写真
体 験 ル ポ
機織りに挑戦!

シャー、トントン、シャー、トントンと
軽やかな音を奏でながら織り上げられる絣(かすり)
昔ながらの技法を今も受け継ぐ
絣織の世界をのぞいてみました。

島根県の東端に位置する広瀬町。戦国時代は尼子氏の根拠地として栄えた城下町で、月山富田城(がっさんとだじょう)をはじめ数多くの史跡が残っている町である。
今回は、この町に伝わる伝統工芸の広瀬絣に挑戦するため、広瀬絣センター内にある広瀬絣伝習所を訪ねた。広瀬絣は文政7年(1824)町医者長岡謙祥の妻、貞子が伯耆国米子町(鳥取県米子市)から絣の染織を伝授されて帰郷し、町内の女性たちに伝えたのが始まりとされている。大柄な絵文様、洗えば洗うほど風合が増す正藍染めが特徴。工程は「型付け」「絣くくり」「藍染め」「管かき」「織り」の5つに分けられる。チャレンジするのは、この工程の「管かき」と「織り」。ただし、初心者が絣糸を扱うのは大変ということで、毛糸を使用することになった。先生は吉原和子さん。昭和56年に創立したこの絣伝習所の2期生で、絣織り歴は17年。ほかに3名の先生がいて、30名の生徒が週3日、広瀬町や周辺の市町村から通っている。
「管かき」は、毛糸(本当は藍で染めた綿糸)を符割(ふわり)にかけ1本ずつ糸車を使って7cmほどの竹管に巻き取る作業のこと。右手で糸車を回しながら左手を糸に添えてきれいな楕円形に巻き取っていく。
そして、メインの「織り」。経糸(たていと)は足元の千切りに巻かれ、そこから細かく区切られた2枚の綜(へ)を通して手前に巻き取っていくようにあらかじめセットしてある。竹管に巻いた糸を杼(ひ)にかけて、経糸の間を右から左へ渡したら左足を踏んで経糸を交差させ、筬(おさ)を手前に数回たたく。ここまでが一区切り。糸が1本織り込まれるだけでほんの数ミリの作業。地道な作業だ。これを繰り返していく。機織りといえば昔話「鶴の恩返し」が頭に浮かぶ程度で、道具を見るのも初めての私にまさに手取り足取りの指導をしてもらった。しかし、実際にやり始めると、頭ではああやってこうやってと分かっているつもりなのに手が、足が止まってしまう。簡単そうに見えていたけれど、これはなかなかてこずりそう。中学生になって家庭科の時間に家でも見たことのなかった足踏みミシンを初めて使ったとき、逆走したりベルトが切れてしまったりして全く使えなかったことを思い出した。難しかったのは杼を渡す作業。杼は「管かき」で緯糸(よこいと)を巻き取った竹管をかけて左右に渡すもので、裁縫でいうと針の役目といえる。車が付いているので渡すというより滑らせるといったほうが分かりやすい。シャーと軽やかな音とともに動くはずがドテッと糸の間から床に落ちてしまう。「力加減が大事よ」と言われ、気を付けるつもりが強くて飛び出したり、弱くて途中で止まってしまう。何事も程よくというのは難しい。それに右手と左手、右足と左足、4本全部を使うこと。順番に動かす作業は思ったよりも大変で、しばらくこんな連動はしたことがなかったと実感した。
頭の中は「右、左、足、手、、、」の4文字だけで、糸を操るはずが逆に機織り機に操られているような感覚になる。
それでも20分、30分とぎこちないながらも続けていくと、少しずつ織物が出来てくる。(というより、筬の下から出てくるという感じ)「なかなかいいわよ」と言われて嬉しくてつい手や足が早くなると、糸の間から杼が床に落ちたり、順番を間違えて先生に助けを求めることになってしまう。何事も緊張感と集中力が必要だ。
「リズムが大事よ」と先生の言うとおり、シャー、トントン、シャー、トントンとゆっくりでもテンポが良いと織り目もきれいだし、気分も良い。そして、とうとう数時間をかけてテーブルセンターと呼べそうなものが完成した。不揃いなところも含めて「良い出来」と自己満足。
「全ての工程を自分の手仕事で仕上げるのが何より楽しみ。洗うほどに深まる藍の色もいいわね」と吉原さん。絣織は「織り」にたどりつくまでの工程、絣糸がきちんと準備できることが重要で、見事な柄に織り上げるためには根気と時間と知恵を要する。全てが手仕事の中で、技法とは別に作り手の心や生命力が絣に吹き込まれていく。藍の色と同じく絣織の奥は深いようだ。 女性にとって絣を織ることは、昔は家計を助けるとともに、日常から離れ平静な時を過ごせる場でもあったらしい。数時間の体験ではあったけれど、単調で地道な繰り返しの中に、何か穏やかな気持ちを呼び起こすことができた。
杼を渡す作業が難しい
杼を渡す作業が難しい。
  糸車を使って「管かき」をする
糸車を使って「管かき」をする。

地図 ◆広瀬絣センター
 TEL0854-32-2575

〒692-04島根県能義郡広瀬町町帳775-1
開館/10:00〜17:00 入館無料
休館/11月15日〜3月15日の毎週水曜日・年末年始
※松江市から車で約30分。
 広瀬絣伝習所のほか物産コーナー、喫茶室もある。
 機織りのほか、藍染めの体験ができる。
外観

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