私  と  島  根

人・歴史・自然が響きあう石見の町並み 矢野顕子

やのあきこ
シンガー・ソングライター&ピアニスト。昭和30年東京生まれ。幼少時代にピアノを習い始め、高校在学中からジャズ・ピアニストとして活動をスタート。51年ファースト・アルバム「ジャパニーズ・ガール」をリリースし、ソロ・デビュー。54〜55年、YMOの2度のワールドツアーにサポートメンバーとして同行。56年CMソングにも起用されたシングル「春咲小紅」が大ヒット。ソロ活動はもとより多数のミュージシャンと共演、CM、映画の音楽監督など幅広く活躍。平成2年よりニューヨークに移住。海外に拠点を移しての音楽活動は、今年で11年目を迎える。
矢野顕子写真

 大都市以外のファンにも生演奏をお届けしたいという趣旨で始めた『出前コンサート』。その公演で大田市大森町を訪れたのは、今年の3月4日のことでした。大田市の「銀の音色」という団体の皆さまからお誘いをいただいたのがきっかけで、コンサートを開催することができたのです。準備期間に約1年を費やしましたが、その間、地元の人たちの熱い思いをひしひしと感じました。それは、「自分たちが暮らすこの土地を本当に愛し、町のために何かをしたい。」という熱意です。もう、この人たちのために、私が出来ることはすべてしてさしあげたい!―心から、そう思えましたね。
 大森町は石見銀山のなごりを遺し、自然と歴史的建造物がとけ合って素敵な雰囲気を醸し出していました。コンサート会場の『町並み交流センター』も、明治時代には裁判所だったという貴重な建物。しかも、町の人たちはただ保存するだけでなく、そこに心を通わせ上手く活用している…。会場に一歩足を踏み入れると、その様子が伝わってくるんですね。今、私が暮らすニューヨークの自宅やスタジオも、古くからある建物を改築したもの。地元の人たちは、歴史のある建造物や町並みを敬意をもって扱うんです。それと同じような空気を、ここ大森町のたたずまいからも感じました。
 重厚な雰囲気を持つ外観の内側は、木のぬくもりを生かした温かな空間。コンサート実行委員会の皆さんが会場に竹林や池を作ってくださるなど、一から手作りのステージ。とてもなごやかな雰囲気の中で、演奏することができました。多くの人たちは、この『出前コンサート』で初めて私に接し、ひょっとすると次の機会はないかもしれない。そう思うと、この時間はまさに“一期一会”の出会いであるわけです。そのなかで「一番良いものをお届けしたい」といつも心がけてステージにのぞんでいますが、客席の皆さんから「一緒にこの時間を楽しく共有したい」という気持ちが伝わってきて本当にうれしかった。
 今回は空港と会場の往復だけでしたが、短い時間の中でも、石見に暮らし、ふるさとをこよなく愛する人たちの“心”を感じることができました。今後もこの町並みと建物に生命を吹き込み、保ちながら活かし続けてほしいと願っています。(談)

[ 柄本 明 / 矢野顕子 ]

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