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知事対談 現代社会が求める暮らし方を語る
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養老孟司
東京大学名誉教授・医学博士
昭和12年生まれ。神奈川県鎌倉市出身。
昭和37年東京大学医学部卒業後、1年間のインターンを経て解剖学教室に入り、以後解剖学を専攻。昭和56年東京大学医学部教授に就任し、平成7年退官。8年北里大学教授に就任し、15年退職。子どものころから昆虫や動物が好きで、趣味は昆虫採集。平成15年、著書『バカの壁』がベストセラーとなり毎日出版文化賞を受賞。ほかに、平成元年サントリー学芸賞を受賞した『からだの見方』や、『運のつき 死からはじめる逆向き人生論』など著書多数。
今年7月、島根県中山間地域研究センター特別顧問に就任。
養老孟司さん

歴史と自然豊かな美しき島根

樹齢700年、根本の直径2mを超える杉の巨木をはじめ、7本の埋没樹を展示する三瓶小豆原埋没林公園(大田市)
知事
 養老先生には「島根県中山間地域研究センター」の特別顧問にご就任いただき、本当にありがとうございます。平成14年10月のオープニングイベントや、今年7月の「宍道湖自然館ゴビウス」3周年記念の際にもご講演いただき非常に感謝しております。「ゴビウス」での講演会は200名を予定していたところへ500名以上の聴取希望者があったようですが、島根の聴衆の反応などいかがでしたか。
養老
 最近熱心に聞いてくださる方が多くて、お説教みたいな感じになってしまったと思っています。特に死ぬ話などはお坊さんがするとごく自然だと思いますが、なぜか縁起でもないといって嫌われていますから、もともと医学系の私がお坊さんの代わりに日本中をお説教して歩いているような気がしています。
知事
 今日は湖と川に住む生物を展示する「ゴビウス」にお越しいただきましたが、島根県には海と山と湖それぞれの動植物を展示する施設を三位一体として作っています。浜田・江津市の境にある「しまね海洋館アクアス」と、県の中央部にある三瓶山の動植物や自然を展示する「三瓶自然館サヒメル」です。
養老
 三瓶は面白いですね。特に「三瓶小豆原埋没林公園」はすごいです。日本の昔はこうだったのかと垣間見させていただきました。
知事
 三瓶の埋没林が出てきたことによって、「出雲国風土記」に記載されているように、神戸川の上流で切った杉を筏に組んで下流の出雲大社へ持って行き高層神殿を建てたのではという推定が成り立つようになりました。また三瓶の近くには、初期の露頭堀から各時代の坑道や採掘方法などが全部残っている「石見銀山」があり、これを世界遺産に登録しようと整備を進めております。採掘された銀が仁摩港や温泉津港から世界に出て行ったことが、昔のポルトガルの地図にも載っています。
養老
 江戸時代に長崎に入った船の記録などを見ると、世界各国を知っている彼らが一番きれいだと思ったのが日本です。それを誰が壊してきたのかといえば私たち自身で、住んでいる所に対する愛着の問題だと思います。庭があれば手入れするという感覚が都会に行くと消えてしまいますが、その点、島根県はいつ来ても本当にきれいですね。
知事
 そうおっしゃっていただくと私たち島根県民は非常にうれしい限りです。松江城周辺のお堀に屋形船の遊覧船を走らせていて大変人気がありますが、たくさんの観光客が船上からお堀に面した各家を眺めることになりました。それにより単なる自宅の裏側であった所を、各家庭では今まで以上に清掃して花を植えたりするようになり、堀川遊覧はそういう効果も生み出しました。

