澄田信義氏
島根県知事
澄田信義
すみた のぶよし
島根県知事。昭和10年島根県出雲市生まれ。東京大学法学部卒。和歌山県警察本部長、日本国有鉄道常務理事を経て、昭和62年より現職。現在5期目。
佐々木正氏
佐々木正
ささき ただし
工学博士・島根県新産業創出戦略会議顧問
国際基盤材料研究所会長、元シャープ副会長。大正四年生まれ。浜田市出身。
京都帝国大学工学部電気工学科卒、同大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了。川西機械製作所(現富士通)を経て、早川電機工業(現シャープ)に入社し、昭和41年世界初のIC電卓、44年世界初のLSI搭載電卓、のち液晶電卓を開発。平成6年ナノテクノロジーの研究開発に取り組むベンチャー企業・国際基盤材料研究所(ICMR)を設立し、13年より会長。昭和46年アポロ功績賞、48年藍綬褒章、55年通商産業大臣賞、57年東独ドレスデン工科大学第一等功績賞、60年勲三等旭日中綬章など受章多数。著書に「電波技術教科書」「マイコン読本」「はじめに仮説ありき」など。浜田市名誉市民。ニックネームは、ロケット佐々木。


ふるさとへの思い
知事 このほど、世界的規模の電気・電子分野の技術者組織であるIEEE(アイ・トリプル・イー)の名誉会員称号を受章されましたこと、本当におめでとうございます。大変権威ある称号と伺っており、日本では5人目ということで、島根県民にとりましても大きな誇りです。
佐々木 ありがとうございます。知事さんからも評価をいただき光栄に思っております。
知事 この度は、「島根県新産業創出戦略会議(P10参照)」の顧問にご就任いただきありがとうございます。今、景気も低迷し、本県経済も非常に厳しい局面ですから、産業の振興を第一の目標に掲げて取り組んでおります。本県も国の内外の競争条件の中にありますから、競争に打ち勝って自立していくためには、他の地域にない新たな産業形態が必要だという目的意識を持って「新産業創出戦略会議」を設けました。先生の多年にわたる豊富な経験とすばらしい発想によっていろいろご指導をいただきたいと思っております。
最初に、生まれ育った島根に対する思いや、世界を舞台にご活躍なさっている、いわば「世界の佐々木」という目から見た島根についてお話しをお伺いしたいと思います。
佐々木 島根に対しては非常に愛着を感じております。私の先祖は代々浜田で育ち、私の父親になって初めて島根を離れましたが、何かしら無形の惹きつけられるものがあり、京都大学に入ってからも時々浜田に帰っていました。いずれは浜田へ戻りますし、近いうちにはお墓もきちんとして私も骨を埋めるつもりでおります。「島根」という名前を考えてみましても「日本島の根」ですから、私はそこから栄養が上がってくると解釈をして島根を見ておりました。これまでに澄田知事からも島根の古墳の状況などいろいろな話を度々お聞きしたり、私自身、大学時代に日本刀の勉強をしたとき以来たたら製鉄にも執着してまいりました。島根は日本の根として中国や韓国の文明文化を吸い上げ、日本全体へ行き渡らせたという形跡が感じられます。ですから、日本の根っ子であるという誇りを持たなければいけません。その誇りを大事にして輝くものにするための努力をしなければと考えるうちに、住みよい島根にしなければならないという責任感が出てきました。
知事 島根に対するこの上もない愛着をお聞きして非常にうれしく思います。おっしゃるように、島根は中国大陸や朝鮮半島など、さまざまなところからやってきた文化を吸い上げて日本全国へ行き渡らせた根本だという意味でも、大いに自信と誇りを持たなければいけませんね。
佐々木 そして今回、「新産業創出戦略会議」の一員として考えたことは、世界全体の傾向と同様に島根に産業を興すには「基盤となる材料」が必要だということです。例えば、県というシステムで言えば、鉄道、電気などの広いインフラ整備からだんだんシステムに移行し、ついには個人の価値観を尊重する政治にしなくてはというところまできました。一方それに伴って、個人が生活するための基本のハードウェアもナノマテリアルまできて、この材料以下はありません。人間の身体も最後の細胞レベルまできました。つまり、全部が基盤まで到達して折り返し点にあることが大事で、今後この基盤から伸びていくことが大事だということが分かってきました。ですから、島根県は長い歴史から見て折り返し点にきていることを皆さんにお伝えし、再出発してほしいというのが私の島根に対する一番の願いです。
知事 ありがとうございます。たたら製鉄に象徴されるような、島根が昔から誇る大変すばらしい技術や文化を、あらためて再生するというものの考え方で取り組まなければいけないという、非常に元気づけられるお話を伺いました。
島根再生のための技術と産業

