私と島根 目と舌と肌、そして心で感じた島根の魅力  仕事を通じて島根県と交流するようになって、もう10年以上になります。昨年は、島根特産の農林水産物のPRや販路拡大などを行っている「しまねブランド推進室」のお手伝いをさせていただくようになり、一層親近感を抱くようになりました。
 以前から、島根を訪れるたびに感じていたのは、広々とした自然と歴史が培った町並みの美しさです。3年前、「包丁式」を奉納するために出雲大社を訪れましたが、伊勢神宮に負けないその勇壮な姿に、息を呑みました。また、宍道湖に落ちていく夕日。訪れた皆さん全てが口にされるのでしょうが、私も例外ではありません。格別な眺めとして、心に刻んでいます。
 また、目を奪われたのは、景色だけではありません。豊かな自然に恵まれた島根は、まさに食材の宝庫です。鮮度抜群の海の幸は言うまでもなく、やはり水が良いのでしょう。米や野菜が旨いですね。奥出雲の仁多米は、神戸の旅館でもお客様にお出ししていますが、みなさん「美味しい」と喜んでくださいます。しまね和牛肉は、神戸・但馬ビーフといった有名ブランド牛に勝るとも劣らない。ひょっとしたら、宣伝が足りないのかもしれませんね。野菜の中では、特産の黒田セリ。あれこそ、松江の水の良さを証明する味だと思います。
 私には500名以上の弟子がおり、全国でそれぞれ活躍しています。そのうち2名の若者が、隠岐の島とご縁を結ぶことが出来ました。一人は、道後五箇村のホテルの料理長として、家族を伴って赴任。また、もう一人は「隠岐の新鮮な魚の味を学んで来い」と、島前知夫村のホテルへ修業に送り込んだのです。ところが、そちらの方は地元出身の女性と結婚し、知夫村を彼自身の人生の拠点とすることになりました。このように、自分が育てた後輩が島根と結びつきを深めていくのは、とても感慨深いものがあります。10年前とくらべ、交通アクセスも格段に良くなりましたので、もっと人と料理の交流を増やしたいです。
 私はかねがね、”料理は人と人との絆を深める“が持論。味付け、器のちょっとした工夫など、相手を思いやる心が大切だと思うのです。食材の味を通して知った、島根の風土と人の温かさ。島根の良さを実感した一人として、優れたレシピを提供することで応援していきたいと思っています。(談)
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標高325メートルの赤ハゲ山は頂上展望台から
360度の大パノラマが楽しめる(知夫村)

大田 忠道
おおた ただみち
大田 忠道
日本料理調理師。昭和20年、兵庫県西宮市生まれ。調理の仕事に就いた兄の影響で、高校卒業後に料理の道へ。大阪今里の料亭での修業を経て、有馬温泉(兵庫県)の名門旅館「中の坊瑞苑」の料理長に抜擢される。古来より朝廷で供された節会料理など、伝統の日本料理を手がけながらも、中華・西洋料理など様々なジャンルの技法を取り入れ、独創的な料理を生み出している。現在、同旅館の調理顧問のほか、有馬温泉「旅籠」・「関所」といった一流旅館の総料理長を兼任。その他、兵庫県日本調理技能士会会長、日本調理師協会副会長などを務め、調理師育成や業界振興にも貢献。平成15年は、「しまねブランド推進室」の事業に協力し、県特産品を食材としたレシピ開発、店舗でのメニュー提供を行っている。

大田 忠道/忍足 亜希子

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