2017(H29)年 年報
3)インフルエンザ定点感染症の流行状況:表5〜10、図1〜4
インフルエンザ報告者の年齢区分割合
 2017(H29)年のインフルエンザ報告数は8,846件(定点あたり232.8、流行指数1.07)とかなり大きな流行であった。
 例年にはなかった2017年の特徴として、季節外れとも言える8月に隠岐でA型の中流行が見られ、その少し後に松江でも小流行が見られたこと、冬場の流行期に入るのが11月後半と早かったこと、A型の流行が先行したのは例年と同じであったが、ほぼ同時期にB型の流行も始まり、(2018年)1月後半にはB型がA型を凌駕し、B型の流行は例年にない大流行で、AB合わせての流行が12月後半から3月中後半まで集中的に見られたこと、流行の時期に県域差がほとんど見られず同じ時期に流行が始まり、ピークも同じであった、ことなどである。
 A型はAH3(香港)型とAH1(2009pdm)型の2種が検出されており、1シーズンに2度罹患した人もいたとの報告も上がっている。
 インフルエンザの罹患年齢(図1)においては、2013(H25)年以降の傾向として、年齢間の差が少なくなり、60歳以上の割合が上昇していることがあげられる。2017年も同様の傾向が見られており、成人の報告が3割弱となっている。
4)小児科定点感染症の発生状況
 2017年のインフルエンザも含めた総患者数は24,480件であり、過去10年間では第8位と下位であり、流行指数も0.92であった。インフルエンザはやや多かったが、感染性胃腸炎の大きな流行がなく、全体の件数を押し下げる要因となっている。
流行指数(2017年報告数/(2007から2016年の平均報告数))
(1) 全県的な感染症の流行状況:表5,図2
流行指数(2017年報告数/(2007から2016年の平均報告数))
ア) 患者報告数が特に多かった疾患 _ ( )は流行指数
流行性耳下腺炎:1,320件(2.05)
2015年に始まった流行は2017年にピークを迎え、収束に向かう過程の中、2015年とほぼ同数の患者発生報告数となった。10月で2年間にわたった流行はほぼ収束した。現在のところおたふくかぜワクチンは定期接種の対象となっていないため、4から5年毎に流行すると予想される。合併症であるムンプス難聴は無視できない率で発生すると言われており、早期のワクチン定期化による予防が望まれるところである。
百日咳 : 13件(1.71)
2008年の19件以外ずっと1桁の患者数であったが、2016年は15件、2017年は13件の患者発生報告があった。4種混合(DPT-IPV)ワクチンで克服された過去の病気と思われがちであるが、忘れてはいけないと警鐘を鳴らしてくれたのかもしれない。
A群溶連菌咽頭炎:2,966件(1.63)
2014年にそれまでと段違いに多くなり、以後毎年多いレベルが続いているが、2017年は3000に近い患者数と大流行とも言える発生数であった。これは、簡易検査キットが普及し、小児科医が検査をたくさん行うようになったことも関係しているように思われる。
RSウイルス :1,180件(1.59)
2011年10月から非入院の場合の検査も保険適応となっているため、2011年までと2012年以降は分けて見るべきである。例年よりも早い8月初めから流行が始まり、8月後半?11月前半がピークの過去最大の流行となった。全国的に流行の時期が早まったり、季節性が薄くなったりしていると指摘されているので、今後は夏季から注意を要する疾患である。
手足口病:1,935件(1.45)
2011年(3,659件)の大流行以来、隔年で流行する傾向にある。2017年は6月に流行が始まり、7月後半?8月前半がピークの大流行であった。この時期に提出された病原体定点で多く検出されていたウイルスはエコーウイルス18型で、高熱を伴う症例が多かった。10月から12月にかけても小さな流行が継続していたが、この時期の症例は発熱は少なく、ウイルスはCA16にが多く検出されている。
イ) 患者報告数が例年並みであった疾患 _ ( )は流行指数
突発性発しん :691件(0.87)

