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ツガニ
珍味として再び脚光を浴びる高津川の幸

アユの解禁から2カ月後、本格的な夏の訪れを知らせる高津川の住人がいる。もう一つの高津川名物、ツガニだ。

別名「モクズガニ」とも呼ばれるツガニは、上海ガニや毛ガニを連想させる長い毛の生えた親爪が特徴。川ガニの中では最も大きく、30年ぐらい前は田んぼでもよく見かけられた。甲羅の直径はおよそ10センチ、大物になると12〜13センチ、重さは300グラムにもなるという。

アユと同じ時期にふ化し、海と川で育つツガニが、川をそ上するのは一足遅い5月から6月。また、アユが半年で川を下るのに対しツガニは川上で3〜5年を過ごす。この間、脱皮を繰り返しながら成長し、産卵の時期である8月から10月末になると高津川の河口付近へと川を下り始める。産卵のために、体内に塩分を取り入れる必要があるからだ。

この習性を利用したのが、8月1日から11月30日まで行われるツガニ漁だ。水中にV字型に張った網の先端に「カニ網せん」と呼ばれる金網かごを仕掛ける定置網漁法を用いて、高津川では約5トンの漁獲量をあげている。

ツガニ 漁期の真只中、9月に入るとツガニはいよいよ旬を迎える。もともと海のカニより脂分が強い上に、この時期はさらに脂が乗り、雌のツガニは評判のカニみそも増えて、食通の頬を緩ませる。

料理には生きたままのツガニを使うのも特徴だ。昔は、熱湯をかけ殻を除いて身をすり潰し、絞ったものを豆腐の代わりにした家庭もあったが、今ではゆでガニとカニ飯が一般的な食べ方。アマエビのように透き通ったでんぷん質の身は、塩を加えた熱湯を通すと白く変わり甘味を増す。醤油を加えてゆでると、赤い殻の色も一層鮮やかになり食欲をそそる。胴体の身だけを炊き込んだり、ゆで汁を使ってニンジンや臭み消しのゴボウとともに炊き込むカニ飯も、ほのかなツガニの香りと、しつこすぎず淡泊すぎない独特の味わいを堪能させてくれる。

この味わいが、近年のグルメブームの中、「珍味」ともてはやされているのだが、高津川のツガニが最初に評判を呼んだのは終戦間もないころのことだ。北九州の炭鉱地帯へ出荷したところ、「穴から出て来る」ツガニの習性が炭鉱夫たちに「縁起物」として喜ばれていたという。今でも、漁獲量の半分は九州方面へ、残りの半分は県内と山陽方面へと出荷され各地で好評を得ている。

最近は、護岸整備による自然の河原の減少や、過疎による田んぼの減少などで、ツガニの住みかも減ってきた。しかし、高津川から届く季節の便りとも言える独特の味わいは、「珍味」「縁起物」「ふるさとの味」とさまざまな顔で、地元はもちろん県外でも広く親しまれている。

◎問い合わせ先
高津川漁業協同組合 TEL0856-25-2911


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