都会と田舎の二住居で暮らす

知事
 先生は昆虫や動物に非常に造詣が深くて本当にお好きでいらっしゃいますね。
養老
 昆虫については関心を持つ人と持たない人がはっきりしていて、関心を持たない人にとっては全部をひっくるめて「虫」です。しかし多少でも関心を持つと、自然を計る物差しのような存在として見えてきます。それと同じように、中山間地域は実際にどういう所なのか都会では客観的に把握していないと思います。私は世界中を飛び回るときに飛行機の窓から下を見ていつも思いますが、大抵の国はヤツデの葉で、日本はシダの葉です。「谷」という大きなくくりではなくもっと細かくて、その細かい状況の違いによって日照や風の入り方なども違います。ですから、中山間という細やかな所で生まれ育ってきた文化は、根本的に自然条件の影響を強く受け、それが日本人のきめの細かさになっていると思います。
知事
 ヤツデとシダという対比は面白いですね。そういう意味では島根県は特にきめの細かい所ですから、中山間地域を集中的に真正面からとらえて研究をし、そこに住む人たちの生活を考える拠点にしようと赤来町に作ったのが「中山間地域研究センター」です。
養老
 大変面白いものを作られたと思いました。私が住んでいるのも鎌倉のまさに中山間ですから、都会が近接していると両方の良さ悪さがよく分かります。例えば暮らすということを考えると私は絶対に東京で暮らす気はしないですし、人間の分布の仕方が間違っていると思っています。誰かが山や田畑の手入れなど第一次産業をしなければいけませんが、ここ50年間その循環をほとんど考えず、若い人は都会に出るという一方向で動いてしまいました。今の状況は錯覚であって、都市化がある程度おさまると必ず逆流が起こりますから、今後、一般の人が昔でいう別荘を持つ時代になると思います。島根県は東京からも飛行機に乗れば時間的には大した距離ではありませんから、そういう意味でも立地条件がいい所です。
知事
 現在、「出雲空港」と「萩・石見空港」から東京まで直行便が飛んでいますし、道路網も発達しました。また情報網の発達によっていろいろな情報がどこにいても入手できますから、中山間地域はまた別の意味で見直されてくる時代になったと思っております。
養老
 本当にそうだと思います。日本人は大抵の人が島根のような所で暮したいと思っているはずで、都会がいいというのは思い込みに過ぎません。7月にブータンへ行きましたが、ヒマラヤの斜面に位置しているまさに中山間で、夏は高い所、冬は低い所へ移って暮らす生き方も参考になると思います。またヨーロッパを見ると、ロンドンやパリは例外ですが大都市がなく、小さな町が周りに散らばっています。どこか一カ所に人口が集中すると、それが老人福祉、介護問題にそのままつながってしまいますが、上手に大勢で暮らせば新しいやり方がいろいろ考えられると思います。ただ田舎と比べて都会は医療に関しては便利なので、その問題は、例えばヘリコプターを使うなどインフラ整備が必要となります。
知事
 島根県は離島の隠岐島がありますので、出雲市に「島根県立中央病院」を建設したとき屋上にヘリポートを作りました。ただ、中山間地域から患者さんを救急病院に運ぶのはまだ時間がかかりますから、そのためにももう少し高速道路を作らなければと思っています。人口的には県庁所在地の松江市が約15万人で、他の七つの市が日本海側に点在し、中山間地もあるので多極分散になっています。高齢化率は全国一ですが、合計特殊出生率は高く自然や伝統文化は豊かですから、そういうところを見直してだんだん人が住んでくれるような地域になるのではと思っています。
養老
 完全にそうなると思います。私は若い人には、半分は田舎で半分は都会で暮らすことを上手に考えてほしいと思っています。IT社会ですから毎日会社に通う必要もなくなりますし、盆や正月には両親がいる田舎に帰っているのも実情です。国全体が、特に中山間に特定して過疎で困っている所に住居を持つということを奨励すべきで、少なくとも二住居くらい許可してもいいと思います。
知事
 そんな住み方をするのが当たり前の時代が来れば、島根のように自然が非常に豊かな所が再び世の中に注目され、生活の拠点として脚光を浴びる気がいたします。
養老
 それはむしろ当然です。みんなが上手に本当に楽しく生きられることが大切で、それが本当の福祉だと思います。
島根県知事すみたのぶよし
島根県知事
澄田信義
島根県知事。昭和10年島根県出雲市生まれ。東京大学法学部卒。和歌山県警察本部長、日本国有鉄道常務理事を経て、昭和62年より現職。現在5期目。
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