体験ルポ
田舎に遊ぶ。六日市町編
 
ありのままの自然を求めるなら、
六日市町がいい。
のんびりと、穏やかに水や花や鳥や
チョウと対話できるから。
時計もかばんの奥にしまってしまおう。
六日市町は、ゆっくり時を刻んでる。
田園風景
田園風景
深谷渓谷に架かる深谷大橋。高さが99.5メートルもある。
深谷渓谷に架かる深谷大橋。高さが99.5メートルもある。

さわやかな初秋の風にほおをくすぐられながら、六日市の里を歩く。迫りくる高い山々は、そろそろ彩りを変えていく準備に取り掛かっている。
六日市町は、島根県の最も南、山口県との県境に位置した町で、国道道187号沿いに開けたのどかな田園地帯。ちょうど、金色に実った稲穂が頭を垂らし、田園はまるで黄金に染まったじゅうたんのようだ。
六日市町に入るためには、大阪や東京からであれば、飛行機で石見空港を利用し、そこから車で1時間ちょっと。中国自動車道を利用するのであれば、六日市インターチェンジを降りればよい。今回は、松江からJR山陰本線を利用し、益田駅で下車。車で六日市町入りとなった。普段、めったに列車に乗ることがない私にとっては新鮮な出来事。
山陰本線からの景色はやはり、素晴らしい。深い紺碧の海に荒々しい波が夏の終わりを感じさせる日本海。益田市に生まれた作家、田畑修一郎が『出雲・石見』の中で語った赤い屋根瓦の家並み。それらが、走る景色の中で目に飛び込んでくるたびに、車窓にくぎ付けになる。
さて、何もかも忘れて景色に見入っているうちに益田駅に到着。ここから車で国道9号を南に向かい、日原町で国道187号に乗り換え通過。そして柿木村を高津川に沿って抜け六日市町に到着した。交通量の割に車道が広く整備してあるため、約1時間の快適なドライブが楽しめる。
車を降りると、冷んやりとした空気が胸に広がり、頭の中がスッキリ。なんだか普段の空気と違うような気がする。うん、おいしい。
まず訪れたのは、コウヤマキの自生林管理棟。六日市町には、約48ヘクタールに及ぶコウヤマキの自生林が広がっており、このうち25ヘクタールが島根県の環境保全特別地区に指定されている。もちろん、町の天然記念物でもある。この管理棟は、町内の「自然と趣味に生きる会」の活動拠点となっているほか、町外から訪れる人々に、地域の情報提供、コウヤマキの展示即売、栽培方法、森林体験の指導を行っている。
このコウヤマキという木は、昔から高野山に多く自生。国内では、六日市町が自生最南端だ。日本特産のスギ科の常緑高木で、水に強いことから舟や風呂、おけなどに使われていたという。高さは約40メートル、先端がとんがり帽子のように成長し、庭園などにも植栽される。六日市町では毎年8月の最終日曜日にコウヤマキ自然観察会が開かれ、地元の「タンポポの会」の皆さんが、手作りの山岳むすびと舞たけ汁で参加者を迎えるという。
次に訪れたのは、水源公園、ここには高津川の水源大蛇ヶ池がある。島根の名水百選にもあげられる池から、こんこんと清水が沸き出ているではないか。川の源流が目に見えるところは全国でも珍しいという。そして、その池の脇には、高さ20メートル、根回り5メートル、樹齢1000年以上といわれる一本杉が、この池を守る神様のように悠々と立っている。ここには、平成7年11月、水源のテーマ館「水源会館」が完成する予定だ。地元の龍神信仰を継承する雨ごい神事や抜月神楽の紹介、水と人間、動植物などのかかわりを追求した展示が行われる。

長瀬峡
長瀬峡

長瀬峡の上流
長瀬峡の上流
深谷大橋
深谷大橋
コウヤマキ自生林管理棟
コウヤマキ自生林管理棟
大蛇ヶ池で行われる雨乞神事
大蛇ヶ池で行われる雨乞神事
水といえば、この町の長瀬峡の水は天下一品、その透明感はどこにも負けない。こんなにたゆたゆと、さらさらとした流れはこれまで見たこともなかった。せせらぎがまるで軽やかな音楽のように心地いい。ふと見ると、ヤマメが泳いでいる。その姿をはっきりと追うことが出来るのだ。水の中に手を入れると、指先が凍るほど冷たい。この清流はいったいどこから流れてくるのだろう。聞くところによると、この川の上流には、風が吹いたり、人が入り込むとガクガクと音が鳴るという伝説の山「ガクガク山」があるという。また、あまりに険しく、足がガクガクして登れないという理由からその名が付いたとも言われている。一説には、県内でも有数の高さを誇る安蔵寺山をしのぐという話もあるが、その「ガクガク山」を登った人はあまりないというから、定かではない。
ここ長瀬峡では、春にはシャクナゲの花見に、夏には避暑で多くの家族が訪れ、川遊びや渓流釣りに興じる。毎年8月中旬には、長瀬峡祭りが行われ、ヤマメのつかみどりや岩滑りが楽しめ、ヤマメはその場で焼いて食べさせてくれるという。また秋には、10月の終わりに見ごろを迎える紅葉を楽しむ観光客でにぎわう。まさに、自然とふれあう格好のビューポイントだ。
  本当に中国山地の山々は深い。思わずため息が出るのは、深谷渓谷にかかる深谷大橋からの眺望。ドキドキしながら欄干をしっかり握り締め下を見下ろすと、高さ99・5メートル下の渓流がまるで筋のような小川に見える。ここでは一斉に芽を吹き出す春の新緑、燃えるような秋の紅葉、雄大な冬の雪山など四季折々の山の風景をたんのうすることができる。
安蔵寺山は、六日市町、日原町、匹見町の3町にわたって雄大な山容をくり広げている。標高は1、263メートル。登山道は日原町と六日市町にあり、この町からは、頂上まで約1時間半かかる険しいコースだ。途中にはロープを伝いながら登る箇所もあり、小学校の高学年位から登れるという。しかし、だからこそ頂上に立ったときの快感は大きく、達成した満足感があるというものだ。登山道には大小の奇岩が点在し、高山植物が咲き乱れる。そして頂上から日本海と瀬戸内海の両方が一望できる。また、ブナの原生林は、日常のけんそうをすっかりかき消してくれる。
「六日市町は空気がおいしいんですよ。それから、川のせせらぎと虫の声。のんびりと、何にもせかされることなく過ごすには、最高の場所ですね」。今年完成した、研修施設なつめの里の管理人のおじさんが、にこやかに話す。また、近年高尻川リバーサイドログハウス村も完成し、夏は予約がいっぱいだという。これから、観光開発が本格的になると聞きながら、どうか、いつまでもありのままの自然でありますようにと、心の中でつぶやくのだった。
安蔵寺山登山道入口 写真 毎年8月中旬に行われる長瀬峡祭りでは、子供たちが岩滑りやヤマメのつかみどりを楽しむ

17号目次へ