ヘッダイメージ
風物詩、出雲なんきん
 魚体を上からしげしげと眺めた。なんと豊満な。尖った口先からふっくらと膨らむお腹まで、三角形をなす。おやまあ、背びれがない。そのあたりのウロコがひときわ艶やか、ぎらり銀や真珠の色に光っている。尾びれは二枚で、深く切れこむ。それがひらりひらりと揺れるさまは、舞う羽衣のようだ。
 飼育には、そりゃあ手がかかる。たとえば、尾びれ。2枚出てくるには、産卵から孵化までの四日間が勝負という。水温を摂氏20度に保たなくてはならない。もし一枚なら……。淘汰に淘汰を重ねた末、賞賛に値する、選ばれしものは千、いや万に一匹あるやなしや。
 稚魚を見て驚いた。まさに祖先といわれる鮒の色なのだ。それがしだいに黄を帯び、やがては色が抜けだして、残った黄が模様となり、赤みを増していく。白の勝るほうがよし。が、口赤きは「口紅」、頬赤きは「奴」とほめる。色彩や姿形の変化こそが、出雲なんきんの醍醐味だ、愛好家の心をとらえて離さない。 
 水槽のなかを九歳の雌が、やけにグラマーな老貴婦人の風情で泳ぐ。体重650グラム。涼感を呼ぶ、というより量感に圧倒される。
文/ 伊藤 ユキ子
 紀行作家。出雲市出身。RKB毎日放送アナウンサー、英国遊学を経て文筆活動に入る。主な著書は『紀行・アラン島のセーター』『台湾茶話』『古事記の原風景』など。『紀行・お茶の時間』では第7回JTB紀行文学大賞を受賞した。出雲に帰郷して以降、「田舎には都会にないものがいっぱいある」との視点で情報発信を試みている。
絵/ 小西 優子
イラストレーター。玉湯町出身。県内外のさまざまな広告媒体で活動中。平成12年、島根広告協会クリエイター賞受賞。現在松江市内のデザイン事務所に勤務。
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