焼さば
ジュウジュウという音とともに焼き上げられるさば。こたえられない臭いが辺り一面に広がる。
美味お国自慢
子どものころからあった
素朴でシンプルな郷土料理「焼さば」。
あまりにも早く過ぎ去る時の中で、
忘れていた懐かしい料理をあらためて見直すと、
そこには昔人の知恵と歴史、
新たに発見された意外な意味があった…。
 
焼さば きすきちょう
〈木次町〉

 山間の地域である雲南地方に昔から伝わる「焼さば」。文字どおり大きな生サバを丸ごと一匹焼き上げた、素朴で豪快な料理である。なぜ、この地域に海の魚であるサバの料理が伝承されてきたのだろうか。この「焼さば」を名物料理として食することができるという斐伊川中流域の木次町にそのルーツを訪ねてみた。

 明治以前、木次は大社町や平田市方面の漁港から届く生魚の運搬の限界点とされていた。しかも、近郷の農家では農繁期のエネルギー源として、昔からサバを好んで食していたものだった。生サバは「サバの生き腐れ」といわれる通り、鮮度が落ちるのが早い魚である。そこで木次の魚店などが、おいしさを保ち日持ちもするよう考え出したのが「焼さば」だったのである。これによって、木次より上流の雲南地方まで行商することが可能になり、最盛期には馬車に積み込んで出かけたこともあったという。

 以後この料理は、近郷の農繁期の農家になくてはならない食材となっていった。というのも、昔は一家総出で近所や、親戚に出かけていって、お互いに田植えを手伝い合ったからだ。忙しい時期に手間をかけずに、手伝いの人へ出すご馳走として焼さばは重宝された。20年ほど前までは、7月2日の「半夏はんげ」という農家の休日にも、嫁が実家に持っていくお土産は、決まって焼さばだったという。しかし、時代の流れとともに焼さばの需要は減り、現在では町内で扱う鮮魚店も数えるほどになった。

 昔ながらの焼さばは、火が通りやすいように背割りをした身をずらして、泳いでいる姿そのままに太い竹串を打ち、樫の木の炭火で30分ばかり焼く。そうして焼いたサバは、翌日になっても身が柔らかく味が落ちない。ホクホクの身に少々醤油をたらして香ばしい香りとともに頬ばると、かみしめるほどにサバのうまみと懐かしい思いが口中に広がる。店頭から漂うサバから出た脂が炭火に落ちる香ばしい臭いに、郷愁を感じて買い求める地元の人も多い。

 この焼さばの身をほぐして五目ずしに混ぜ込んだのが「焼さばずし」。多めに混ぜ込まれた素朴なサバの味に、椎茸やタケノコなどの甘辛い味の染み込んだ煮染めが絶妙にマッチして、気が付けば軽く平らげてしまう味だ。元は、食べ残こしたサバの身を、同じく余ったいろいろな煮染めとともにご飯に混ぜたものが始まりといわれ、町内の味どころで味わうこともできる。

 実は、この焼さばずしも最近では作る家庭が少なくなっていたのだが、一昨年に町のイベントで振る舞われてから見直され、今では「おばあちゃん(焼さばの)混ぜずし作って」と、家庭内で作られる機会も増えたとか。木次町では、焼さばとともに伝統料理が地域の食卓に上る機会が確実に増えてきているのだ。

 それにしても、血液中の中性脂肪を減少させるなど、体に良い効果があることが最近解明され始めた青魚を丸ごと食べる焼さば。そして、季節の山菜とともにバランスよく栄養価の高い食事が取れる焼さばずしと、昔の人の知恵の深さには頭が下がるばかりである。

◎問い合わせ先
木次町産業振興課
TEL0854−42−1126

焼さばずし
焼さばずしは花見の時にも欠かせないごちそうだ。

 column さくらめん