美味お国自慢
食の護り人
第1回浜田ブランド「どんちっちアジ」
太陽の恵み、水の恵み、大地の恵み・・・。
島根には、自然の恵みをそのままに、守り育てる人がいる。
島根には、食の本質を知りぬいて、つくり育てる人がいる。
自然に囲まれ、自然に生かされる。
食の現場の人たちの心根に迫り、伝えてみたい。
数値が語るどんちっちアジの旨みと鮮度の良さ
 今年10月、『全国豊かな海づくり大会』の会場となる浜田漁港。西日本屈指のその漁港に水揚げされる魚の中でも、秀逸の旨さを誇る「アジ」「カレイ」「ノドグロ」の三魚に、昨年秋、「どんちっち」という商標名が冠された。どんちっちとは県西部の伝統芸能、石見神楽のお囃子のこと。リズミカルな商標名が、鮮度良く旨味たっぷりの三魚のイメージを後押しする。
 三魚の中でも、春先から初夏にかけて旬を迎える「どんちっちアジ」の旨みは全国で既にブランド化されているアジの中でもトップレベル。旨みの決め手となる脂質含有量は一般的には6.9%。「どんちっちアジ」は4月から7月までの間に10%を超え、時には15%を超えることもある。
 また、鮮度状態を数値的に量るK値は、平均約2%(島根県水産試験場調べ)。一般的に刺し身のK値の目安は20%以下とされることから、その鮮度の良さは一目瞭然だ。
  
鮮度の良さの鍵をにぎる
巻網船団の運搬船
 「どんちっちアジ」の鮮度保持の立役者はアジ漁を行う巻網船団の運搬船だと聞き、その一つ、裕丸漁業生産組合巻網船団運搬船・第5裕丸に乗船させてもらった。
 運搬船の役目は本船(網船)が漁獲した魚群を漁場で積み上げ、鮮度良く、いち早く陸揚げすること。運搬船でのアジの保冷場所は7〜11tの氷を入れた巨大な魚槽。作業の手順としてはあらかじめ作っておいた冷海水に魚を入れることにより瞬時に魚を冷却する。「魚槽の中でアジを悠長に生かしておくと口を開けたまま息絶えてしまう。さらに氷の下に潜り、溶けた氷の真水の中で魚体が白濁してしまうこともある。海から掬い上げた瞬間が勝負だ。天候により運搬(帰港)時間に適した氷の量を判断し、魚層から真水を抜く作業も絶対必要条件。全工程のタイミングとバランスが鮮度を左右する」と第五裕丸船長の谷口周司さん(56)が教えてくれた。
 
氷と海水の調合具合により鮮度の良さを左右する
 
奮闘。何千、何万のアジを
鮮度良く積み込め
 過去にはイワシの大漁で漁場と港を往復したこともあったが、昨今は不漁続き。「魚が少ないからこそ、鮮度が命。私が全責任を持つ」。谷口船長はきっぱりと言った。
 
ウマ味と鮮度の良さで食通をうならせるどんちっちアジ
 時は午前4時。他の5名の乗組員が無言で水揚げの体制を整え始めた。溶けた氷水を魚層から抜く姿も見られた。
 アジを捕らえた網を引き、網船が第五裕丸に接近してきた。両船が網を挟むまでに近づくと、第5裕丸がデレッキで吊った巨大な巻きダモを海中に沈めた。2隻の船の間で指示が飛ぶ。太い鎖で巻きダモが引き上げられた。ピシャッ、ピシャッ。中には身をよじらせ飛び跳ねる何千、何万ものアジ。頭上高く持ち上げた巻きダモからアジが一斉に魚層になだれ込んだ。船の灯りに照らされ輝く銀鱗。まるで銀の雨だ。
 その瞬間、谷口船長が氷と海水のバランス保持の為の放水を始めた。水圧は人をも弾き飛ばす程。船長はホースの角度を微妙に変え、腰をかがめて移動する。約10回、掬い上げられる度に激しい放水が続く。
30分後、積み込み作業の終了と同時に放水も止み、魚槽に蓋が閉られた。
いち早く、漁港へ
 第5裕丸はスピードを上げ、陸に向かって進み始めた。船室では早朝の宴。獲れたてのアジの刺身が皿いっぱいに盛られた。さっぱりとした肉質がうまい。食べ頃は漁獲後2日目頃で、海水につけて保冷すると、4日は美味しく食べられると船長に教わった。
 午前7時。第5裕丸は浜田漁港に帰港。魚層の蓋が開けられた。アジはどれも上品に口を閉じ、銀色の体が朝日の中で輝いている。谷口船長と全乗組員に安堵の笑みがこぼれた。セリ場へ運ばれていく中から1匹を掴むと、その体は弾力性に富んでいた。日本海の荒海を生き抜いた証の様に。
 「どんちっちアジ」には海で働く男達の誇りと命の尊さが含まれている。感謝して食べずにはおれない。

しまね美味<うまみ>名鑑

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