写真 対談 島根を語る

里中満智子 里中満智子
さとなかまちこ
(漫画家)
大阪市生まれ。昭和39年「ピアの肖像」で第1回講談社新人漫画賞を受賞しデビュー。昭和49年には「あした輝く」「姫がいく!」で第5回講談社出版文化賞受賞。以後「アリエスの乙女たち」「あすなろ坂」「天上の虹」など数々のミリオンセラーの作品を発表。最近はテレビのコメンテーターとしても活躍中。
澄田 信義
すみたのぶよし
(島根県知事)
島根県出雲市出身。東京大学法学部卒。和歌山県警察本部長、日本国有鉄道常務理事を経て、昭和62年より現職。
澄田 信義


豊かな緑と潤いはいかにも神話のふるさと
知事 里中さんは夏に放送されたテレビの紀行番組「出雲・神話の主人公たち」の中で、八雲村の熊野大社においでになりましたね。島根にはよくいらっしゃるんですか。
里中 奈良・飛鳥時代の歴史を題材とした作品をかくことが多いので、神話で有名な出雲には大変興味を持っているんですが、実はまだあまり訪ねたことがないんです。
知事 出雲地方には今でも神話の世界が生きているようなところがあるんですよ。
里中 そうですね。何かただ事ではない地域だなという感じを受けました。雰囲気があるんです。飛行機の上から見た雲が、緑深いほどよい高さの山々を白く流れていく眺めなど本当に素敵でした。緑が豊かな上に空気に潤いがあり、いかにも"神話のふるさと"ですね。反面、熊野大社に伺った時、その日は朝からもうピカピカに晴れ渡ってまぶしいくらいだったり。表情の移り変わり具合も素晴らしいですね。
知事 "八雲立つ出雲"といわれるように雲が立ちのぼって荘厳な感じがする時もあれば素晴らしい晴天の日もあり、季節や時間によって千変万化のたたずまいがありますからね。
里中 私は物語がおもしろくて子供のころからよく神話を読んでいたんですけれど、神話というのは単なる作り話にすぎないと思っていたんです。でも、大人になって歴史的背景などについて知識を得るうちにとらえ方が変わってきました。神話には国造りの過程など歴史的事実や、民族の基礎となる考え方が色濃く反映されています。私にとって出雲地方は、まさに日本の成り立ちを感じさせられる所ですね。
知事 神話の中に出てくることが伝統行事として残っていたり、あるいは神話にちなむ地名が残っていたりすることに、私も一種独特の何ともいえない郷愁のようなものを感じます。出雲大社の近くにある稲佐(いなさ)の浜は神話でいう"国譲りの浜"なんですが、物語の舞台となったその浜で、子供のころはよく海水浴をしたものです。
里中 稲佐の浜には今も伝統行事が残っているんですか。
知事 旧暦10月には、出雲大社の神官による「神迎えの神事」が行われています。10月は全国的には神無月(かんなづき)なんですが、八百万(やおよろず)の神々が集まられることから出雲地方だけは神在月(かみありづき)になるんです。出雲大社で縁結びの会議を終えられた神様はその後鹿島町の佐太神社にしばらく逗留され、いよいよ各地に向けて旅立たれる日には斐川町の万九千(まんくせん)神社にお立ち寄りになるといわれています。八岐大蛇(やまたのおろち)退治で知られる斐伊川のほとりにあるこの神社では神等去出(からさで)祭という神送りの神事が行われるんですよ。「万九千」という名称には「たくさんの」という意味があるでしょうし、神社のある神立(かんだち)という地名は神様の「お発(た)ち」からきたものです。
里中 なるほど、地名の中にも神話の世界が鮮やかに広がっているんですね。

遥かなる古代出雲の輝きに魅せられて
里中 西日本というのは基本的に"スサノオ伝説"の地域ですよね。
知事 島根ではスサノオ神話は主に神楽という形で今日に伝えられています。県西部の石見(いわみ)地方では大蛇退治などスサノオを題材にした石見神楽が大変盛んです。「八調子」といい、非常にテンポの良い神楽なんですよ。
里中 大蛇退治は分かりやすくて、とても面白いですね。民族が持っている血のようなものを感じます。
知事 そしてスサノオ伝説をはじめとする神話の世界には、古代出雲の輝きが非常によく表されています。
里中 その古代出雲を象徴する建物が出雲大社ですね。
知事 出雲大社は社殿の高さが現在は24メートルですが、昔はその2倍だったといいますね。さらに古い言い伝えによれば、100メートル近くあったんじゃないだろうかという推測も可能です。また古い文献には「雲太、和二、京三」という記述があります。京というのは京都の御所で、これが三番目。和というのは大和の大仏殿でこれが二番目。雲というのが出雲大社のことでこれが一番だというのです。大仏殿より大きいというのですから100メートルとまではいかなくとも大変大きな社殿だったことは間違いないでしょう。
里中 さぞ荘厳で迫力があったんでしょうね。古代の出雲大社をこの目で見たかったなという気がします。
知事 古代出雲の輝きを象徴するもうひとつのものとして、斐川町の荒神谷(こうじんだに)遺跡があります。10年ほど前、それまでに全国で出土した総数を上回る358本もの銅剣が一挙に出土し、しかもそれが整然と並べられていたことから大変話題を呼びました。翌年にはさらに銅鐸6個と銅矛16本が出土しています。異なる文化圏を形成すると考えられていた銅鐸と銅矛が同時に出土した例はそれまでに無く、従来の学説を覆すことになりました。
里中 とても貴重な遺跡ですね。

つぎへ

14号目次へ