「流行」とする疾患ではなく、2007年以降691件から917件と変動幅は小さい。本疾患が毎年ほぼ一定数登録されているということは、本サーベイランスが安定的に機能していること、定点医療機関が精度的にも問題が少ないことを示していると考えられる。
ウ) 患者報告数が例年より小さかった疾患 _ ( )は流行指数
水痘:282(0.21)
2014年10月から水痘ワクチンが定期接種化された。2013年までは毎年1,400件を超えていたのが、2014年1,117件、2015年428件、2016年331件と、ワクチンの効果が顕著であることがこのデータからも明らかである。
感染性胃腸炎:6,071件(0.61)
 2017年は過去10年間で最も少ない患者発生報告数となった。原因ウイルスとしてもっとも多く検出されているのはノロウイルスである。基幹病院定点におけるロタウイルス胃腸炎も、2016年に比較して減少しており、こちらはロタウイルスワクチンの普及が影響しているかもしれない。
咽頭結膜熱 :403件(0.62)
過去10年間では3番目に少ない報告数となった。2016年の1,202件から大幅に減少している。
ヘルパンギーナ : 447件(0.70)
夏季に流行する代表的な疾患であるが、2007年(1,030件)以降、大きな流行はみられていない。2017年は過去10年間の中で少ない方であった。松江圏域を中心に、6月ピークで5?9月に流行した。
伝染性紅斑 :223件(0.86)
前年に大流行したためか、今年は非流行年であった。2017年は年初から西部から中部地区にかけて注意報レベルを超える患者発生報告が見られていたが、6月以降は散発的な報告にとどまった。
(2) 地区・圏域別にみた流行指数:表6、7、9、図2
ア) 各地区での流行指数の上位疾患(突発性発しんを除く) _ ( )内は流行指数
東部(隠岐を含む) :A群溶連菌咽頭炎(2.20)、RSウイルス感染症(1.72)
中部 :百日咳(3.25)、手足口病(1.78)、RSウイルス感染症(1.57)
西部 :手足口病(1.89)、伝染性紅斑(1.64)、RSウイルス感染症(1.36)
イ) 定点当りの報告数が特に多かった圏域 _ ( ) 内は定点当りの患者報告数
RSウイルス感染症:出雲圏域(81.8)、松江圏域(71.9)、益田圏域(39.7)
咽頭結膜熱 :出雲圏域(25.4)、松江圏域(22.6)、益田圏域(23.0)
A群溶連菌咽頭炎 :松江圏域(232.1)、出雲圏域(186.0)、隠岐圏域(116.0)
感染性胃腸炎 :大田圏域(412.0)、松江圏域(385.3)、出雲圏域(276.4)、益田圏域(209.7)
水痘 :出雲圏域(15.2)、松江圏域(13.1)、雲南圏域(12.5)、大田圏域(12.5)
手足口病 :益田圏域(128.7)、出雲圏域(117.6)、雲南圏域(91.0)、隠岐圏域(72.0)
伝染性紅斑 :雲南圏域(24.0)、益田圏域(17.7)、浜田圏域(11.7)、隠岐圏域(11.0)
ヘルパンギーナ :出雲圏域(31.4)、松江圏域(24.1)、雲南圏域(24.0)
流行性耳下腺炎 :出雲圏域(120.6)、雲南圏域(106.0)、益田圏域(81.0)
(3) 感染症患者月別発生状況:表8、9、図4〜6
 月別(1か月は4週に換算)にみた県全体の全疾患の患者報告数(インフルエンザを含む)は、インフルエンザの流行を反映して1月(3,351件)、2月(3,888件)の2月だけ3,000件を超え、その後の3月と次のシーズンにかかる12月が2,000件を超えた。春から秋にかけての4?11月は1000?1,600件の範囲で推移した。夏期に少なく、冬期に多いのは例年と同じ傾向であった。




月別の報告患者数
月別の報告患者数
月別の報告患者数

− 流行の季節変動 −(月別報告数は1か月4週に換算)

RSウイルス感染症 :2016/2017年シーズンの後半である1月は36件の患者数であったが、2月には17件と減少し、2月末で収束した。2017/2018年シーズンは、8月から始まり、9月の520件がピークで、10月268件、11月84件、12月54件と、ピーク時の山が大きく、流行が長く続く状況となっている。2016年よりも早く始まり、大きな流行となった。
咽頭結膜熱 :報告数は403件で、過去10年でも少なかった。5月と6月にやや報告数が増加した。
A群溶連菌感染症 :2〜6月の冬期から初夏に掛けて多く見られた。夏から秋にかけてはやや少なく推移していたが、12月に増加している。
感染性胃腸炎 :一年を通じて目立った流行のない年となった
水痘 :2014年10月に始まった1〜2歳児の定期予防接種の効果で、2017年はさらに減少して282件に留まった。もっとも多かった2006年の2157件からみれば著減であり、ワクチンは著効している。季節性変動を云々できないほどの減少である。
流行性耳下腺炎 :総報告数は1,320で、2015年に始まった流行が2017年前半にピークとなった。中部地区、西部地区を中心に10月まで報告数が多い状態が続いた。
(4) 定点別把握疾患の年齢別患者数の分布:表10
RSウイルス感染症 :RSウイルス抗原検査の保険適用対象が、2011年10月に入院を前提とした患者から、1歳未満という年齢のしばりはあるものの、一般外来患者にも拡大された。そのため、2011年以前とその後を比較しても意味をなさない。
年齢分布は、生後6か月までの乳児13.5%、生後7〜12か月の乳児23.1%、1歳代34.9%、2歳代18.0%であり、これらで約9割というのはいままでと同じであった。RSウイルスは一生繰り返し感染するが、特有の気管支炎鼻炎症状を呈するのは乳幼児のみ、という今までの報告に合致する結果であった。
突発性発しん :生後6か月までの乳児2.5%、生後7〜12か月の乳児41.0%、1歳代51.7%であり、これらで95%を超えた。例年と同じ傾向である。
百日咳 :昨年(2016年)に引き続き10件を超える13件の報告があった。6ヶ月未満の乳児の報告が最も多く7件で、ほかに3歳、5歳および6歳が1件ずつ、20歳以上が3件となった。6ヶ月未満は定期接種開始前か接種途中であり、20歳以上は乳幼児期の予防接種から時間が経過し抗体のレベルが低下していた可能性がある。定点把握のため総件数は少ないが、忘れてはいけない疾患であると警鐘を鳴らしてくれたともいえる。


