美味お国自慢
食の護り人
第1回浜田ブランド「どんちっちアジ」
浜田市から約25キロメートル。中国山地に抱かれた弥栄村は、
総面積105.5平方キロメートルのうち85%を山林が占める
“純山村”である。山なみに寄り添うような棚田。
平地に広がる田畑と点在する集落。のどかに映る風景の内側には、
古くから受け継がれてきた製法と地域の個性を生かし、
“健やかなおいしさ”を追い求める人たちのひたむきな姿があった。
輪作を行い土力を引き出す有機農法
輪作を行い土力を引き出す有機農法
土壌(つち)が育む味と香り
次の畑作りにむけて丹念に土を耕していく
次の畑作りにむけて丹念に土を耕していく
 毎年、自然と田舎暮らしを満喫するために、都会から多くの来訪者で賑わう弥栄村の「ふるさと体験村」。そのほど近い場所に(有)やさか共同農場(以下、共同農場)の事務所がある。設立は平成元年。有機農法での穀物(米・大豆・麦)、野菜、椎茸を生産し、手作り味噌や特産品の加工・販売を手がける一方、就農希望者の支援でも広く知られている法人だ。だが、共同農場がこの村に根をおろしたのは、今から31年前(昭和47年)にさかのぼる。現在の代表を務める佐藤隆社長を含む他県からやって来た4人の若者たちが、過疎化が進む弥栄村の休耕田の開墾に着手したのが始まりだった。
 共同農場がこれまで一貫してこだわってきたのは、化学の力に頼らず土壌の力を高めて農産物を作ること。同じ耕地で今年は米、来年は麦、再来年は大豆を栽培するという”3年輪作体系“で、土中に元々ある地力を引き出し作物に還元していくやり方だ。こうして栽培された穀物は、共同農場の経営基盤を支える1つの加工食品を生み出した。入植から5年、村の農家の主婦と一緒に始めた「手作り味噌」の製造は、四半世紀を越えて、現在では年間生産量約400トン。共同農場の核であり、同時に弥栄村を代表する特産品に成長している。

すくすく育つ大豆畑。根元の雑草も堆肥として土に戻す
すくすく育つ大豆畑。根元の雑草も堆肥として土に戻す
村ぐるみで培ってきた自給農産物の生産・加工体制
 ブナ林と渓流をわたる風が秋の匂いを運んでくる頃、山麓の醸造所では「やさかみそ」の仕込みが行われる。原料となる大豆・米・麦は、弥栄村で栽培されたものを中心に、島根県内や九州・四国・東北地方の契約農家から入手。他にも、沖縄産の食塩や京都から取り寄せる種麹など、いずれもこだわりの素材のみ。添加物や遺伝子組み替えをした食材は一切使わず、自然本来の力と人の手仕事だけでまろやかな旨味とコクを引き出している。
 何万個もの自然界の酵母菌・乳酸菌・麹菌が息づいている「やさかみそ」。それは、力強い土壌で育まれた素材を地元の澄んだ湧き水で仕込み、極寒の冬と夏場の冷涼な気候の中で熟成させるからだ。自分たちが育てた大豆が、ひと夏を越えて「味噌」として出荷されるとき、それはまるで“娘を嫁に出す気持ち”だと、社員のひとりは語る。
 村内で生産した有機農産物を村内で加工するという独自の動きは、地域の農家や行政も巻き込んだ。今では8つの集落で誕生した農事組合法人が有機大豆と水稲の輪作で成果を挙げるなど、有機農産物は弥栄村の“顔”となった。
生産者と消費者を信頼の絆で結ぶネットワークづくり
9月末から仕込みが始まる「やさかみそ」
9月末から仕込みが始まる「やさかみそ」
 共同農場が取り組んだ有機農業と味噌づくりは、弥栄村という地域全体の活性化にも広がりをみせた。原料の大豆や有機野菜を生かした豆腐、カレーなどのレトルト食品も村が設立した(財)ふるさと弥栄振興公社と共同で次々に開発・製造され、弥栄村の特産品となっている。また、平成13年には農産物有機認証を、翌14年には加工品の有機認証も取得済みだ。こだわりの食品・野菜は、多くは関西・関東地方の有機流通ネットワークでの宅配企業や生協、また直接消費者に向けての販売方法がとられている。しかし、この秋からは地元・浜田市内のショッピングセンター「一番街」でも販売コーナーが拡張される予定だ。“安全でおいしい”を信条に、誇りを持って食品を作り続ける弥栄村の人たち。その熱い想いは、消費者に確実に届いている。

しまね美味<うまみ>名鑑

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