ワサビ

美味・お国自慢

ワサビ(日原町)
独特の辛味と香りを持つ、日本原産のワサビ。
清冽な水に潤され、恵まれた風土に育まれた日原町のワサビには、緑豊かな森の命が宿っている。

ワサビは、全国第3位の生産量を誇る島根県の代表的な特産品だ。中でも、県の西端にほど近い日原町のワサビは、辛味の中に独特の甘味が感じられる風味の良さが、全国最高級の評価を得ている。

日原町は中国山地を背景に、中国地方有数の川、高津川が町を横断する山峡の町だ。高津川と平行して伸びる国道187号を、安蔵寺山方面へと車を走らせると左鐙地区に入る。昔から野性のワサビが多く、日原町でも特にワサビ栽培が盛んな地域だ。

集落から、さらに山の奥深くへと分け入っていくと、渓流に沿って青々とした葉を一面に繁らせたワサビ田が現われる。そのみずみずしい緑は冬でも枯れることはなく、澄み切った冷気とせせらぎの音に包まれて、凛とした息吹に満ちている。農家の人々の手で1個ずつ大小の石を積み、砂れきを敷き詰めて作られたワサビ田に、県内最高峰の安蔵寺山系を源とする清水が絶え間なく流れ、ワサビを潤す。ここで、およそ2年、長いもので3年の月日を過ごし、ゆっくりとワサビは育っていく。

ワサビの生育には厳しい条件が必要だ。栽培には、標高350〜500メートルで、夏でも涼しく日照時間の短い場所が最適。北向きで、ワサビ田にこもれ日が射している状態が良い。そして、命と言える水が年間を通して安定した水温で、広葉樹の落ち葉などの栄養をたっぷりと含んでいなければ、ワサビは育たない。環境に敏感なワサビの生育地は豊かな自然の残る証であり、日原町は、まさにその条件を満たしていると言える。

日原町でワサビ栽培が始められたのは昭和7年。ワサビの生産組合も作られ、昭和11年からは、大阪・京都方面に月4回の出荷を開始した。戦争中は一時廃れたが、戦後は再び生産高が上がり、昭和40年代からは島根県のブランド「しまねワサビ」として、全国へと広まっていった。

加えて、昭和56年ごろからはワサビの加工品が商品化され始めた。「捨てるところがない」といわれるほど美味なワサビの葉や茎などが、特産品づくりに活かされたのだ。

中でも、栽培農家で正月や祭りの時などに珍味として作られていたワサビのしょうゆ漬は、町内の加工品の約7割を占め、西日本一の生産量を誇る主力商品になっている。材料は、10月下旬からワサビの花が咲く4月中旬までの葉と「がに芽」(長さ7〜8センチの新芽)。これらを水洗いして刻み、ゆでた後、しょうゆで5日から10日、長いもので半年間漬け込む。加工してなお、ツンとくるワサビ特有の香気を失わない逸品だ。

近年、全国のワサビ生産地は転期を迎えており、順調に成長してきた日原町のワサビ産業にも、後継者問題やワサビ田の水害対策、環境問題などの波が押し寄せつつある。安蔵寺山を含む西中国山地国定公園周辺でも、広葉樹林の減少によって森林形態に変化が見られ、ワサビを取り巻く状況は決して楽観視できない。しかし、日原町では、作業道の建設や畑ワサビの栽培がすすめられ、栽培に挑戦する若い後継者も現われ始めた。

山あいの日差しも暖かくなる4月、ワサビ田は小さな十字の花で真っ白に埋め尽くされる。雄大な自然の営みに育まれ、変わらぬ味と香りを保つ日原町のワサビは、自然の鼓動と、そこに生きる人々のたくましさも伝えている。

◎問い合わせ先/JA西石見 日原山菜加工場 TEL08567-4-1725

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1.水洗いされたワサビの葉

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2.ワサビの葉をゆでる

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3.ワサビの葉をしょうゆで漬け込む

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4.酒の肴に、ご飯に最適なワサビのしょうゆ漬

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日原の自然と人々に慈しまれて、ワサビは育っていく

[コラム]


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