私  と  島  根

えもと あきら
俳優。昭和23年東京生まれ。サラリーマン生活を経た後、52年劇団“東京乾電池”を結成。劇団の定期公演のほか、映画「セーラー服と機関銃」やTVドラマ、CMで人気者に。映画「男はつらいよ・あじさいの恋」で昭和57年度ブルーリボン賞助演男優賞を、平成11年には映画「カンゾー先生」で各映画賞の主演男優賞を独占した。
柄本明 写真 さりげなく温かい人情 柄本明

 昨年の12月、初めて島根を訪れました。そのときは一人芝居を上演しに、いわば仕事に行ったわけで、当日会場に着いて翌日には東京に帰るというスケジュールでしたから会場以外どこにも行けませんでした。芝居をきちっとお見せするのが第一ですから、どこでもそういうことになってしまうんですね。単身赴任で仕事を頑張るおやじさんみたいなものです(笑)。
 でも、島根半島にある美保関町の旅館でいただいた魚の味は忘れてはいません。歯ごたえが新鮮な白身魚…地元では「チヌ」と呼ばれている透き通るような身の黒鯛。舟造りといった大仰なものではなく、普通の料理として出されたお造りは、飛びきり上等のもてなしの心がこもった美味しさでした。「冷たい波の中での漁だったんだろうな」などとなどと考えながら、部屋の窓から眺めた冬の荒々しい日本海を思い出します。
 そんなふうに、僕は全国を旅していろんな町に行くんですが、最近同じような風景の町が多いことに気がつきます。その点、美保関はメテオプラザという新しいユニークな建物が堂々と建っている反面、昔ながらの港町の面影が残っていて、人の臭いがする面白そうな町という印象があります。その昔は北前船の風待ち港として、その後も商売繁盛や開運を願う美保関神社への参拝客で賑わったとか。そんな歴史のある港町の雰囲気が独特な旅情を醸し出しているんですね。
 後悔したのは、ある人に「出雲大社には行かなかったの?」と聞かれてから。「しまった、あそこにだけは行っておきたかった。出雲大社のような古い歴史のある神社にまみえて、おおらかな空気の残る場所で心の底からのんびりすればよかった」と。今度島根に行くことがあったら、必ず出雲大社を訪れてゆっくり過ごしたいと思っています。
 美保関では、非常に早く会場に着いて一人で時間を持て余していたとき、ふと気が付くと女性の関係者がいらっしゃて、世話をするでもなく無視するでもなく、いい距離でお話をしていただいたりして心が和む時間を過ごすことが出来ました。そうそう、島根というと、それが一番。さりげなく温かい人情、というのが。(談)

[ 柄本 明 / 矢野顕子 ]

私と島根
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