島根再生のための技術と産業
知事 島根県にはたたら製鉄に限らず、例えば石見銀山の、当時としてはおそらく革命的な灰吹法という技術や、古代出雲大社の、48メートルという当時日本一の高層建築物を作るような技術もありました。島根には自然、歴史、文化など、誇り得る財産がたくさんありますので、これをうまく活かして新しい産業を興し自立していくことが必要と思っております。島根を再生していくためのキーワードはどのようなものとお考えでしょうか。
佐々木 私が感じたのは、植物の「根」と島根の「根」との共通性といったところでしょうか。「根」の一番大事なことは、上が枯れて衰退しても生き残っていて、時期が来たら再び根から芽が出て大きく伸びていこうとすることです。ちょうど今すべての産業も、苦しい冬の中、根で栄養を貯めている現状です。それではどういう方向に伸びるかといえば、一つには大きな幹として産業を興していくことが大切で、しかも県民や国民、ひいては人類を幸福にするような産業でなくてはだめです。もう一つは、20世紀を反省して環境をきれいにする技術産業。もう一つは、少子高齢化社会ですから、従来の福祉ではなく新しい福祉社会を作るということで、もちろん産業も関係してきます。この3点を考えなくてはいけません。そしてそれに加えて一番重要なことは、インターネットなどIT技術を使ってお互いが情報交換をする社会を作ることです。
知事 今おっしゃいました3分野は、これからの世界や日本にとりましても大変大切なことです。具体的に島根はどういう方向で進めていけばいいのか、いろいろお考えを聞かせていただけたらと思います。
佐々木 島根にとって大事なのは、基盤となる材料ができていないと、新しい産業として芽を出す力も伸びていく力もないということです。そこで、私は「ネオたたら」と言っていますが、ナノの材料が砂鉄に相当する材料になるのではと思い、日本の技術、世界の技術を使いながら新しい金属を考えていこうと思っています。
 
「第1回新産業創出戦略会議」(東京)
知事 一番大きな課題である基盤材料開発については、世界の知識と知恵と技術を導入しながら、先生のおっしゃる「ネオたたら」など、新しい島根の将来を切り拓くものとしていろいろご指導を賜わりながら我々も総力を上げて取り組みたいと思います。
佐々木 次に環境については、現在空気清浄機の研究をしていて、これが成功すれば相当可能性があります。また、日本海をきれいな海にする方法を、日本海に面する国々で相談してできればと考えています。それについての技術を私どもはすでに開発しつつありますから、実際に使ってもらいたいと思っています。
知事 今のお話しは非常に大きな課題です。島根県の取り組みとして宍道湖、中海、日本海をきれいにするということは、北東アジア全体や人類にとって大変な貢献になると思います。今秋10月、天皇皇后両陛下をお迎えして、浜田市で「全国豊かな海づくり大会」を開催します。水産資源の保持、保存、育成と同時に、“きれいな海を守ろう”がテーマですが、海岸の清掃などが主体で、科学的に水質の改善まで積極的に取り組んでいるところは少ないと思います。これからぜひしなくてはいけないことです。
佐々木 3点目の福祉社会については、年寄りの仲良しクラブは非常にいいけれど、若い者との縦の仲間意識がもっと必要だと考えています。年寄りは長い間の経験を若い者に譲り、若い者はそれを受けとって次の時代を作る材料を生み出すという仕組みができないかと思っています。
知事 先生はかねがね生涯現役ということをおっしゃっていて、私もその考え方には大賛成です。島根県は高齢化先進県として全国に13年ほど先駆けていますが、先ほどおっしゃった若い者と高齢者との縦のつながりをもっと重視しながら住みやすい社会を作っていくために、福祉社会をより豊かに進めていくための技術開発といったことも大切な分野だろうと思います。島根で高齢化社会に役立つ技術開発が行われ、システムづくりが進むことは、やがて全国がそれに追随してくるということですから、全国に先駆けて私どもが取り組まねばならない分野だと思います。
佐々木 今回知事にお目にかかったら、これらのことをお互い頑張ってやりましょう、ということを申し上げたかったんですよ。
知事 ありがとうございます。かつてのたたらに代わるような材料の開発、空気や水を清浄化する環境の分野、高齢化社会を見すえた福祉の分野という3点について、まさにこれから島根の進むべき道であるというお話を伺いまして、前途に光明が見えてきたような気がして非常にうれしく思っております。

知事対談 新産業創出に向けて
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