個人の創造性を高め多分野の交流を
江崎 先ほどルネサンスの話をしましたが、その精神は教育においても大変重要で、新しい世紀に若い人たちがどう創造的に生きるかを考えなくてはいけないと思います。私たちの知的能力には現在あるものを解析し、理解し、判断するという分別力が備わっていますが、これは、イマジネーションと先見性で新しいものを創造する能力とは違います。ルネサンスでは、分別力ではなしに創造力がかきたてられるような社会環境をつくり出したということなんですね。つまり、これからの島根県に必要なのは分別力ではなく、どうすれば創造力がかきたてられる社会環境をつくり出せるかです。創造性は個性に依存するものですから、人間の潜在能力を最大限に引き出す一人ひとりに合った教育が必要だと思います。
知事 新たな世紀を迎え、産業振興を図るためにも基礎になるのは人材です。個人の能力を最大限に発揮させる教育も十分視野に入れて人材を育て、またそういう人材が集まってくる土壌や環境を作ることが大事です。先ほど交流の話が出ましたが、筑波研究学園都市の国立試験研究機関などで活躍している島根県出身の研究者や技術者と、島根県の産・学・官の交流を進めるため、平成11年「しまね・つくばネットワーク」を結成し、交流が非常に盛んになっています。先生にもご参加いただき、しかも、ご自宅にメンバーをお呼びいただいたそうですね。
江崎 はい、楽しい時を過ごしました。それと、交流ということで申しますと、近々、筑波の中で、筑波の人たちによる筑波のための集まり「つくば科学アカデミー」を設立しますが、島根県出身の方にも大勢参加していただきます。環境や高齢化の問題にしても、いろいろな分野の人たちが集まって考えなくてはならない問題が非常に多くなってきたのが、21世紀の特徴だと思います。学問や技術が進歩する条件としては、個人の創造性を大切にする一方で、意見を交換するダイナミックな交流も必要です。先ごろ、筑波大学から白川英樹さんというノーベル賞受賞者が出たものですから、特に気勢があがっております。交流を大切にされる島根県からも、いつかノーベル賞が出るようになればいいですね。
知事 ぜひそうなってほしいものです。「ソフトビジネスパーク島根」がいろいろな分野の交流の場となり、新しいものを生み出していく舞台となることが一つの大きな狙いです。

江崎氏と澄田知事

踏み慣らされていない新しい道を未来へ進む
知事 江崎先生は「教育改革国民会議」の座長も務められ、先ごろ中間報告も提出されました。島根県では、ふるさとを愛し、たくましさと創造性豊かな人間づくりを掲げて教育に取り組んでいますが、中でもボランティア精神を、家庭、学校、地域社会において小さいころから養うことが大切だと思っています。
江崎 人間というのは自分一人で生きていくことはできないわけですからね。大事なことはいかにいい人生を送るか、いかに自分を表現するか、いかに自分が世の中に貢献できるかで、基本的に自分が計画して描かなくてはいけない。その人生設計のガイダンスを、学校や親や地域が与えるということでしょうね。
知事 理数離れも言われる昨今、産業振興と教育の関係はいかがでしょうか。
江崎 科学教育をどうするかということは日本の大きな問題です。科学の面白さを伝えていないのではないかと思います。科学には、教科書に書いてあるような客観的で理性的で完成されたような面と、もう一つは、主観的で創造性を必要とする面の2つがあります。ですから、教科書に書いてあることを暗記しなさいというだけではなく、自分が探究することによって自身に刺激を与えてくれる科学の面白さを子どもたちに教えなくてはだめです。科学は人間の夢を大きくしてくれるもので、21世紀に日本が産業を発展させ、社会のインフラを充実させるためには科学技術の力を借りないといけません。ベンジャミン・フランクリンが「言われたことは大抵忘れる。教えられたことならば覚えていることもある。ところが、いったん問題に巻き込まれると、そこから自分は学ぶことができる」と言っているように、問題に巻き込まれるような体験学習がだんだん重要になると思います。
知事 そうですね。体験学習は興味を起こさせる一番いいやり方だと思います。私も、野山で昆虫を捕まえたり、学校での理科の実験など、新鮮な思いがして面白かったですね。ですから、例えば田植えや稲刈りの農業体験など、さまざまな分野で体験をすることは教育の大きなポイントでしょうね。
江崎 その点では、自然と接触する機会が多い島根に住んでいる人たちは、東京の人たちよりずっと恵まれていると思います。私はアメリカに長く住んでおりましたが、ベンチャー精神が旺盛なアメリカ人は、子どもでも芝刈りや雪かき、ベビーシッターなどの仕事で報酬を得て、お金を儲けることや社会の仕組みを早くから知ります。また工科大学の卒業生の多くは、管理された大企業より自分の力を発揮できる面が多いベンチャー企業で働きたいと考えます。これからの日本でも、どうずればベンチャー精神のようなものを駆り立てることができるかという、国民運動みたいなものが必要です。いろいろな企画が全部成功することはないけれど、労力を惜しまず、リスクを負うことを覚悟することが大事ではないかと思います。
知事 私もアメリカ各地を視察したとき、失敗を恐れず、一度失敗しても二度は同じ失敗を繰り返さないものだという寛容さで支援する風土を感じました。島根県は安定志向のほうが強い土地柄ではありますが、「ソフトビジネスパーク島根」から変えてみよう、という気持ちで取り組んでいます。
江崎 電話を発明したアレキサンダー・グラハム・ベルがこういうことを言っています。「時には踏みならされた道を離れ森の中に入ってみなさい。きっとあなたは、森の中で今まで見たことのない新しいものを見いだすに違いありません」。「ソフトビジネスパーク島根」も森の中ですからね。
知事 私たちも新しいものを見い出すために、踏みならされていない道を歩まねばなりませんので、いい言葉を聞かせていただきました。今日はお忙しいところ本当にありがとうございました。

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知事対談
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