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「私と島根」

  • 今年の二月の話−香川まさひと
 
香川まさひと
 シナリオライター。1960年、神奈川県横浜市生まれ。 ”お笑い”の表現として高校時代から8ミリ映画を制作し、大学入学後撮った自主映画で、'82年、ぴあフィルムフェスティバル大森一樹賞受賞。'83年、大島渚賞受賞。大学卒業後古本屋やNHK演芸班でアルバイト生活を送る。このとき書いた投稿作がNHK演芸台本コンテスト最優秀賞を受賞し、以後、ライターの道を歩みだす。'89年Vシネマ「ねっけつ放課後クラブ」で脚本家デビューし、以後映画、テレビ、漫画原作を中心に活躍。シナリオ作品に「ふざけろ!」「あさってDANCE」「お墓と離婚」など
『島根の弁護士』
「ビジネスジャンプ」(集英社)で連載
山崎水穂は26歳の新米弁護士。神奈川県出身の彼女だが、※日本でも1番、弁護士の人数が少ない県である島根で生きる決意をする。その島根の地で、司法試験の勉強しかしてこなかった水穂が、裁判を通して人間の真実の姿に出会う。そこにあるのは悲哀か、感動か…!? 読んだら人を信じたくなるヒューマンドラマ!!
※ 2004年4月1日現在、日本の弁護士の総数は約2万人。その半数にあたる9767人は東京の弁護士会に所属。そして、島根県弁護士会に所属する者は26人。
香川まさひとさん
 今年の2月の話である。
 特急やくもで松江に着いたのが夜九時過ぎ、すぐさまホテルに今晩の宿泊予約の電話をかけた。
 「申し訳ありません。本日満室でございます」
 2軒目のホテルに電話した。だがここも断られた。3軒目。満室だった。またのご利用をお待ちしてます、そう言って切ろうとする電話の相手に慌てて聞いた。
 「今日は松江で何かあったんですか」
 「今日じゃなくて明日、シマダイがあるんですよ」
 「シマダイ?」
 「島根大学の入試です。今晩はね、一年で一番ホテルが混む日なんですよ」
 松江に行ったのは仕事だった。現在「ビジネスジャンプ」(集英社)で連載している『島根の弁護士』(作画、あおきてつおさん)のために、何人かの人に会い、いくつかの場所を訪ねる取材である。さっそく明日の午前からお話を伺いに行く。だからゆっくり眠りたいし、シャワーも浴びたい。
 私はホテルマンに聞いた。
 「出雲市だったら泊まれないですかね」
 「出雲だって米子だってダメだと思いますよ」
 「……」
 結局、その晩はインターネットカフェに泊まった。いや、泊まったというのは正確ではない。長椅子でうとうとしただけだ。朝までお得なナイトパック。料金は1980円。もちろんシャワーはない。
 午前6時にそこを出された。延長も出来たが、ホテルだったらこんな早起きはしないだろうと、城山稲荷神社に行くことにした。あのたくさんのお狐様たちは、朝はどういう顔をしているのだろう。小泉八雲が好きだったこの神社を、自分も前回の取材で気に入っていた。
 堀川沿いに歩き、東総門から向かった。坂道を上り、右に折れた。苔むす燈籠の脇を通り、階段を上がる。ここまでほとんど人と出会わなかったので誰もいないと決め込んでいた。だが上りきる手前で背中が見えた。
 一人の中年女性である。こうべを垂れて静かに祈っていた。
 邪魔をせぬよう脇をすり抜けた。すり抜けながら、その女性がシマダイの受験生のお母さんに違いないと考えた。
 もちろん根拠はない。だが今朝の自分だけは勝手にそう思ってもいいはずだった……。
松江藩松平直政が勧請した城山稲荷神社(松江市)
松江藩松平直政が勧請した城山稲荷神社(松江市)
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