1歳代が最多であった疾患 (  )は1歳代の占める割合:咽頭結膜熱(44.7%)、手足口病(39.5%)、ヘルパンギーナ(34.0%)、感染性胃腸炎(23.4%)であった。ここ数年と同じ傾向が見られている、


その他の年齢が最多であった疾患 : A群溶連菌咽頭炎(4歳、15.6%)、伝染性紅斑(5歳、16.1%)、流行性耳下腺炎(4歳、16.1%)。
成人の流行性耳下腺炎: 2012年以降一桁で推移していたが、2016年は10件、2017年は41件あった。流行性耳下腺炎の流行に従って増加したと思われた。
2016年の特徴
水痘:2014年10月からのワクチン効果で減少傾向を続けている。好ましいことである。
A群溶連菌咽頭炎:2014年からの流行が持続した。1?2月に特に多かったが、1年を通して認められた。
咽頭結膜熱:大きな流行は見られなかった。
インフルエンザ:総件数は、2015/16年シーズンとほぼ同数だった。AH3(香港)型が主流で1月から3月にかけて流行した。
RSウイルス:流行は8月から始まり、9月がピークで、12月末にはかなり減少したが流行は継続した。
手足口病:2年ぶりの流行となり、7月から8月に流行した。
伝染性紅斑:前半にやや流行したが、後半には終息した。
ヘルパンギーナ:6月から8月にかけて流行した。
5)眼科定点感染症の流行状況:表5、6、7、8、9、10、図7,8




眼科定点の報告患者数
流行性角結膜炎の年齢分布
基幹病院定点の報告患者数

(1) 急性出血性結膜炎
急性出血性結膜炎:非常に伝染力の強い結膜炎であるが、2017(H29)年は島根県での発生の報告はなかった。
(2) 流行性角結膜炎
 2017(H29)年は、全県で14件の報告があった。東部5件、中部3件、西部6件であった。2015(H27)年の52件の大流行の後、感染に対する注意喚起が功を奏し、2016(H28)年12件、2017(H29)年14件と、大きな流行は見られなかった。全県での月別報告では、8月から12月にかけ散発し、8月の夏季の報告は3件と少なかった。年齢区分では、20歳から39歳までの報告が7件と最も多かった。アデノウイルス感染による咽頭炎などに伴う発症が多いものと推察される。
 流行性角結膜炎は感染力が強く、家庭内発症や職場、学校での集団感染を起こしうるので、早期の発見と診断が重要である。感冒症状を伴う結膜充血や眼脂が見られる場合、アデノウイルス感染症を念頭に置いて、対象患者の発症状況や周辺環境を含め詳細な問診が重要であり、さらなる流行の予防のための丁寧な生活指導、治療が重要であると思われる。
6)基幹定点把握疾患の発生状況:表5、6、7、8、9、10、図9
(1) 細菌性髄膜炎 :3件(0.45)
出雲圏域から2件、大田圏域から1件報告があった。
(2) 無菌性髄膜炎 : 20件(0.49)
各月0〜6件と、通年的に少数の報告が続いた。
(3) マイコプラズマ肺炎 :64件(0.55)
県内全域での報告数は例年より少なかったが、雲南圏域で32件とやや多い報告があった。
(4) クラミジア肺炎 :2件(0.63)
2007年以降、年間1〜6件の報告がある。2017年は11月に出雲圏域から2件報告があった。
(5) 感染性胃腸炎(ロタ) : 52件
3月から6月にかけて流行し、11月と12月にも患者発生報告があった。