私と島根

白鳥英美子 (しらとりえみこ)
シンガーソングライター。1969年『ある日突然』で“トワエモワ”としてデビュー。『空よ』『誰もいない海』など数多くのヒット曲を生む。'73年解散後はシンガーソングライターとして活躍。'87年『アメージング・グレース』で独自の世界を確立、全国各地でのコンサートや、アルバム制作において常に新たな自分を表現し、個性豊かな音楽活動を続けている。今年、“トワエモワ”結成30周年を記念して『白鳥英美子withトワエモワ』を各地で開催予定。
白鳥英美子 写真 島根の海・空・町・人

写真
日本海を臨む
久々の島根行きに心が弾んだ。20代の頃にコンサートで訪れて以来だから、かれこれ20数年ぶりということになる。
出雲大社にハトが群れて餌を啄ばみ、ちょっとした物音で一斉に羽ばたき飛んで行く様は、忘れられない光景として私の心の中に残っている。
今回の島根行きは出雲ではなく、多伎町と美都町の2カ所でのコンサートという事で、どちらも初めて訪れた場所だ。
多伎町ではすぐ目の前に日本海が見下ろせる会館だったので、リハーサル前に外に出て潮風に吹かれていると、遠い昔のことや今のこと、海の向こうで輝いている未来のことが、体の中を通り抜けては循環しているようなそんな気にさえなった。多伎町から美都町へ移動する列車はゆったりとした空気が漂い、車窓から見える海の何とも美しかったこと。
美都町に着いて車から降りた途端、私は言い知れぬ懐しさとやさしさに出迎えられたような気がした。そこはまるで昔話に出てくる様な景色。柿の実の付き方、道の草花の雑然とした中にある凛とした姿、家々のたたずまい。とりわけ目をひいたのは、小学校だった。吸い込まれる様に校門をくぐり、その静まりかえった校舎に佇んでいると、体育館から男の子が出てきてこちらをチラッと見るとチョコンとお辞儀をして、校舎の中に消えて行った。
私の中で一瞬時が止まった。いつだったろうか、こんな気分、こんな午後の光景は…。胸の奥がジーンとしてきて、そのあと、とても幸せな気持ちになった。昔はごく当たり前のように見られた光景も、いつの間にかそういう姿も見なくなって、そういう習慣があったことすら忘れてしまっていたのだ。
美都町で出会った少年に、私は素晴らしい一日をもらった気がした。都市化と共に確実に変わってきている日本の風習、習慣、言葉。どれもいいものは残したいと願いつつも、風化していく現実は止められない。でも、大切なものや失くしたくないものは、必ず自分の心の中に残っているのだと思う。
島根は、海も空も町も人も堅実に生きているんだと強く感じた。


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