私と島根◎ゆとりが生む島根の魅力
日本海を望む

島根を訪れるようになって、40年くらいたっているだろうか。何といっても、一番強く私の心を捉えたのは、島根の風物の持つ独特の色彩である。
限りない空に向かって開放された自然の力。そこには不思議な余裕があり、訪れた者を柔らかく包むゆとりがある。
日本海に面している、という事からもっと島根を別なイメージで予想していた私は、その不思議な明るい世界にたちまち捉えられてしまった。
松江とか浜田のような場所だけではない。名も無い海岸に立っても、その力を感じるのである。古代日本には、さまざまな人々が、さまざまな方角からやって来たのだろう。しかし、もっとも高い文化を持ち、その後の日本の進路を定めたのは、朝鮮そして中国から来た人達だった。そのルートとして、北九州とならんで日本海側の地方があったことは、いまや定説となった。大陸から訪れてきた人々にとって、この島根のもつ開放的なゆとりは魅力的だったのではないか、と、いろいろな想像がふくらんでくる。
おつきあいをいただいた島根の方々にも、なにか大らかなゆとりを感じることが多いのだ。厳しい冬、長い寒さのなかで不思議に感じられる明るさがあるのだ。あの出雲の、かつての大国主命の伝説を思わせるような、自信を秘めたゆとりがある。
この島根のもつゆとりは、最近ではどんな風に評価されてきたのだろうか。絶えず忙しく動きまわらないと、発展がないように思っていた時代には、あまり高く買われなかったかもしれない。しかし、来るべき21世紀には、逆に大変に重く見られる可能性が、感じられてきた。
自分達の日々の生活、そこから生まれるもの、その周囲との交際のあり方。そんなものがもっともっと重く見られはじめているのだ。島根を、もっとゆっくり旅して歩きたいと思う。長い歴史のなかで、じっくりと育てられた豊かさを、その中から見つけ出したいと思うのだ。
  羽仁 進 写真
羽仁 進
羽仁 進(はに すすむ)
映画監督・評論家。
1928年東京生まれ。岩波写真文庫の編集者を経て映画監督となる。自由で生き生きした映像描写は羽仁旋風をまきおこし、世界の映画祭にて多数受賞。代表作に『不良少年』『初恋地獄篇』他多数。また、独自の教育論を生みだし著作活動でも話題をよんでいる。近著として『羽仁進の世界歴史物語』『羽仁進の日本歴史物語』等。


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