6か月以下)では死亡することもある重篤な病気です。
ワクチン導入前は日本でも年間約10万例の届出があり、その約10%が死亡していた疾患でしたが、三種混合ワクチン
(DPT/ジフテリア・百日咳・破傷風)により激減しました。感染症法では2017年12月末まで定点把握疾患
(小児科定点)として流行状況の把握が行われていましたが、過去10年間では、はっきりした流行期はなくなり、散発的な発生や学校や施設、地域内での集団発生が報告されています。
百日咳は2018年1月1日以降、全数把握疾患となりました。
●発生状況
島根県では2018年に41件、2019年に30件の患者発生報告があり、2020年から2023年は報告数が少なかったですが、2024年は地域での流行がみられ患者発生報告が増加しています。
全国でも増加傾向にあり、今後の動向が注目されます。
●感染経路
患者の咳による百日咳菌(
Brodetella pertussis)の飛沫感染が主ですが、汚染直後の物品を介した接触感染によってもおこる急性の気道感染症です。
●臨床症状
通常7〜10日間の潜伏期間の後発症します。
症状はカゼ様症状で始まり、次第に咳が激しくなります
(約2週間持続)。その後、百日咳に特有な、連続した
咳き込み
(スタッカート)の後、息を吸うときに笛の音のようなヒューという音が出る
(ウープ)発作の繰り返し
(レプリーゼ)が約2〜3週間持続します。まれに発作に伴って嘔吐が見られます。息を詰めて咳をするため、顔面の浮腫
(はれぼったくなること)、点状出血、眼球結膜出血、鼻血などが見られることがあります。
乳児では典型的な咳が見られないことがありますが、重症になり、無呼吸発作からチアノーゼ
(呼吸が不十分なことから起こる、皮膚や粘膜(手足の先や唇の色)が青紫色になること)を起こしたり、呼吸が止まって死亡する場合があります。
その後、回復期と呼ばれる状態になります。激しい咳発作は次第に弱くなりますが、時々発作性の咳があり、始めの症状から完全に回復するまでに2〜3か月かかります。「百日」咳といわれるのはこの長引く咳を指しています。
成人の百日咳でも、咳が長期にわたって持続しますが、発作性の咳は見られず、しばらくして回復します。軽症のため確定診断を得られないことが多いのですが、菌の排出をしているため、ワクチン接種前の乳児に対する感染源として注意する必要があります。
百日咳は感染力が強く、特に初期の症状の時期
(カゼ様症状〜咳発作の始まるまでの数週間)が最も感染力が強いといわれています。
●検査
菌の培養検査、血清学的検査、遺伝子検査が保険適用されています。
●治療と予防
対症療法として咳嗽発作に対しては鎮咳去痰剤、気管支拡張剤の投与、水分の補給を行います。病原体に対してはマクロライド系抗生剤の処方が行われます。抗生剤の投与を早期に開始することによって、症状の軽減化と有症期間の短縮がみらます。
予防はワクチンによります。定期の予防接種では生後3か月から計4回DPT-IPV
(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ)4種混合ワクチンを接種します。予防接種をきちんと受けて乳幼児を百日咳から守りましょう。
●法律での取扱い
感染症法では、2017(平成29)年までは 5類定点把握感染症として定点医療機関から1週間の患者の報告数が集計されていました。
2018(平成30)年1月1日から、より正確に発生状況を把握する目的で、5類全数把握疾患となりました。これに伴い、百日咳を診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に患者発生届けを提出することとなっています。
百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(第二版)令和3年12月28日(外部リンク:国立感染症研究所)
学校保健安全法では、特有の咳が消失するまで又は5日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで出席停止となっています。