私と島根

加藤登紀子
加藤登紀子
Tokiko Kato

加藤登紀子(かとうときこ)
シンガー・ソングライター。
旧満州ハルピン生まれ。東京大学文学部卒。「ひとり寝の子守唄」「百万本のバラ」などヒット曲多数。日本レコード大賞歌唱賞などのほか、1992年フランス芸術文化勲章シュバリエ章受賞。現在、「さよなら私の愛した20世紀たち」シリーズ全10作のアルバムを順次制作中。'98年11月、シリーズvol.4「TOKlKO BALLAD T バラ色のハンカチ」、vol.5「TOK1KO BALLAD U まっすぐ見つめたい」をTOKlKO Records発足後、第1弾として同時発売。

  写真斐伊川土手

自然に抱かれた人の縁
山の稜線の柔らかさと日本海の表情から、言葉にできない歴史の重みを感じる島根。北西の季節風から家を守る築地松の姿や何気ない家々のたたずまいにも、島根の持つ奥行きの深さを感じ、しっかりと根を張った暮らしの確かさに気づきます。
人との出会いは縁だけれど、それを包括してくれるのが、その土地の自然そのものだと思います。
羽須美村に住む住職口羽秀典さんは、江の川をとても愛している人。私のコンサートをよく聞きに来てくださるのが縁で、これまで彼のお寺で護摩法要をしていただくこと3回。その後、江の川のテレビ特集番組のナレーションをしたり、江の川に贈る詩を作ったりしましたが、そんな縁ができるといつも、その土地の神様に認めてもらえたような感じがしてきます。
初めて出雲市を訪れたのは、1984年の「水と土のコンサート」。地元の自然環境を熱心に考えている人達が集まって開いたコンサートでした。ふるさとの自然を一生懸命大切にしている人達との出会いを包み、私とのつながりをより深めてくれたのが、やはり大きな自然だという気がします。
しかもその時10月を、出雲地方は神無月とは言わず、全国の神様がこの出雲にお集まりになるので神在月だと教えられ、感激しました。きっと出雲の人は、生活の土台と言うか根っこのところで、自然と歴史が育んだ確かなものをたくさん持っていて、東京の人間に比べるとはるかに、古い時代とのつながりを忘れないで生きていられるのだと思います。
みんなががむしゃらに走ってきた今、時代のスピードが少し緩やかになってきた感じがするけれど、この先どういう方向に向かっていくかということを、立ち止まって考える時代のような気がします。日本の歴史がどこから始まって、どんな歴史をたどってきたのかを見つめる時期に来ているんじゃないかと思うのね。その点で、中国や朝鮮半島とのつながりも、大陸に近い島根としては最も大事なテーマとしてあるんじゃないかしら。
そういう意味では、島根の人達が何をどう考えて、どんな風に未来へ向かうストーリーをこの地域から語り始めるのか、とても大切な時期だと感じていますし、私もまた一緒に語りあえたらと思っています。(談)


私と島根「苅谷俊介」
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