出雲そば

美味・お国自慢

出雲そば(松江市)
秋から冬にかけて、日本列島の北から南へと
そばの収穫が始まり、新そばが出回リ始める。
有数のそばどころである出雲地方にも、
1年で最もそばをおいしく味わえる
季節が巡ってくる。

出雲そばの発祥は、江戸時代、信州松本藩から松江藩に転封された松平直政が、そば打ち職人を連れてきたのが始まりとも、寒さに強く荒れ地でも育つそばが、古くから度々災害や飢饉に襲われてきた出雲地方で盛んに栽培されたことが起こりとも言われている。今のように細長く切った「そば切り」が松江に広まったのは城下町が形成されたころで、江戸時代後期になると、「連」と呼ばれる趣味人の集まりによって、出雲そばは独自の食文化へと完成された。昭和初期まで、松江市内のそば屋は喫茶店代わりであり、現在も情緒が漂う町並みに交じって、およそ30軒のそば屋がのれんを競っている。

出雲そばの特徴は、灰緑色の色調と、香りの高さ、腰の強さにある。元来、そば粉は、真っ白な中心部が製粉された一番粉、中心部と殻の内側にある甘皮との中間層を挽いた二番粉、甘皮が挽き込まれた三番粉に分けられ、色も次第に濃くなってゆくのだが、実は、そばのうま味や香り、腰の強さとなる粘りは甘皮に含まれているといわれている。一番粉から三番粉までを混ぜ合わせて作る出雲そばだからこそ、甘皮に秘められたそばの特質が生きているのだ。

このそば粉と少量のつなぎ、水を使い、そばを打っていく。まず、こね鉢の中でそば粉とつなぎに水を加えてなじませ、団子状にこねる。次に、団子状の塊をのし台にのせて、麺棒で均一に伸ばしていく。それを、四つ折りにたたんでそば包丁で切った後、苑でて、最後に流水にさらし水を切る。時間にして20分足らずのそば打ちは、店により材料の配合も打ち方も実に多彩で一つとして同じ味はない。しかし、そば打ちがうまくいくかどうかは、どの店も水を加える「水あわせ」で決まる。そばは、水分が多すぎても少なすぎてもつながらず、最後は一滴、二滴の勝負になるという。そばの種類、製粉の仕方、その日の湿度などによって、水の加え方は微妙に違ってくる。流れるように動くそば職人の手が命を吹き込む出雲そばは、繊細な感覚と長年の勘の結晶だ。

こうしてでき上がった出雲そばを味わうには割子そばがいい。そばだけでなく、器や食べ方にも独自性を持つ出雲そばの魅力を一度に堪能できる。割子とは、直径およそ12センチの丸い朱塗りの器で、店で「割子」と注文すれば3枚重ねで1人前。これに、そばの香りを保つという辛口のそばだしを少しかけて、のり、ねぎ、かつお節などの薬味を添え、よくかき混ぜて食べる。

器とそばの色合いが見た目に美しい割子そばは、釜揚げそばや加役そばと違い、そばの食感がそのまま舌に伝わる。透明感のあるやや粗めの冷たいそばをかみしめると、素朴な風味が口いっぱいに広がってゆく。

最近は、松江市内にも出雲そばのうまさを追求し、さまざまな試みに取り組む若い経営者が増え活気づいている。石臼による製粉が見直され、県内産のそばを積極的に使ったり、近年、復活した地伝酒と呼ばれる出雲地方独特の調味酒を、再びそばだしに使う店も出てきた。島根の食文化の傑作ともいえる出雲そばは、伝統という一つの枠に納まることなく、時代と呼応しながらその歴史を刻み続けている。

◎問い合わせ先/松江観光協会 TEL0852-27-5843

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1.「玄そば」と呼ばれる殼付きのそばの実。

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2.体重をかけて、しっかりとこねることが、腰の強さの秘訣だ。

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3.こねあげたそばのかたまりは、みるみるうちにのし台いっぱいに丸く伸ばされていく。

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4.そばを切るには、刃のないそば包丁を使う。大振りな包丁の重さを利用してリズムよく切る。

[コラム]


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