私と島根 ゆったりと流れる時間を肌で実感  今年の8月6日、島根県民会館で行われた『復元・阿国歌舞伎〜歌舞伎発祥400年』の公演のために、松江市を訪れました。
 約10年ほど前から吉本新喜劇以外の舞台にも立つことが多く、いろいろな演出家さんとの出会いを楽しみにしています。そのたび、自分でも未知の可能性を引き出してもらえ、やりがいを感じています。今回の役どころは、“猿若”。初期の阿国による女歌舞伎とその後生まれた若衆歌舞伎で道化役を演じた「太鼓持ち」です。公演のタイトル通り、多くの学者さんが研究した史実にもとづき、阿国の歌舞伎を“復元”する試みでした。しかし、史実一辺倒ではなく、一般の人にも面白おかしく感じてもらえるよう、エンターテイメント性も盛り込まれています。演じるのは、正直言って難しかった。ご存知のように、吉本新喜劇とは対極の舞台なので、しんどいし苦労もありました(笑)。でも、その分、自分でもいろいろ勉強になりました。阿国にまつわる史実を一つの契機として、歌舞伎のルーツである能や狂言を認識するきっかけとなったような。その事が、公演に足を運んでくれた人たちにも伝われば良いですね。起用してくれた演出家の野村万之丞先生やスタッフ・共演者のみなさんには、「出演させてもらって、ありがとう。」という気持ちで一杯です。
 島根には、公演やテレビ番組の収録などで、たびたびお邪魔しています。でもステージや現場と交通機関を往復することが多く、“町歩き”まではなかなか堪能できませんでした。ところが、今回阿国の舞台で訪れた時は、リハーサルを終えて楽屋入りするまでの休憩時間に、松江城のお堀をめぐる遊覧船に乗ることができました。松江城の姿、お堀に架かるいくつもの橋などの景色は、まさに“風光明媚”そのもの。静かな水辺を走る船の上で、ゆったりと時間が流れるのを、肌で感じましたね。市民の皆さんが、この町の歴史と昔をしのぶ建造物を大切にしている事が伝わってくるような町並みでした。仕事柄、全国を廻りますが、「日本も全部がこんな風な町になれば良いのに」と思ったほどです。遊覧船やお堀ばたの松並木の散策など、機会を作って家族ともう一度楽しんでみたいと思います。『復元・阿国歌舞伎〜』は、松江以外でも神戸・京都・富山などの各都市で行われている“市民参加”型の公演です。これは野村先生が仰っていましたが、「島根の人たちの取り組みが一番熱い!」と。古き良き物を尊重する町づくりをこの目で垣間見たこともあり、僕もその言葉にうなずけます。(談)
松江城を囲む堀川を船で一周する「堀川遊覧船」(松江市)
松江城を囲む堀川を船で一周する「堀川遊覧船」(松江市)

池乃 めだか
いけの めだか
池乃 めだか
タレント。昭和18年7月3日大阪府守口市生まれ。昭和41年デビュー。漫才コンビ「海原かける・めぐる」で人気を博し、昭和50年上方漫才大賞新人賞を受賞。昭和51年、吉本新喜劇入門を機に“池乃めだか”と改名。鋭い観察力による「猫まね」や、「カニバサミ」など数々のギャグを生み出し、個性的な演技力で看板スターへ。平成4年上方お笑い大賞金賞、平成9年同賞・大賞受賞。近年では新喜劇以外のジャンルにも意欲的に参加。平成14年は安部公房作・鴻上尚史演出の戯曲「幽霊はここにいる!」、平成15年には野村万之丞演出の「復元・阿国歌舞伎〜歌舞伎発祥400年」に出演するなど、コミカルからシリアスなものまで幅広く演じる異能派として、多くのファンを魅了している。

池乃 めだか/遠野 凪子

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